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お昼休み
コンコン
「シュウ?居るのか?」
「うん」
ガチャ
「ユウんとこ…行かなかったのか?」
風呂上がりの朔兄が
すぐに気付いて聞いてきた
「帰り、遅くなったから」
「……そうか」
「うん」
「…晩飯は?」
「食べた」
「…そっか……何かあったら、相談しろよ?」
「うん…ありがとう」
きっと
もっと色々聞きたかったんだろうけど
そう言って朔兄は、俺の頭をぽん…として
出て行ってくれた
ごめん、朔兄…
なんか…ちゃんと言えないんだ
1週間後には別れてるかもしれないし
そんなんで付き合ってるって…
皆には知られたくない
ユウも、きっと待ってただろう
用事が終わったら会いに行くと思ってただろう
せめて連絡が…って
ユウに嘘吐くのが嫌で
かと言って、本当の事言って喜ぶ顔見るのも嫌で
ごめん…ユウ…
翌日
一緒に登校したけど、ユウは特に昨日の事を、聞いてはこなかった
ユウにとっては、そこまで大きな問題じゃないのかもしれない
これまでだって
お互いの友達も居るんだから
休みの日に、そっちを優先したりとかあるんだし
「はよ~!東雲!」
教室に入るなり、クラスの奴らに、教室の端へと連行される
「おはよう…何?」
「昨日お前、岩城先輩と一緒に帰ってたろ?」
「帰った」
「やっぱり!いいなぁ…なぁ、何処行ったんだ?何したんだ?」
「…俺だけの事じゃないんだから、言えない」
言いたくない
よく、知りもしないのに
付き合ったその日に…とか…
「言えない事!したのか?!」
「マジで?!昨日付き合ったのに?!」
「いや、岩城先輩なら、あり得る!」
「いいなぁ~~!俺も言えない事したい!」
俺が何も言ってないのに
勝手に皆で盛り上がってる
この分じゃ、俺が言わなくても
そのうち、ユウの耳にも入るんじゃないかな
そうしたら…喜ぶかな…
「お前…あんな先輩と付き合えてんのに、なんちゅう顔してんだよ?」
「そうだぞ!俺と、取っ替えろ!」
「じゃなかったら、俺達にネタを提供しろ」
先輩の事
好きになれたら、俺ももっと嬉しいんだろな
「ごめん、ユウ…今日も用事があって…」
「……うん。分かった」
何か言いたそうにした後
ユウは、そう言った
寂しい
少しでもユウと一緒に居たい
泣きそう
けど…
どんな経緯があったって
自分で決めたんだ
1週間は、ちゃんと真剣に…
「ね…秀真君…気になってる…人って……どんな人?」
先輩が
俺の上に乗っかって動きながら聞いてくる
「……それ…今聞く事ですか?」
「今…気になったから…」
こんな状況で
一応彼女に答える事じゃない
「……優しい…人です…」
視線を逸らして、そう答えると
「ふっ…そっか……やっぱ…中身…だよね…」
ユウの外見は好みじゃないかと言われたら
そんなんじゃなくて
可愛いくて
多分…俺じゃなくても、そう思われる外見で…
どう答えていいのか…
「ね…後ろから……してくれる?」
そう言われて視線を戻して見た先輩は
いつもの、自信満々な笑顔とは、なんか違ってて…
「……先輩?」
「何?」
あ…大丈夫か…
気のせい?
「…いえ…大丈夫…ですか?」
「全然?もっと気持ち良くなろ?」
そう言って、四つん這いになったけど
四つん這いだから、下向いてるんだろうけど
なんとなく…
泣いちゃうんじゃないかと思って…
「?…秀真君?」
「先輩…何かありました?ほんとに…大丈夫ですか?」
「…何で?…普通でしょ?…それより、早く気持ち良くなろ?」
付き合って2日
俺には、先輩の事が全然分からない
だけど、やっぱり嬉しそうに料理をして
楽しそうに話しながら、ご飯を食べる先輩と
こういう事してる先輩は
まるで別人の様に見える
皆が知ってる先輩は、今の先輩だ
だけど、それだけじゃないのに
まるで、そうじゃない先輩を、隠してるかの様だ
「はぁ~~…気持ち良かった。秀真君と、体の相性バッチリ!秀真君も気持ちいいでしょ」
「…気持ちはいいですけど…別に、こういう事しなくてもいいです」
「……まったまた~~!中学生だよ?健全な男子中学生は、毎日頭ん中そんな事で、いっぱいでしょ?」
「先輩の料理してるとこ見て…先輩の楽しい話聞きながら…ご飯食べる時間…結構好きです」
「…………」
先輩の長い髪が垂れてて
先輩の顔は見えない
「先輩?」
「……さってと!シャワー浴びて来ようっと!」
そう言って、こっちを振り返る事なく
その辺に散らばった服をかき集めて、行ってしまった
きっと何かあるんだろな
先輩には先輩の、色んな思いがある
これまでの、俺の知らない人生がある
あまり…深い事情知らないのに
口を出さない方がいいんだろう
俺が、先輩に
ユウの事を聞かれたくない様に
何でも話したい訳じゃない
コンコン
「朔兄?どうぞ」
ガチャ
「シュウ…今日も、ユウのとこ行かなかったのか?」
「……今日も…用事あった」
「晩飯は?」
「食べて来た」
ドサッと、朔兄がベッドに腰掛ける
「シュウ…彼女でも出来たのか?」
そりゃ…
そう思って当然だ
「……なんて…言っていいか…」
「ああ…まだ、ちゃんとした彼女じゃないのか?」
「……そんな…様な…」
「そっか…」
ほんとの事なんて言えない
でも、朔兄に…嘘吐きたくないし…
「シュウ…こっち向け」
朔兄に言われて、椅子ごと朔兄の方を向く
怒られる?
