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ほんとの先輩
「ユウ…ごめん…今日…」
「分かった!いちいち言わなくてもいいよ!じゃな!」
そう言って、勢い良く立ち上がったユウは
そのまま走り去って…
俺だけじゃなく、周りの人達も驚いていた
ポカンと見ていると
「東雲……」
ユウのクラスの何人かが、俺に話し掛けてきた
「実は…」
今日の昼休み…
「ほんと悪い!穂積が態度おかしいの、そのせいだと思う。別に東雲が気にする事じゃないから!」
「……ユウは…どんなとこ見たの?」
「…そ…それは……」
どう見ても…
彼氏と彼女にしか見えなかっただろう
どう見たって…
俺も先輩を好きだとしか思わなかっただろう
「……そう…分かった」
「ほんとごめん!」
別に…
どうせ、そのうち耳に入る
そしたら、そんな事してるって思う
最短で全部知られただけだ
ユウが笑ってなくて良かった
少し泣きそうに見えたのは
俺が記憶を改ざんしてるのかな
違うか
ユウの綺麗な世界に
あんなもの見せてしまったから
泣きそうな程動揺してるんだ
「秀真君、今日買い物寄ってってもいい?」
「はい」
3日目
1日目よりは知った先輩を
俺は少しは好きになってるのだろうか
「ありがと、秀真君。そこ置いたら休んでて」
先輩と買い物をして帰ると
先輩は、テキパキと買って来た物を収納していく
じっと見ていると
「?…ソファー行って寛いでて?あ、テレビも点けてくれる?」
「はい…」
先輩は、ほとんどテレビを見ていない
なのに必ずテレビを点ける
毎日深夜まで、たった1人
テレビの音が必要だったのかな
料理をする音が聞こえてくる
「今日はね、アラビアータ!茄子、大丈夫だもんね?」
「はい、大丈夫です」
答えながら立ち上がり
先輩の元へと行く
「ふふっ…お腹空いた?すぐに出来るよ」
「俺も…手伝っていいですか?」
「え?秀真君、料理出来るの?」
「うちも…親が帰って来る前に食べちゃうんで…」
「そうなんだ……じゃあ、その鍋にお湯沸かして、パスタ茹でてもらっていい?」
「はい」
言われた通りに沸かし始める
「先輩、塩は…」
「あ、そこ…ほんとに、料理するんだね?」
「はい…ユウと…っ!」
うっかりユウの名前を出してしまった
「ああ!穂積君?一緒に料理してるんだ?」
続けて…いいのか?
「はい…親同士が…仲良くて……ユウの妹が…1人で待ってるので…俺達だけで、先にご飯作って食べて待ってるんです」
何…話してるんだろ…
「穂積君の妹?何年生?」
「6年生です」
「へぇ~……いいなぁ…お兄ちゃんと…秀真君に可愛いがられてるんだぁ…あっ…タイマーそこね」
「はい…」
俺の隣のフライパンで、手際良く料理を進めながら、先輩が話す
いいなぁ…が
全然悪意のない
ほんとに純粋に羨ましいって感じで…
先輩…寂しいのかな…
「妹も一緒に遊んだりするの?」
「遊ぶって言うか…遊ばれてます」
「えっ?秀真君、6年生の子に遊ばれてるの?!」
「先輩…BLって知ってますか?」
「もちろん!BL好きなの?」
「はい…漫画本見せられたり…自分も漫画描くから、参考にするんだって…ユウと色んなポーズさせられて、写真撮られたり…」
ピピピピ…
「あ、そこに鍋掴みあるよ」
「はい」
「先輩、危ないので動かないで下さいね?」
「オッケー。秀真君も、火傷気を付けてね?」
「はい」
茹で上がったパスタを、先輩が炒めてるフライパンの中へと入れる
「私も、その写真見たいなぁ…いいなぁ…実写版間近でみれるなんて!」
「女子は…男子を好きだけど、BLが好きなんですか?」
「そう!世の中の女子は、皆BL好きよ!」
「ふっ…皆ですか?先輩、ちょっとその妹に似てます」
四葉と話が合いそう
でもきっと
2人で話したら、物凄くうるさい事になりそうだな…
そんな事考えながら、鍋を洗ってると…
「……秀真君…する?」
「え?」
先輩が、手を止めてこっち見てた
!!
「先輩!焦げちゃいますから!」
「え?」
「え?じゃないです!ちょっと…貸して下さい!せっかく美味しそうなのに…」
「秀真君…ほんとにご飯…楽しみにしてるの?」
「??…してますけど?」
何の質問?
