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ゆうと君
パタパタパタパタ
「検査呼ばれました~!」
「行ける~?私、これから入院ある~」
「行けます!行って来ます!」
相変わらず、忙しそう
今日、平日か
「うぎゃ~~!離して!離して~~!」
「大丈夫よ~。すぐ終わるからね~」
「やめろ~!人殺し!人殺し~~!」
「はいは~い…終わり!よく頑張ったね~」
まだ、ちっちゃな子だ
意味の分からない事されるの怖いよね
いっぱい泣いてる
沢山の人の声と泣き声と
忙しそうな足音に
消毒液の匂い
また入院しちゃったんだ
目を開いてみると
あれ?
入院してるのに、酸素してない
点滴はしてる
「目…覚めたの?」
お母さん?
傍に寄って来たのは…誰?
「あ…ごめんね?おばさんの事、知らないから怖いよね?」
なんで、知らない人が…
あれ?
この人…見た事ある
この人…
!!
なんか…凄く俺の事心配して…
知らないのに凄く心配してきた人だ!
急いで起き上がって、ベッドの上で距離を取る
なんでまだこの人…俺のとこ居るの?
何なの?!
そうだ…
お母さん!
お母さんどうなったの?!
先生も看護師さんも居ない
なんで知らない人だけ…
あれ?
男の人も居る
「こんにちは…おじさんの事…分かるかな?」
知らないよ
なんで知らない人ばっかり…
どうなってるの?
こんな時は、ナースコール
「は~い。今行きま~す」
看護師さんの声に
おじさんとおばさんが焦ってる
「え?看護師さん呼んだの?」
呼ぶよ!
知らないおじさんとおばさんと、3人にされてんだから
コンコン
「失礼します…あっ…目が覚めたんだ。えっと…とりあえず、先生に連絡して来ますね?」
「お願いします」
え?
なんで、看護師さん…
俺じゃなくて、この人達に言うの?
「待って!」
「はい?どうかした?」
どうかした?じゃないよ!
「なんで、知らないおじさんとおばさん、ここに居るの?」
「結叶君……」
ゆうと君?
誰の話してるの?
あっ!間違えてるんだ!
「俺、蓮だよ。この人達、ゆうと君の家族?部屋、間違えてるよ」
「……えっと…そっか。れん君、びっくりしたね?」
やっと話通じた
「凄くびっくりしたし、怖かったよ」
「えっと…じゃあ、1度ご家族の方…こちらに…」
ようやく、看護師さんが連れてってくれた
自分の子供じゃないの?
顔見て分かんないの?
変なの
それにしても…
自転車?倒れたとか言ってたけど
全然苦しくない
だから、心電図も付いてないし、酸素も測られてないのか
?
なんか…
ベッド…こんなんだったかな?
そう言えば、ナースコールも…
そっか!
事故だから、いつもと違う病院に来たんだ
だから、いつもの先生も、看護師さんも居ないんだ
ようやく理解出来た
俺…1人で歩いてたんだっけ?
学校?
じゃあ、お母さん一緒じゃないよね?
お母さんと歩いてた?
……なんか…違う様な…
コンコン
「失礼します。こんにちは」
「こんにちは…」
「僕は、ここの小児科医で、梅原って言います」
あ…
この先生、ちゃんと話聞いてくれる
いつもの先生に似てる
ちゃんと椅子に座って、目を見て話してくれる
「先生…お母さんは?なんで居ないの?お母さんも怪我しちゃったの?」
「大丈夫。お母さんは怪我してないよ」
「そっか…良かった」
「優しいんだね?先生は、今日初めて会ったばかりで、君の事をよく知らないんだ。色々聞いてもいいかな?」
「うん」
いつもは、お母さんが話すけど
忙しいのかな
葵の方の用事?
「君の名前は?」
「蓮」
「苗字は分かるかい?」
「………なんでだか…思い出せないです。いつもは、ちゃんと思い出せてたけど…」
「いいんだよ。今、分かる事だけでいいんだ。れん君のれんは、どんな字かな?」
「蓮華の蓮だよ?蓮の花の…」
「へぇ~。綺麗な名前だね?」
「うん!」
それから…
歳とか、何年生とか、家族の事とか聞かれて…
「先生、お母さん忙しいの?お父さん来る?」
「お母さんは今、看護師さんとお話してたよ」
「そっか」
「蓮君、運ばれて来た時に、酸素の数字とか言ってたのかな?」
あ…
さっきの先生に聞いたのかな
「うん。俺、心臓悪くて、しょっちゅう入院してるから。病院来たって事は、また調子悪くなっちゃったんだと思ったから…なのに、酸素もしてないのに97もあったから、びっくりした」
「蓮君、心臓悪いんだ」
「うん。でも、今日は凄く調子いい。こんなに沢山喋ってても、全然苦しくならない。夢みたいだよ」
まるで魔法でもかけられたみたいだ
一瞬で病気が治る魔法
「ちなみに…どんな風に心臓が悪いのか…分かるかな?」
「皆は心臓のお部屋が4つあるでしょ?俺は3つしかないから、苦しくなっちゃうんだって」
「……………」
「先生?」
先生は、あまり知らない病気だったのかな
俺が入院する病院は、何人か居るけど
「蓮君…あのね?蓮君の手って、そんな感じだったかな?」
「手?」
そう言えば…
「なんか、いつもよりあったかいし、凄くいい色になってる」
「じゃあ…蓮君の体って、そんなに大きかったかな?」
「体?」
そう言えば…
え?
