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朔は泣いちゃダメ
「ま~くん…」
「何?さっくん」
「ま~くん…ゆうくんの事、好き?」
「好きだよ?さっくんも、しゅうくんの事、好きでしょ?」
すげぇ昔の夢見た
あんなの、記憶の片隅に覚えてたんだなぁ
何となく離れられず
大和と一緒にベットで寝たから、思い出したのか?
ぐりんと後ろ向くと
大和も、こっち向きになってた
大和の髪を撫でる
触り心地抜群
「…ま~くん」
「……ん」
「お前…どうしたんだ?なんか、頑張り過ぎたのか?」
「ん~……いいよ」
「ふっ…何がだよ?何でもかんでも、いいよって言うな」
こう見えて、俺は弟を溺愛している
もちろん、ユウも四葉も可愛いが
第3者が見たら、可愛いとは思わないかもしれないが
シュウが1番可愛い
けど
実は小さい頃…
シュウの事が…ちょっとだけ好きじゃなくなった事がある
4歳頃の話だ
早い話がヤキモチだ
その時は、そんな言葉も知らず
何故だか分からないまま、嫌な気持ちだけが増えてって
シュウも、父さんも母さんも、自分も…
とにかく嫌な気持ちになってった
大和と会うのは、ほっとした
大和だけは、俺と同じだって思ってたから
大和だけは、俺の事分かってくれるって思ってたから
シュウの事が好きかと聞かれて、なんて答えたらいいのか分からなくなって
俺は…
「……~っわかんない」
そう言って、泣き出してしまった
ほんとに、分からなかった
好きだって言えないのが、凄く悲しかった
それまでの、分からないけど嫌な気持ちでいっぱいだったのと
大和に会えて、ほっとしたのと
色んなのが、ごちゃ混ぜで
大和の前で、泣き出した
「…さっくん?」
「ふっ…うっ……うぇっ…う~~」
泣き出した俺に気付いて
母さんと、大和のおばさんが慌てて来て
大和は、どうしたの?って聞かれても説明出来ず
けれども、シュウを置いて来てくれた母さんが
俺を抱き締めてくれる事が嬉しくて
それなのに…また嫌な気持ちになって
ほんとに、分からなかった
小さな頃、考えられる事なんて、ほんの僅かで
分からないけど、母さんに抱き締められてるうちに、泣き止んで
泣き止んだら、なんだか気分がスッキリして
俺はまた、大和と遊び始めた
母さん達と離れて、大和と遊んでると
「さっくん」
「なに?」
「さっくんは、しゅうくんの事、好きだよ?」
大和が、不思議そうな顔をして、そう言ってきた
まるで、それが当然なのに
何故分からないのかと言う様に
「どうして?」
「だって、僕が、ゆうくんの事好きだから。さっくんは、しゅうくんの事好きだよ?」
今思えば、訳が分からない
俺の兄弟と、大和の兄弟は違うし
父さんも母さんも違う
なんかもっとこう…
シュウを嬉しそうに見てるよとか
ちゃんとお兄ちゃん出来てるよとか
なのに…
何故だか俺は、物凄く腑に落ちた
あ、そっか
って思えた
なんか…
とにかく同じって思ってたからなのか
大和がそうなら、そうだよなって思ってたのか
「僕…しゅうくんの事、好きなんだね?」
「うん。そうだよ」
言葉に出したら
なんだか、そんな気がしてきて
自信が持てたみたいだった
ヤキモチが分からなくて
ヤキモチの嫌な気持ちより
あんなに喜んで、可愛いと思ってたシュウの事を…
嫌いになってしまったんじゃないかという…不安の方が大きかったんだろう
なんだ
ちゃんとシュウの事、好きだった
そう思ったら、色んなモヤモヤした気持ちが薄れてって
シュウが可愛い!って気持ちが爆発して
「しゅうくんのとこ、行く」
「うん。行こ」
ヤキモチが、何となく分かる様になるまで
時々モヤモヤする事は、あったけど
嫌な気持ちは、シュウの事を嫌いな訳じゃないって思えるのは
とても心強かった
「ふっ…おかしいよなぁ…めちゃくちゃな理論だ」
大和の髪の毛を、指に絡めて、くるくるする
「お前がユウを好きなのと、俺がシュウをどう思うかは、全然別問題なのにな」
「……ユウ?」
寝てても、ユウに反応すんのかよ
「ユウ…可愛い?」
「ふっ…可愛い」
「ぶっ!…くっくっくっ…」
どんだけだよ…
「シュウは?可愛い?」
「ん…でも…1番…さっくん…」
「…え?1番?」
「しゅうくん…1番…可愛いの…さっくんだよ…」
「………うん…ありがと」
なんとなく…気持ち、分かってたのかな
お互い幼くて、上手く気持ち伝えれなかったけど
なんか…伝わったんだろな
「俺も…なんか、よく分かんなかったけど、お前から貰った言葉で元気出たよ」
言葉が未熟な分
言葉以外の事、感じ取るの上手かったのかな
「ふっ…お前、こんなに寝言言うって、知らないだろ…」
なんか分かんないけど分かる
傍に居なくても繋がってる
それは…未だに何処かに残ってる気がする
今、何時だ?