先輩だって、あんなに楽しそうに毎日作ってるのに
だいたい、料理作ったり、ご飯食べてる時間好きだって言ったのに…
「先輩、この位で出来上がりでいいです…か…?」
先輩の方を見ると…
めちゃくちゃ泣いてた
「せ…先輩?」
「っ…うっ……うっ…ふっ…」
まるで…四葉が…
いや…
もっと幼い子供が泣く様に…
火を止めて、先輩を抱き締める
「先輩…」
「うっ……うっ…ごめんっ…」
「いいです…思いっきり泣いて下さい」
「う~~っ…うっ…ふ~~っ…」
まるで全然知らない先輩だ
学校の人達は、絶対知らない先輩だ
誰もが知らない一面を持ってるけど
これは…ちょっと予想以上…
「うっ…ごめっ……秀真君っ…」
少しの間、思いっきり泣いた先輩が
俺の胸から離れる
「まだ…泣いててもいいですよ?」
「ん~~ん…2人で作ったアラビアータ…冷めちゃう」
「じゃあ、一緒に食べましょ?」
「うん…」
目を赤くした先輩が
いつも通り、楽しそうに食べている
先輩の話の多くは、最近見た動画の話や、道で見掛けた猫や鳥達の話
たまに、あの先生はどうだとかって話はするけど…学校の話は、ほとんどしない
ご飯を食べ終わって
今日は、俺が食器を洗い、先輩が片付けていく
それが終わると…
「じゃあ、シャワー浴びて来るね?」
そう言って、歩き出す先輩を引き止める
「?…何?」
「先輩…今日は、そういう事しないで、話…したいです」
「……まだ…1週間経ってないよ?」
「別れ話じゃないです。普通に…さっきみたいな話…聞いてたいです」
少し驚いた顔をした後…
「…ふっ…無理しないの。話なんて、いつでも誰とでも出来るでしょ?私と2人きりでしたい事しよ?」
すぐに…
皆が知ってる先輩に戻ろうとする
「先輩と、もっと話がしたいです」
「話って?何の話?」
「何でも…一緒にテレビ見てもいいし…」
「私と…したくないって事?したいしたい言う女…嫌い?」
俯いた先輩が、そう聞いてくる
そういう事じゃない
何て言えば伝わるんだ…
「そうじゃなくて…」
「だって!男の子って、皆そうでしょ?!何話したって…何処行ったって…結局したいのは、そういう事でしょ?!」
「先輩…」
「私の話なんか、どうでもいいじゃない!そういう事する為に、聞いてるだけでしょ?!そんな…私の中身に興味あるフリとか…しなくていいから!」
俺の手を振りほどいて…
また…
泣かせてしまった
「先輩…」
抱き締めようとすると…
「やめて!」
俺を突き放す
「先輩…先輩の話…興味あります」
「そういうの…いいから…」
「先輩がどんな人か…話聞いて知りたいんです」
「~~っ…そんな人…居ないもんっ……皆…私とそういう事…したいだけ……だって…そういうの好きそうに見えるから……派手な顔で……胸…大きくて……絶対遊んでそうだから…」
「先輩…」
そんな風に…言われたのかな
1人に?何人にも?
今度こそ抱き締めると
大人しく、俺の胸の中に入ってくれた
「俺は、そうは思いません…だって、料理してる先輩…楽しそうです。色んな話しながら、ご飯食べてる先輩…楽しそうです。楽しそうな先輩が…1番先輩に近付けてるみたいで……だから、話聞きたいんです」
「~~~~っ…そんなのっ…言って…くれる人……居なかった…」
「それは…運が悪かったんです」
「なんで?って……どうして?って…思うより……そんな女になっちゃった方が……~~っ楽…だからっ…」
それで、先輩…
別に、したい訳じゃなかったんだ
それで寂しさ埋めるとかでもなく…
寂しさ埋める為の人に…
居てもらいたくて…だったんだ
「ちゃんと先輩の事…分かってくれる人…居るはずです……先輩の寂しさも…強がりも…全部分かって傍に居ようって、思う人…居るはずです」
「~~っ…そんな人っ…居るかな…」
居ますって…言ってあげたいけど
俺がって…言ってあげたいけど
「すぐには見付からないかもしれないけど…何度か上手くいかない事、あるかもしれないけど…先輩も……ちゃんと、好きな人…見付けて下さい」
「好きな人……」
「こんなんじゃ先輩…離れる度に、また寂しくなります……相談や…愚痴や…泣きたいなら胸くらい、いつでも貸します。でも…先輩が、ほんとに好きだと思う人…ちゃんと見付けて下さい」
そうじゃないと
こんなの繰り返してたら
先輩…いつか壊れてしまう
