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人生の先輩
足首の具合が、いまいち
それだけで、大層皆に心配されるのは、普段から心配かけ過ぎてるからだ
「ほんとに病院行かない?」
「うん。そこまでじゃない」
「今日は、四葉の部屋使わせてもらうか?」
「ううん。1段ずつゆっくり上り下りすれば、階段も大丈夫だよ」
「俺、今日はもう帰るね」
皆が帰って来ても、リビングで皆に囲まれてる俺を見て、シュウがそう言った
「悪い。ご飯作ってくれて、ありがと」
最近、色んな事があり過ぎて
シュウとの撮影会あんまりやってない
ごめんね、四葉
でも、シュウ的には、ほっとしてるのかな
「ユウ!四葉が一緒にお風呂入ってお手伝いする!」
出た!
「いや!大丈夫!1人で入れるから!」
「だって、お風呂で転んだら大変だもん!」
「ゆっくり慎重に入るから!それに、俺が転んだら、四葉潰しちゃうから!」
「む~~…」
四葉は、俺に見られて恥ずかしくないのか?
兄ちゃんは、恥ずかしいぞ!
「よし、ユウ…じゃあまた、兄ちゃんと入るか」
「大和…」
「え~~!大和ばっかりずるい!四葉も一緒に入る!ちょっとだけ…湯船だけ一緒は?」
「さすがに、俺とユウが入ったら、四葉の入る隙間ないなぁ」
「んむ~~!」
お風呂が…って言うか
何か俺の世話したいんだろな
「四葉…おいで」
「何?」
「お風呂一緒に入んなくたって、四葉には、いつも沢山してもらってるよ?大和と違って、頼りない兄ちゃんだから、四葉にいっぱいしてもらって、感謝してる。ありがとう」
そう言って、四葉を抱き寄せると
「四葉…そんなに、してないよ?」
「してくれてる。弱い兄ちゃんのせいで、兄ちゃんが倒れた時、何を心配して、どうしたらいいのか分かっちゃってるし…何より毎日、四葉から元気もらってる。具合悪くても、疲れてても、四葉のお帰りで、元気になる。ありがとう」
ぽんぽんと、軽く背中叩くと
「じゃ…じゃあ、ちゃんと四葉の事も頼ってね?」
「うん。でも、体を支えたりは、やっぱり大和の方が安心するから」
「うん。じゃあ、それは大和に譲ってあげる」
四葉が、いつもの調子で、そう言うと
「ふっ…ありがと」
と、大和も笑った
「母さん、母さん!聞いた?この子達…世界一可愛くない?!」
俺達を傍観してた父さんが、泣きそうになりながら、母さんに話し掛けてる
「あら、元々世界一可愛いけど?」
「だよな~~!世界一可愛いな~~!」
父さん…酔ってんの?
「四葉~。父さんは、いつでも一緒にお風呂入るぞ?」
「え~~…お父さんとは入らないよ。四葉もう小学6年生だよ?」
「ガーン……」
ほんとにショックを受けてる父さんと…
何故、父親にだけは、その理論が通じるんだ?四葉…
「さてと…ユウ、入るぞ?」
「うん」
確かに…
男同士の兄弟だったら
こうして何歳になったって、一緒にお風呂入れる訳で…
たまに兄と入るお風呂は
ちょっと嬉しかったりする訳で…
そう考えたら
1人だけ妹の四葉は、ちょっと可哀想かも
湯船に浸かって、そんな事考えてたら
大和が、俺の顔の前に垂れてた髪を、撫でる様にして本来の位置に戻す
「ユウ…何かあったのか?」
「……そんな風に見える?」
「ん~…いや…ただの俺の勘」
「……後で…ちょっと相談乗ってもらっていい?」
「もちろん」
頼もしいな
俺とは大違いの兄ちゃんだ
「ユウ…足首の他は、ほんとに痛いとこないのか?警察も犯人探してくれてるし、痛いとこは、ちゃんと診てもらった方がいいぞ?」
「うん。他は痛いとこないよ」
「学校行くの…怖くなかったか?」
大和が、俺の髪を軽く撫でながら聞いてくる
学校行くの?
「別に…怖くないけど?」
「そっか。自転車見たら、震えるとか…頭真っ白になるとか…ないか?」
ああ…
そういう事か
「全然。いつも通りだったよ。心配してくれて、ありがとう」
「はぁ~…こんなに可愛いユウを…許せないな」
そう言って、湯船の中で抱き締められた
裸で抱き締められるのは
ちょっと…恥ずかしいよ
「いつも、俺ばっかり心配かけて、ごめんね。俺じゃなかったら、もうちょっと早く気付いて、避けれたのかも…」
「ユウが悪い事なんて1ミリもないだろ」
「俺も、大和みたいに鍛えようかなぁ」
「まあ、鍛えて悪い事はないけど…まずは、基礎体力からだな」
大和の胸を指で押してみる
「ん?」
「これ…胸の筋肉なの?」
「筋肉と言える程ではないけど、そうだろうな」
「へぇ…」
ちょっと下げて、お腹をツンツン
「ふっ…それは腹筋だな」
「うん…分かる」
「ユウ…俺はいいけど、色んな人の体、こんな風に触っちゃダメだよ?」
「色んな人のは触んないけど…友達とかクラスメイトのは?」
「やめといた方がいいな」
「そっか…分かった」
そりゃそうか
人に触られるって、不快な人だって居る
「どれ?ユウの体も…少しは、丈夫になったかな?」
「俺は、変わらないよ」
「ん~…腕…ふんふん…」
「ふっ…大和、モミモミされると、くすぐったいよ」
大和が、左右の腕を、優しくマッサージするみたいに触ってくる
そっか
人によっては、くすぐったいとかもあるよね
「どれ?ユウの胸は?」
「俺の胸は、ペタンコだよ」
「ふむ…ふんふん…」
「ふっ…大和、くすぐったいってば」
俺、くすぐったがり体質なんだから
あんまり触んないで欲しい
「んはっ…お腹も、くすぐったいってば」
「う~~ん…細い腰だなぁ…すぐに倒れそうで心配だ。もうちょっと、頑張ってご飯食べような?」
「食べてるよ。残してなんかないもん」
「ん~…ま、まだまだ成長期だしな」
成長期…
どのくらい大きくなるかな
楽しみ
「ユウはまだ、あんまり声変わりもしてないな」
「うん…ちゃんと声変わりするのかな?」
「するさ。いずれ変わるんだから、変わる前の貴重なユウの声、覚えとかなきゃな」
「……そっか…今の声…失くなっちゃうんだね」
「いっぱい動画撮っとかないとな」
大和は…どんなだったっけ?
