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記憶喪失エピソード
「ただいま~」
リビングに入ると…
「ねっ?ねっ?」
「やだ~!きゅんきゅんする~!」
「でしょ~!お母さん、こっちも見て!」
なんか…
葵とお母さん、楽しそうに盛り上がってる
「どうしたの?」
「あ、蓮お帰り」
「蓮も読む~?きゅんきゅんするよ♪︎」
「何?」
「あのね~、嫉妬なの。ヤキモチなの。最高!」
ああ…
漫画の話か
葵…そんな言葉、知ってるの?
「でね~…この後、記憶喪失になっちゃってね~…」
「あ、お母さん記憶喪失エピソード好き!」
「葵も好き~!」
「結局、ど定番が1番なのよ!」
「だよね、だよね?」
学校行って
家に帰ったら、葵とお母さんが楽しそうに話してて
「蓮?疲れちゃった?」
「うん…少し」
「上に行って寝よっか」
「…ここに居ちゃダメ?」
葵とお母さんの声
聞いてたい
「じゃあ、ソファーに横になろっか」
「うん…」
すぐ疲れちゃう
もっと葵の楽しそうな顔見てたいのに
もう…眠い
でも、家の匂い
葵とお母さんの声
病院と全然違う
ベッドじゃなくて
廊下を歩く音が聞こえなくて
あれ?
部屋…来たんだっけ?
結局ベッドで寝…
朝だ
結叶だ
「わぁ…結構…蓮だった…」
「結叶?調子悪い?」
「え?」
「ちょっと、ぼ~っとしてる?お熱あるかな?」
「ユウ、お熱?体温計持って来る!」
「え…ないと思うけど…」
ぼ~っと…してたかな
「ユウ…あんまり眠れなかった?」
制服に着替えて、出掛けの大和が
抱き締める様に、おでこ触ってきた
「…そんな事…ないと思うけど…」
普通の夢じゃなくて
蓮の夢は思い出だから
結構、蓮の世界に入っちゃうと
カルチャーショックみたいな感じなのかな…
「熱くはないな…無理しないんだよ?」
「うん。大和、行ってらっしゃい」
「行って来ます」
変な感じ
俺に、お兄ちゃんが居る
普通に会話してる
「ユウ!体温計だよ!」
「ありがとう…」
葵…って、言いそうになる
ほんの短い
何気ない場面の夢だったのにな
「…でね!お熱はないけど、ぼ~っとしてて、でもユウは、学校お休みしたくないから、シュウ君行き帰り宜しくね!」
「分かった」
俺の状況を
俺でもなく、母さんでもなく、四葉がシュウに説明してくれる
「ユウ…ほんとに大丈夫?」
「うん。具合悪くないよ。行こ」
「うん」
中学の制服を着て
幼馴染みと登校
憧れてた生活を
当たり前に送っている
「…ユウ…」
「何?シュウ…」
「階段…気を付けて」
「階段…あっ…うん。ほんとに具合悪かったら、ちゃんと保健室行って休むよ」
「うん…」
心配そうな顔
あの時、凄く心配かけたもんな
「大丈夫だって。心配すん…」
「ユウ!」
全然気付いてなかった
ちょっとだけシュウから離れて
シュウの顔を見ながら話した途端
いつの間にか後ろからやってきた自転車に
ぶつかってしまった
運悪く、少し鞄を引っ張られる感じで
体ごと引っ張られた後
倒れた
やってしまった
大丈夫だって言った直後に…
「…まあ…今回は、入院しなくていいかな…」
え?
「ほんとですか?!」
「どうしても点滴しなきゃならない程ではないですし、薬飲んで、家で安静にしてた方が、嬉しいって気持ちで、案外早く回復するかもしれません」
やった
家に帰れる
先生…ありがとう
「良かったわね、蓮。帰れるわよ?」
「うん…ちゃんと薬飲む」
「その代わり、やっぱり調子悪かったら、ちゃんと病院来なきゃダメだぞ?」
「はい」
「蓮君は、頑張り屋さんだな」
頑張るよ
だって少しでも長く生きて
少しでも、皆と家に居たいもん
「先生…」
「何だい?」
「頑張って薬飲んで、病院来てたら、中学校行ける?…分かんない?」
「蓮…」
「そうだなぁ…先生も、お母さんも、皆が蓮君に中学校行ってもらいたくて、考えてるんだ。だから、一緒に頑張ろうな?」
「はい」
先生にも分かんないんだ
そうだよね
先週、調子良かったのに
今週は、こんなに調子悪い
1年も先の事なんて
分かる訳ない
「……目が覚めれば問題ないのですが…一応、入院して検査した方がいいかもしれません」
え?