「……秀真君の…気になる人って……好きな人って事?」
「………はい」
「好きな人居るのに…私としてるんだ…」
「俺に…好きになられて…困ってるんです。今まで通りの関係を望んでるのに…やっぱり、好きな人を目の前にしたら…今まで通りには、出来なくて…」
だって、今までなかった感情があるから
今までは思わなかった事…思ってしまう
視線も…言葉も…
全て…気になってしまう
「それで…私と付き合ったの?」
「…もしも…本気で先輩の事好きになれたら…きっと安心するだろうなと、思ったんです。すいません…結局俺も…先輩を利用する様な事…」
偉そうに話しておいて
結局俺も、真剣な気持ちで付き合ってる訳ではないんだ
「ううん…私も、嘘吐いてたから…」
「嘘?」
「クラスの子達がね…秀真君の事見て、年下だけど、いいよね~~って話してるの聞いて…結構タイプだなぁ…って思って見てたの。正直…私の勢いに勝てないんじゃないかな?って…それで、告白しようとしたら…秀真君、あっという間に帰っちゃってて…次の日も…次の日も……急いで帰りに教室行くと…穂積君の教室から、嬉しそうな顔して出て来る秀真君を見付けた」
そんなに見られてたのか…
全然知らなかった
「だから…秀真君にとって、穂積君が大切な存在だっていうの、知ってた。それ知ってて…穂積君の名前出したら、絶対断らないって思って利用した」
「じゃあ…最初からユウの事…」
「ごめんね…あんなに嬉しそうな顔して帰る秀真君が羨ましかった…私も欲しかった…穂積君から…取り上げたの…」
「先輩…」
この家に1人帰るのが…
それで、寂しくて付き合う人には、悲しい事言われて……
「なのに秀真君…ほんとに、ちゃんと私と付き合ってくれるんだもん…」
「俺の希望で1週間なんて決めさせてもらったんですから、その間は真剣に先輩と向き合うって、決めてましたから」
「……片想いは…辛くて寂しいでしょ?…好きな人じゃなくても…とか…思わない?」
「先輩の事、本気で好きになってみようと思ったのは、ほんとです。けど…辛くても何でも……やっぱり…気持ち…消せないみたいです……」
だって…
最初から、ユウの為だったから
ユウが喜ぶなら
辛くても、その方がいいのかとか…
「……そっか。じゃあ…返してあげる」
「…え?」
「穂積君に…秀真君、返してあげる」
「でも…まだ1週間…」
「このままじゃ、本気で秀真君の事…好きになっちゃう。失恋するって分かってて、好きになりたくないし…私も秀真君の嬉しそうな顔…見たいから」
「先輩…」
先輩が、俺の胸から出ると
もう涙は止まってて
「その代わり、1つお願いがあるの」
「お願い…ですか?」
「私の友達になってくれない?秀真君の恋愛、邪魔したりしないから。好きな人見付からない~とか…また、体目的だった~~とか…聞いてくれる?」
「…ふっ…はい。いくらでも…どうしても寂しい時は、何時でも連絡して下さい」
「あんまり優しくされると、好きになっちゃうよ?」
「それは…困ります」
ふふっ…と、笑う先輩は
ご飯食べながら、笑ってる時の先輩で
なんか…
ああ…ちゃんと終われたんだって思った
「じゃあね。ありがとう。学校で話し掛けても、無視しないでね?」
「ふっ…しませんよ。テレビだけじゃ寂しい時は、連絡して下さい」
「……もう!あんまり優しくしないでってば!帰って帰って」
「じゃあ…帰ります。お邪魔しました」
「うん。秀真君も、穂積君にフラれたら、愚痴聞いてあげるよ」
「はい…ありが………え?」
え?
穂積君に…フラれたら?
幼馴染みで、仲いいってのは知ってたろうけど
俺…そんな事…
「ふふっ…誰にも言ったりしないから。いつでも相談乗るよ」
そう言って送り出してくれた先輩は、とても優しい笑顔だったけど
一体俺のどこからどこまでを知ってるのか…
ほんの少し怖くなった
明日からは、またユウと帰れる
ユウと帰って、ユウの家に行って
ユウの部屋で一緒に過ごして
ユウ…どう思ってるかな
好きだって言っておいて……
軽蔑…してるかな
びっくりはしたけど、安心してるかな
それでも…
どう思われても…
やっぱりユウ以外の人
好きにはなれないみたいだって、分かっちゃったよ
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