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父親としての責務
洗面所に行くと、朔兄が顔を洗っていた
「朔兄…」
「ん~?タオル、あんがと」
俺が渡したタオルで、ゴシゴシと顔を拭く
「大和と喧嘩したの?仲直り出来た?」
「……喧嘩じゃないけど…ま、仲直り出来たから、心配すんな」
「そっか…朔兄…」
「何だ?」
「…朔兄だけだから……辛くなったら、俺のとこ来て、愚痴言ってもいいよ?」
「ユウ…」
俺も、四葉も、シュウも
大和に優しくしてもらってるのは
朔兄のお陰な気がする
少し驚いた顔の朔兄が
「ありがと…」
と、抱き締めてきた
「俺、何も出来ないけど、話くらい聞けるよ?」
「ん…ユウは可愛いな」
「ダメ~~っ!!」
え?
洗面所の入り口に、四葉が居た
いつの間に…
「ユウは、シュウ君か大和なの!」
「ふっ…はいはい。俺は、弟としてユウを可愛いって意味だぞ?四葉」
「なら、いいよ!」
「だろ?」
簡単!
そして、さっさと退散した
何しに来たの?四葉…
「ユウ…シュウに嫌な事や、無理な事されてないか?」
「うん…」
朔兄も、色々知ってるんだろな
「朔兄から見て、シュウは、ほんとに俺の事好きだと思う?」
「まあ、そうだろうな」
「じゃあ、俺は?俺もシュウの事、好きそうに見えない?」
「ユウ…」
朔兄が、びっくりしてる
でも、聞きたい
朔兄は、皆と違うから
真っ直ぐ…そのままを伝えてくれるから
「そうだな…まだ分かんねぇかな」
「まだ…分かんない?」
「そ。絶対無理だったら、今頃シュウはユウの近くに居られない。けど、シュウの気持ち知っても一緒に居られて、一時的な感情とは言え、シュウにキスしたんだろ?」
「うん」
「だから、幼馴染みで男ではあるが、好きになる可能性はある。が…まだ今のところ分からない…だ」
可能性はある
まだ今のところ…
「そ…そっか!」
「ふっ…納得か?」
「うん!凄く!」
「そりゃ、良かった」
そっか
シュウの事嫌いになってないけど
シュウと同じ好きではない
でも…
これからシュウと同じ好きになる可能性はある
なんか…
凄く頭も気持ちもスッキリ!
「朔兄~」
「あ?うおっ!何だ?」
リビングのドアを開けた朔兄の後ろから、抱き付く
「朔兄~朔兄~」
「あ?なんで、そんな懐いてくんだ?」
「あ!そこ!あんまりくっ付かないで!」
「え?ユウ!なんで朔なんかに引っ付いてんだ?!こっち、おいで!」
大和に引き剥がされた
「ダメだろ?朔なんかにくっ付いちゃ」
そう言って、大和が抱き締めてくる
「そうだよ!大和ならいいよ」
「相変わらず、お前らの兄弟愛は歪んでんな」
「うるせぇ」
良かった
朔兄と大和、いつも通りだ
「ん?ユウ、なんで笑ってるの?」
大和が、俺の顔を覗き込む
「大和と朔兄が、仲直りして嬉しいから」
「えっ?!大和と朔兄、喧嘩してたの?!」
俺の言葉に、四葉が騒ぎ出す
「四葉、喧嘩なんてしてないよ。朔がいつも通り馬鹿な事して、俺が注意してやっただけだよ」
「あ?そりゃ…迷惑はかけたけど…馬鹿馬鹿言うな!」
「馬鹿だからな」
「馬鹿じゃねぇよ!」
「ほんとだ~。いつも通り~」
だよね
それより…
大和、全然離してくれない
それどころか、頭撫で始めた
嬉しいけど、四葉の前は恥ずかしいよ
「~っ大和…そろそろ…」
「ん?…ユウ…そんな顔、家族以外の人の前でしちゃダメだぞ?」
「え?」
どんな顔?
恥ずかしい顔?
「どんな顔?!どんな顔?!四葉に見せて!」
「え?!」
分かんないけど
恥ずかしい顔は、四葉に見せたくない!
大和の胸に隠れる
「ユウ~ユウ~見せて~」
「ユウは可愛いなぁ」
大和が、頭にチュッチュッとキスしてる
「大和…四葉はともかく、ユウの常識が狂ってくから、そういうのやめたれよ」
「いいんだよ。ユウ、こういうのは、家族限定だからな?」
「いや…それも、どうなんだよ…」
恥ずかしいけど嬉しくて
いい加減、俺の兄弟が普通じゃないのは、分かってて
けど、他の兄弟じゃなくて、うちの兄弟で良かったって思う
大和と朔兄が、朝ごはんを食べ終えて
朔兄が帰り
四葉が自分の部屋へと行くと
ソファーで寛いでる俺と大和の元に、父さんがやって来た
「大和…」
なんか…神妙な面持ちだ
「何?」
「その…さっき、ユウから聞いたんだが…」
俺?