俺…いつの間にか寝てた?
入院…したくない
目が覚めれば…
起きるから
「ユウ!」
「良かった。目が覚めましたか」
あれ?
いつもの先生じゃない
「ユウ!分かる?」
「何処か痛い所はないかい?話せるかな?」
痛い所?
なんで、そんな事聞くんだ?
苦しいかどうかでしょ?
ピッ…ピッ…ピッ…
規則的で、綺麗な心電図
酸素…え?
97…97?
そんな数字…見た事ない
これ…俺の酸素の数字なの?
「ユウ?どうかしたの?」
「まだ、状況把握が出来てないのかもしれません。穂積君、ここは病院だよ?君は、自転車にぶつけられて倒れてたんだよ」
なんか…
この知らない先生、よく分かんない事言ってる
それに、さっきから先生の隣で、心配そうに声掛けてる人、誰なんだろう?
「いつもの先生は?」
あの先生に会えば、話早い
「?……いつもの?それは…どんな先生かな?」
「小児科の……俺の主治医の……」
あれ?
なんで名前出てこないんだ?
あんなに、しょっちゅう話してたのに
「ユウ?」
「ちょっと…一時的に記憶が混乱してるのかもしれません。えっと…君の名前を教えてもらっていいかな?」
「蓮……」
あれ?
苗字……何だっけ?
え?
「ええと…苗字は?」
「……すいません…なんでか…上手く、思い出せなくて…」
「謝らなくていいよ。レン君は、今幾つかな?」
「11歳」
「……じゃあ…小学生だね?」
「うん。小学6年生」
何故だか、その先生と隣のおばさんは
何も言わず固まった
「あの…起きていいですか?」
「ああ…起きるかい?」
先生が、手を貸して起こしてくれる
「先生、この酸素の数字って、俺の数字?」
「え?…ああ…そうだよ。よく、それが酸素の数字だって分かったね?」
「ほんと?!ほんとに俺の数字なの?!」
「うん…そうだよ…」
凄い
どうしちゃったんだろう?
そう言えば、喋っても動いても、凄く楽だ
酸素もしてないのに
魔法みたいだ
「先生、お母さんは?こんなに酸素が良くて苦しくなかったら、入院しなくていいでしょ?家に帰っていいでしょ?」
「…………」
先生が、凄く困った様な、可哀想だと思ってる様な…
そんな顔になってる
こんなに元気になったのに
「ユウ…お母さんの事…忘れちゃった?」
先生の隣に居るおばさんが
俺に、そうやって話し掛けてくる
なんで、さっきから俺に話し掛けてくるんだろ
「先生、この人誰?なんで、俺に話し掛けてくるの?」
全然知らないのに
そんな…
凄く心配そうにされると
なんか怖いよ
いつも病院来たら、必ずお母さん居るのに
なんで居ないの?
「俺のお母さん、何処?もう帰るって言って?」
なんか…
いつもと違うから、ここから離れたい
先生も違うし
お母さんは居ないし
元気なら、早く家帰りたい
「先生?」
なんで…そんなに困った顔してるの?
お母さん……
え?
自転車にぶつけられてとか…言ってた
「お母さん……居ないの?居なくなっちゃったの?お母さんは?!」
なんで…何も答えてくれないの?
まさか…
お母さん、凄い怪我で…
凄くて…まさか…
「~~っ…お母さんっ……死んじゃったの?」
「~~っ…ユウっ…」
え?
さっきの知らないおばさんが、俺を抱き締めてきた
なんで…
「やっ…やだ!誰?!」
その人から離れる
泣きながら、驚いた様に見てて
それが、物凄く怖い
「先生!お母さん…どうなったの?この人誰?!近付けないで!」
怖いよ
なんか、勘違いしてるよ
なんで、俺のとこに居るの?
「とりあえず…少し落ち着こうか」
「早く教えて!じゃあ、お父さん呼んでよ!早くここから帰りたい!」
何なの?
突然、こんなに大きな声出しても元気になってて
嬉しいけど、それも分からない
「少しずつ話していこう。とりあえず、あまり興奮すると良くないから…」
「なんで?!お母さんは?!」
俺の声に、看護師さん達が集まって来る
「どうしましたか?」
「先生?大丈夫ですか?」
誰でもいいから教えて
「~~っ…俺のお母さんっ…どうなったの?…っ…誰かっ…っ…教えてっ…」
沢山来た看護師さん達が
皆して同じ様に固まる
何なの?
何なの?
どういう事なの?
「~~~~っ…教えてってば!!」
全ての感情を乗せて叫んだら
ふっ…と意識が遠退いた
元気になったからって
調子に乗り過ぎた
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