なんか…
腕も脚も、なんか伸びてる?
もっと…細い体だったのに…
え?
なんで?
まるで、知らない人の体みたいだ
俺の体なのに
俺が動かせてるのに
どういう事?
「先生もね、どういう事なのか、実はよく分からない。倒れた時に、頭を打ったから、何か一時的に脳が混乱してるんだとは思う」
頭…打った
脳が混乱?
「君は今、小学5年生の蓮君だから、理解出来ないと思うんだけど……ほんとの君は、中学2年生の結叶君なんだ」
「…………え?」
「訳が分からないよね?どうして、そうなってしまったのか…けど、先生は、いつでも蓮君の味方だからね?蓮君が怖いと思う事、嫌だと思う事、何だって言っていいからね?」
何を言われてるのか、よく分からない
ただ
ゆうと…という名前には、聞き覚えがある
さっきの…知らないおじさんとおばさん達…
「……先生…俺の…蓮のお母さんは?」
「ごめんな。蓮君のお母さんは、分からないんだ」
「……やだ…蓮のお父さんとお母さんと葵に会いたい」
「そうだよな…それが、蓮君の家族なんだもんな?」
「…そうだよ?だって……俺…蓮だもん……他の人の家族いらない……知らないもん…」
「蓮君……そうだよな…」
先生が…優しく頭撫でてくれたけど
分かったよって、言ってくれない
だけど…
何となく分かる
だって…
泣いても苦しくない
こんな…皆と同じ健康そうな体、知らない
きっと…きっと…
「俺の顔…どうなってるの?」
「蓮君…」
「知らない人の体で…知らない人の顔?じゃあ…俺は?俺…~~っ…死んじゃったの?…っ…中学…行けないまま…っ…死んじゃったの?」
「蓮君…」
それで…
死んで…
元気な人の体、奪っちゃったの?
それじゃ…
元の体の人…可哀想だ
「ふっ…うっ…ごめんなさいっ……ゆうと君っ…困ってる…ねっ……どうしたら…いいの?」
「蓮君…蓮君……」
先生が、肩を寄せて
頭とか背中とか撫でてくれる
「怖いかもしれないけどね…少しずつ、結叶君の事…知ってこうか」
「ゆうと君のっ…事っ……知ったら…ゆうと君にっ…返せる?」
「うん…先生もね、よく分からないんだけど、一緒にやってみよう?」
「うんっ…早く返さないとっ……っ…ゆうと君のっ…お父さんとお母さんっ…泣いてたっ…」
「大丈夫。ゆっくりでいいよ。こういうのはね、ゆっくりの方が、早く治るんだよ?」
そうなの?
よく分からないって言った先生が
なんで早く治る方法知ってるのか不思議だけど
でも…
蓮と話してくれて
蓮の味方になってくれる人が居る
それだけで
凄く安心する
「先生…ゆうと君の…お父さんとお母さん…心配してるね?」
「そうだね?」
「まだ蓮だけど…会ったら喜ぶ?」
「きっと凄く喜ぶね…けど、ゆっくりでいいから、今急いで会わなくてもいいんだよ?」
全然関係ない人だと思ったから
恐怖でしかなかったけど
この体の持ち主の…って、考えたら
凄く優しいお父さんとお母さんだ
「もう怖くない…でも、俺が蓮なのは…先生言って?ゆうと君だと思うと…色々びっくりしちゃうから」
「分かったよ…蓮君は……ほんとに優しい子だね?先生……っ…ちょっと…待ってね…」
「……先生…泣いちゃったの?」
「ははっ…ごめんな?先生が泣いたりしたら…先生失格だな?」
ティッシュ…ない
布団でいいや
布団カバーの端っこを、先生の顔に近付けると
「ありがとう…大丈夫だよ」
「俺…いっぱい心配と迷惑かけて…いっぱい皆の事泣かせちゃったから…」
俺は…あんまり泣けなかったけど…
「それは、蓮君が皆に大切に思われてたからだね?」
「……ありがとう…梅原先生」
きっと、先生に見えてるのは、ゆうと君なのに…
「さ、結叶君のお父さんとお母さん、呼んで来るね?」
「うん」
きっと、ゆうと君も大切に思われてる
少しずつ知って
ゆうと君を知って
ゆうと君に返さなきゃ
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