あ...スマホは、一応敷いた布団に置きっぱだ
ちょっとベッドから降りようとした時…
「朔…」
え?
起きたのか?
「何だ?」
「…………」
なんだよ、寝言かよ
紛らわしいタイミングで、声掛けやがって
ベッドから降りて、スマホをゲット
げ…
2:30
めちゃくちゃ夜中だった
大和も寝てるし、このまま布団で寝るか
そう思って、布団に入ろうとした時…
「朔…」
また寝言か?
「どこ…」
ここだっつ~の
「朔は…泣いちゃ…ダメだから…」
……え?
「どこ…早く…見付けなきゃ…」
な…
「朔…どこ…」
「ここ!ここに居るから!」
急いで大和の手を握る
「大丈夫だから…泣いてない」
「ん…なら…いい…」
何それ
何だよそれ
お前…
そんな気持ちで…俺の事探してたの?
俺…
「お前に関係ないだろが!」
俺…
「意味分かんねぇ事で、俺に絡んでくんな!」
「ごめん…ごめん大和…」
「ん……いいよ」
「~~っ…ちっとも…良くねぇから……ごめんっ…俺…お前の気持ち…全然分かってなかった…」
母さんが心配するとか
それも、あったろうけど
お前…
1番肝心なとこ、言ってくれてねぇじゃん
「………朔?…泣いてんのか?」
ここで、起きんなよ
「……泣いて…ねぇよ」
しっかり泣いちゃったじゃねぇか
「……そんなとこ居ないで、とりあえず、こっち来い」
今、隣行ったら、しっかりバレんだよ
「……ったく…手のかかる奴だな」
そう言うと、大和がムクリと起き上がって
「あのな、俺はシュウじゃないんだ。お前が泣いてんの見たからって、別にどうにもなんねぇんだよ。分かったら、さっさとこっち来い!」
グイッと、握ってた手を引っ張られる
いや、お前…寝言でしっかり言っちゃってんだよ
お前…俺が泣かない様に探しちゃってんだよ
それ、俺にバレちゃってんだよ
「おら、さっさと横になりやがれ」
そんな悪魔ぶったって
「夢でも見たのか?子供かよ…」
その、優しい触り方で分かっちゃうじゃん
「あんま、泣くな…」
無理だっつ~の
どうしてくれんの?
悪魔の中身なんか…知りたくなかったのに
大和は…絶対知られたくないだろうに
知っちゃったよ
どうしてくれんだよ…くそっ…
俺の前では、悪魔じゃなきゃダメなんだって
だってお前…
天使ばかり使い過ぎて
すげぇ疲れて来んだから
俺に理不尽な事言ってる時は
俺の前で悪魔になってる時は
何にも考えないで居られるだろ
俺にまで気遣い出したら
お前…壊れちゃうだろ
「……もっ…泣き止んだ…離せ」
「あ?こんな、泣きじゃくってんのに?」
「うるせっ…もう…止まるんだよ」
「……未だに夢に見て…そんな泣く様な事…誰かにされたのか?」
ちげぇわ…アホ!
お前のせいで、泣いてるんだっつ~の!
「……俺が…4、5歳頃…」
「…は?」
「突然…シュウを連れて、母さんが居なくなって…」
「待て…何の話だ?」
「俺は、父さんと居て…そしたら、母さんだけが戻って来て…まあ…俺が何かの感染症にかかったから、シュウにうつらない様に、婆ちゃんとこに避難させただけなんだけど…」
「はあ?その夢見て泣いてんの?お前…」
違うわ
違うけど、そうしとけよ
「シュウが、どっかにもらわれたとか思ったんだよ。幼かった俺は、もう一生会えないんだと思って、すげぇ泣いたんだよ」
「あっそ……ま、分からなくはないけど」
「俺…シュウの事、溺愛だから」
「俺のが、ユウの事、溺愛だわ」
知ってる
それで、お前に救ってもらったんだよ
「ふっ…キモッ…」
「はあ?じゃあ、お前だってキモいだろが」
「俺のは常識範囲内だ。兄弟でキスなんかしねぇわ」
「あ?ユウ見たらキスしたくなるだろうが。分かんねぇの?お前の目、どうなってんの?」
そんな事言ったって
抱き締めた腕ほどかないで
ベッドから追い出さないで
ほんの少しずつ
悪魔が綻び始めてんの、気付いてる?
別に悪魔じゃなくたっていいよ
天使だろうが、大魔王だろうが、妖精さんだろうが
俺の前で、色々吐き出せりゃいいんだよ
「やっぱ、キモッ…」
「キモくねぇわ。ユウの全てが可愛いさしかないだろが」
お前が俺に泣いて欲しくない様に
俺もお前に壊れて欲しくないんだよ
「キモッ…」
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