大和だって、声変わりしてなかった時の方が
今の声より、ずっと長かったのに、覚えてない
「大和も動画残ってる?俺…もう、あんまり覚えてない」
「ん…そんなもんだよな。だから、貴重な今を楽しみな?」
お兄ちゃんって、感じする
きっと、俺なら声変わりしても、こんな風に考えない
たった3年…
だけど、ちゃんと人生の先輩で…
「大和が、兄ちゃんで良かった」
「…そ?俺も、ユウが弟で良かったよ」
何度言ってきたか分からない、やり取りをして
俺達はお風呂から出た
コンコン
「どうぞ」
約束通り、大和の部屋を訪れて
「それで?相談って?」
甲斐の事を話す
あのキスマークから…
告白された事
それでも、やっぱり1番仲のいい友達で
気の合う奴で
「最近…そういう話しないし…あの時みたいな事もしないし……なんか…そういう気持ち薄れてったのかな…とか…思ってたら…」
今日の帰り道の事…
「そっか…それで、ユウはどうしたの?」
「何を言えばいいのか…言わない方がいいのか…何をしてあげればいいのか…しない方がいいのか……俺には、全然分からなくて…何も出来なかった」
「うん…」
「俺から離れた甲斐は…俯いてて、よく見えなかったけど……少し目が赤い感じがした。大和…俺、どうすればいいんだろう?」
ぽん…なでなで
大和が、俺の頭に手を乗っけて撫でてきた
「ユウは、何も出来なかったかもしれないけど、何もしなかった訳じゃないな」
「?……どういう事?」
「甲斐君の為に…分からないけど考えただろ?出来る事なかったけど、考えただろ?」
「そうだけど…」
「なんとなく…そういうのって、少しは伝わるもんだと思うよ」
大和の言う事は
たった3つ上の兄の言う事は
何故だか、いつでも、物凄く信用出来る
「でも…考えたっていうの、伝わるだけだよ?」
「男女の関係じゃないから、甲斐君にしてみたら、いくら甲斐君が、そういう話題避けてたとしても、友達に告白されて、今まで通り友達してくれるだけで、嬉しいと思うよ」
そうかもしんないけど
あんな風になるだけの思いを、押し込めて
俺と友達で居るって事でしょ?
「傍に居たら…思いは募るだろうから、今日は爆発しちゃったんだろな。けど、そんな思い抱いてても、普通の友達としてでも、ユウと居たいって思ってるだろうから…」
「うん…俺も、出来れば甲斐と居たい」
「突然抱き付いたのに、拒絶もせず、やっぱり友達として居てくれてるだけで、充分だと思うよ」
そんなの…頑張んなくたって、甲斐と友達は出来るけど
そんなんでいいのかな
「明日からも、今まで通りでいいの?」
「ん…それを甲斐君は望んでると思うよ」
「……強い思い…寄せられると……どうにかしてあげたいって気持ちになるね……なんとなく…前に大和が言ってた、優しいの意味…分かった気がする」
きっと…甲斐を、思いきり抱き締めてあげたら喜ぶ
けど…俺は、甲斐と同じ気持ちを持ってない
その時の思いに流されて…
傷つけてしまいそうになる
「そっか…そうだね……ユウ、凄く頑張ってるね」
「なんか…シュウと甲斐だけなのに…俺は考える事いっぱいで、考えても分からない事いっぱいで……沢山の人に好かれてる大和やシュウを尊敬する」
「ユウ…ユウの事考えるのも、忘れないで」
?
俺の事?
「ユウは、自分の事考えるのを、すぐに忘れてしまうから…誰かの事は、ほっといても考えるのに、自分の事考えるの忘れてるから…ユウの、自分の気持ちも、大事にしようね」
「俺の…気持ち」
俺の気持ちは…
シュウも甲斐も、今まで通りの関係が続いて、ずっと仲良くしてたい
「恋愛においては特に、ユウの気持ちに正直になる事が、凄く大切だから。ユウがユウの気持ちに正直な行動をする事が、何よりも誠実だから」
「……難しくて…よく、分かんない」
「ん…さっきの優しいみたいに、その時になったら、きっと分かるよ。だから、頭の片隅に入れといて」
「うん……」
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