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お寺訪問
週末…
例によって、俺は金曜の夜からじいちゃんの寺に来てる訳だが
ようやく、いつもの調子が戻って落ち着いたユウと、四葉も、今日泊まりに来る事になった
寺の前で待ってると
「大和~!」
四葉が、走って向かって来る
電車1本で、さほど遠くもない場所にあり
ユウが小さな頃までは、親戚の法事やら何やらで、たまに来ていた
が、四葉は、ほとんど来た事がない
「わ~~い!お寺にお泊まり~!」
「四葉…お寺にはお墓もあるんだよ?怖くない?」
「怖くな~~い!」
「そう…」
心霊番組も、普通に見る四葉と違って
ユウは、寺が苦手だ
せっかくなのでと
簡単な宿坊体験をさせてくれる事になったと、話を聞き
四葉は大喜び
ユウはガッカリ
俺が、普通にじいちゃんとばあちゃんの家の方に、泊まってるよと言って、ほっとしてたからだ
「わくわく!作務衣着れるの?」
「多分、用意してくれると思うけど…俺も、そういうのは初めてだから…」
「おお!四葉か?!」
ちょうどいい所に…
「明慶 兄ちゃん!」
「大きくなったなぁ…っと…ははっ…」
明慶兄ちゃんは、俺達の従兄弟
じいちゃんの直系の孫だ
跡を継ぐ為に、そういう大学行ったりしてて
しばらく滅多に会わなかった
ま…俺は、たまに来て会ってたし
たまに連絡取ってたけど
「四葉、まだ兄ちゃんに抱き付いてくれんのか?」
「うん!明慶兄ちゃん、お坊さんになった~」
「そうだぞ。四葉、宿坊体験してみたいんだって?」
「したい!そして、おつとめして、大和みたいに、エイっ!て、出来る様になる!」
「お~…まさかの後継者希望か?」
父さんが泣くぞ四葉…
「結叶も久しぶりだな。随分大きくなったな」
「久しぶり、明慶兄ちゃん。まだ背伸びてるよ」
「そっかそっか。よく、寺泊まるなんて気になったな。苦手だったろ?」
「今も苦手…けど、宿坊自体には興味あるし、大和と四葉が居たら、何とかなりそうで…」
「ははっ…間違いないな」
ユウ…宿坊には興味あんのか
まあ、プロが沢山居るんだから、大丈夫だろうが…
一応、ちゃんと見える様にしとくか
俺は、そういうのが見える
が…
普段は、シャットアウトしてる
非日常的な…しかも、見えたからと言って、害がなければ、何をする必要もないものを見たところで、何もいい事はない
けど、ほっといてもウジャウジャ集まって来る所で
四葉…は、大丈夫だろうけど
ユウには、また、とんでもない霊がイタズラしに来るかもしれない
どうやら、俺達の世話係を任されたらしい明慶兄ちゃんが、部屋へと案内し
「さてと、これに着替えてもよし。そのままでもよし。ちなみに、これは…」
「作務衣だ~~!四葉着る!」
「ほぅ…四葉、作務衣知ってたのか」
「うん!四葉はSサイズ!」
そう言って、スカートの下に作務衣のズボンを履いて、スカートを脱いだ
それを見ていたユウが
「よ…四葉!こんな…皆居るとこで、着替えちゃダメだろ!」
「皆って…ユウと大和と明慶兄ちゃんだよ?」
「全員男でしょ!俺達1回外出てるから!」
「え~~」
「え~~じゃないの!他の男の子の前でも、着替えちゃダメだよ?」
「そんなの分かってるもん」
ちょっと頬を膨らませた四葉を残して
俺と明慶兄ちゃんは、ユウによって、外に連れ出された
「四葉、小6だっけ?あんまり気にしないんだな?可愛いな」
「可愛いいけど、危険だよ!俺は中2、大和なんて高校生なのに、一緒にお風呂入ろうって言うんだよ?!」
「まあまあ…兄妹なんだし、本人がいいならいいじゃないか」
「い…いくないよ!」
四葉は多分…
そうやって、必死になって焦るユウを見たいだけなのでは…
ガラッ
「ジャジャーン!どう?」
「おお…四葉、作務衣似合うな」
「ほんと?!」
「ほんとほんと。結叶と大和も着替えんのか?」
「じゃあ…せっかくだから…」
ユウが着替えると言うので
俺も着替える事にして
着替え終わると
「さて、では我がお寺のご案内でもしますか」
「やった~!探検!」
まあ…広いし、子供は喜ぶよな
本堂へと向かう途中
「大和、じいちゃんの大切な数珠壊したんだって?じいちゃん、すげぇショック受けてだぞ?」
「ああ…お陰様で、俺とユウは無事だった。ほんとに、立派な数珠って効力あんのな?」
「お前…呑気だなぁ…」
「明慶兄ちゃん…俺のせいなんだ。大和は、俺に憑いてた幽霊…祓ってくれたから…」
「聞いたよ。結叶、その後は?何か変わりないのか?」
明慶兄ちゃんの質問に
「うん。元気だよ」
「まあ、元気だけど…その、それまでと変わった事があるとかさ」
「ああ!ないよ。たまたま俺と同じ名前の子を好きだった幽霊なんだ。その時だけだよ」
「………なるほど。ある意味すげぇわ」
そう言われて
はて?と、考えてるユウ…
可愛い
本堂に着くと
「仏様ピッカピカ~!」
「そ。毎日皆で綺麗にするんだよ」
「床もピッカピカ~!」
「床掃除も毎日するからね」
「四葉もピッカピカにする!」
「お、じゃあ明日、一緒に掃除するか?」
「する~!」
四葉、張り切ってんなぁ
ユウはと言うと
笑顔だけど…ちょっと元気ないか?