「父さんが、ちゃんとしてなかったばかりに…その…大和に世話をかけてるらしく…すまないな」
「何の話?」
あ…さっきって…
「精液知らなくて、シュウがびっくりしてたって話したからだと思う」
「っ…ユウ……ああ…そういう事ね」
「その…何となく分かるもんかなと思ってて…もしかして大和も困ったりしたのか?すまなかったな父親としての責務を果たさず…」
「いや…俺は、全く困らなかったから安心して」
「そうか…」
全く困らなかったの?!
なんで?!
大和には、お兄ちゃん居なくて、父さんも教えてなかったのに…
「その…今さらだが、何か困ってる事ないか?父さんに教えて欲しい事とかあったら、遠慮なく言ってくれ」
「俺は大丈夫だし、ユウにも少しずつ教えてるから、大丈夫だよ」
「そうか…すまないな……その…ユウは、ちゃんと自分で出せてるのか?」
自分で?
出せてる?
「まだみたいなんだけど…そういう気にもならないみたいだから、タイミング見て教えるよ」
「えっ…そういう気に……え?…あれ?え~っと…ユウは今…14歳の誕生日終わったよな?……え……病院…とか…」
病院?!
「俺…病院行くの?病気?」
「父さん、ユウを不安にさせないでよ」
大和が、父さんからぐいっと俺を引っ張る
「え?だって、父さんだって心配だからさ…だって…え?今って、その位の歳でも普通なのか?大和は?何歳だったんだ?」
「そんなの個人差があるだろ?純真無垢なユウだよ?高校生でも、おかしくないよ」
「ああ…なるほど…ユウの場合はって事か。それなら納得」
「何?大和、何の話?病院?」
俺の話だよね?
病院行くの?
行かなくて大丈夫なの?
「大丈夫だよ。病気なんかじゃない」
ぎゅっと大和が抱き締めてくれる
「ほんと?」
「ほんと。前に俺が、ユウは手強いなって言ったの覚えてる?」
手強いな…
あ…
「自分で気持ち良くなるやつ?」
「そう。それね、父さんは方法知ってるかな?って心配したんだ」
そういう事か
「大和に教えてもらったから、やり方知ってる。けど…なんか、シュウを見てると苦しそうで…あんまり…やりたくない」
父さんの方を見て、そう答える
気持ちいいんだろうけど
凄く苦しそうだし、疲れそう
「大和……大和?父さんは、色々ツッコミたいとこあるんだが…」
「だろうね」
「ユウは…大丈夫なのか?父さんは、益々心配になってきたが?!」
え?
益々心配に?
「あんまり、やりたくないって思うのが、おかしいから?そんな事言ってないで、やった方がいいの?」
「やっ…?!…らなくてもね…いいんだけどね…無理矢理やるものじゃないからね…」
じゃあ…
どうすれば…
大和の顔を見ると
「あんまり難しく考えなくていいよ」
って、頭撫でてくれた
「でも、なるべく出来る様になった方がいい?そうじゃないと、皆心配するんでしょ?」
「しないよ。大丈夫。そんなの、ユウが困らなきゃ、何歳になってからだっていいんだ。ユウが必要になった時に、出来ればいいんだよ」
大和が、優しくそう言ってくれる
けど…
父さんは?
父さん心配してるから…
父さんの顔を見ると…
「あっ…そ、そうだな…いや…父さんも、ちょっと焦っちゃって、余計な事言ったな…心配ないよ…うん。大和の言う通りだから。困った時、大和に聞けば大丈夫だから…うん」
なんか…
急に、大和、大和って…
でも、大和が1番俺の事分かってるって思ったのかな
父さんも心配ないって言うなら、いいや
「うん。大和に聞いても分かんない事は、父さんに聞くね?」
「お…おお。いつでも聞くぞ」
なんか…
視線…大和の顔見てる?
くるりと大和の顔を見ると
優しい笑顔で見てくれる
「どうした?」
「ううん……大和が居て良かった」
「俺もだよ。ユウが居てくれて、嬉しいよ」
「うん」
皆が知ってるであろう
皆が経験してるであろう事
父さんが、まだ経験してない事に驚いて
病院連れて行こうか心配するような事
不安がなくなった訳じゃないけど
大和の太鼓判は、いつでも俺を安心させてくれる
絶対的な安心と信頼と
溢れんばかりの優しさで
いつでも手を広げててくれる
でも、きっとその大和で居られるのも
朔兄のお陰なんだろな
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