ユウの事好きだって言っておいて…
「シュウ…好きになれそうなのか?」
「……え?」
見上げた朔兄の顔は
全然怒ってなくて
凄く優しくて
「シュウが、辛くないならいいんだ」
「……ユウを…好きだって言ってるのに……怒らないの?」
「ユウを好きなのは、辛いだろ?」
「~~っ…」
「ユウもシュウを好きなら問題だが、ユウはシュウの気持ちに応えた訳じゃない。シュウの好きにしていいんだ。ただ、辛い時は、兄ちゃんに言え。相談じゃなくても、愚痴でも泣き言でも聞いてやる」
そう言って、頭ぽんぽん…ってしてきた
もう…だいぶ大きくなったのに
俺より、もっと大きな朔兄の手…
安心する
「ありがとう…朔兄……俺もまだ…色々考えて…気持ち整理して…その人と向き合ってみて……だから…もう少し頑張ってみる」
「ん…そっか。シュウの気持ち、大事にするんだぞ?」
「うん…ありがとう」
少し…軽くなった
ユウにも先輩にも抱いてる罪悪感が
ほんの少し軽くなった気がする
次の日
やっぱりユウは、何も聞いてこなくて
もう、しばらく一緒に帰れないって、言ってしまおうかとか考えて
それを口に出す勇気がなくて…
「秀真君♪︎」
お昼休み
先輩が、俺のクラスに来た
周りの奴らが、小さくざわめいてる中
先輩の元に行くと
「会いたくなって、来ちゃった」
なんとなく…
昨日見た笑顔に、似てる気がして…
先輩に言われるがまま、校舎を出た
「先輩、何かありました?」
「ん~~ん?何にも~?ただ、秀真君に会いたいな~って♪︎」
一度そんな風に考え出してしまったせいか
ちょっと、ふざけた様なおどけた様な
そんな話し方をする時ほど…
そういう気持ちじゃ、ないんじゃないかって思ってしまう
校舎に沿ってしばらく歩く
何処まで行くんだ?1周するのか?
そう思ってたら
「ね…ここ、死角になってて、何処からも見えないの」
「え?」
「上もね、滅多に使わない教室ばっかだから…しよ?」
「…え…んっ…」
ここで?
学校…
誰がいつ、何処から見てるか…
「ねぇ…スリルあるでしょ…興奮しない?」
そう言ってキスしてくる先輩は
皆が知ってる先輩で
「んっ…先輩……さすがに…ここは…」
「大丈夫…」
そう言って、俺を壁に押し付けながら、キスを深めていく
こういう事…する時ほど
先輩は何か隠そうとしてるんじゃないのかな
こういう事して…
自分を…誤魔化してるんじゃないのかな
ちゃんと話してもらうには…
俺は、知らな過ぎる
けど…
もし、そうなら
こんな手段じゃなきゃダメなのか?
誤魔化す為にしてるなら
先輩…傷ついてく事にならない?
「ん…はぁ……先輩…もう…」
こんな事やめて
こんなんじゃなくて
もっと別の…何かで…
「気持ちいい?もっと…気持ちいい事しよ?」
そうじゃなくて
話…は…俺、苦手だけど
聞くだけなら出来るよ
ただ、散歩するだけじゃダメなの?
先輩が自分のネクタイを緩めて、シャツのボタンを外してく
それは…本当にしたい事?
俺のネクタイを緩めて、シャツのボタンを外して…
「?…秀真君?」
先輩の手を取ると
不思議そうな顔で見てくる
「先輩……俺…話すの苦手だけど……話…聞くのは嫌いじゃない…」
「?…そうなんだ」
言いながら…首や胸にキスしてくる
「先輩…こういう事しなくても…先輩の事…知れると思います…」
「……そ?でも…これが私だから…」
そう言って…
しゃがみ込んでベルト…外そうとしてくるので
俺も、しゃがみ込んだ
「秀真君は、立ってて?」
「これも先輩でいいと思います。けど…別の先輩を、もっと知りたいです」
「……秀真君…変わってるね?ここ…女の子に触られようとしてんのに、我慢出来る歳じゃないでしょ…」
「先輩が…ほんとに…本当に…そういう事したいなら…いいです」
「……ふっ…私、お説教って嫌~い。なんか、そういう気分じゃなくなっちゃった~」
俺のベルトから手を離して、そう言った先輩のシャツのボタンを留めていく
ネクタイ…上手く直せない
「ふふっ…ありがと。自分で出来るよ。秀真君も、自分の直して?」
「はい…」
こっちは…
皆が知らない先輩
こっちのが、ずっと楽しそうに笑ってる
お互いが身支度を整えたところで、予鈴が鳴る
「行こっか」
「はい」
分かんないけど先輩…
なんか元気なくなる事あったのかな
ちょっとは、元気になれたのかな
隣で笑ってる先輩は
もう…皆が知ってる、自信満々で歩く先輩だった
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