こっちに無関心だけど
その辺ウロついてる霊のせいか?
その後、納骨堂に案内された頃には
ユウの顔色が、明らかに悪くなっていた
ユウの周りにホコリの様に集まって来る、霊とも言えないもの達を軽く払う
「?…なんか付いてた?」
「ん…ホコリだよ。大丈夫か?顔色悪いな」
「うん…ちょっと…暑さにやられたかな…」
「明慶兄ちゃん。じいちゃん、ユウにお守り用意してくれてるはずなんだけど…」
「ああ。なんだか、そんな事言ってたな。後で持って来ると思うけど?」
今はないんかい
「ユウ…これ持ってな?」
「これ…大和が、じいちゃんに貰った数珠?」
「そ。持ってな」
「大和、持ってなくて大丈夫なの?」
「寺に居て、俺が使う必要性はないからな」
「俺が持ってた方がいいって事?」
「そ。具合悪いの、少しは良くなるよ」
「……じゃあ…ありがと」
数珠を持って、しばらくすると
だいぶ顔色がマシになった
さっさと、納骨堂から離れて
無縁仏だの、墓の方には、四葉と明慶兄ちゃんだけで行ってもらい
俺達は、部屋に戻り休む事にした
「ユウ、横になりな?」
「うん…ごめん、大和」
「全然。俺はたまに来てるし、全く興味ないからな」
「うん…」
畳の上に横になるユウに、座布団を見付けて、頭の下に敷く
「何か掛けるか?」
「ん……どっちがいいのかな…」
とりあえず、薄めの毛布を掛けておく
「暑かったら、脱ぎな」
「ん……」
「ユウ…無理しなくてもいいんだぞ?俺が居るんだし、ユウは普通に、じいちゃんの家の方行って、朝のお勤めに来ればいいさ」
「……ん…」
今は、あんまり考えたくないか
「寝てていいよ」
そう言って頭を撫でると
「ん……」
と、すぐに寝息を立て始めた
見える様になったら変わるだろうか
自分の身の守り方、教えてもらったら……
いや…
きっとユウは優しいから
祓うとか出来ない気がする
話聞いて…泣いたりして…
すぐに取り込まれてしまいそうだ
「はぁ…困ったな。優しいのも考えものだ」
ユウの、俺によく似た髪の毛に、顔を近付ける
俺にはよく見えないくらいのもの達は
髪の毛を好む
少し手に取り、意識を集中して…ふっと息を吹きかけると、何かもやの様な物がうっすらと見える
何度か同じ様にして…
「はぁ…俺も疲れた」
ユウの隣にゴロンと横になる
俺はプロじゃない
出来る事は限られる
ユウを後ろから、そっと抱き締めると
「ん……ん~…」
コロンと、寝返りをして
「……ん?」
寝返りした先の何かに気付く
「大丈夫…俺だよ。もう少し寝てな?」
そう言って、頭を撫でながら抱き締めると
「……ん」
と、俺の胸に顔を擦り寄せて眠った
四葉の事心配するけど、ユウはあと何年こうしてくれるかな
カプセルの中の可哀想だった子は、こんなにも大きくなった
大きくなっても、こうして俺に甘えてくれる
「ユウ……」
ユウを包み込む様に
頭にキスしながら、俺も眠った
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