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世界でただ一人
朔が助けてって、泣いてる夢を見た
気付くと、その朔に抱き締められて眠っていた
夢じゃなく…なんか泣いてた?
朔の胸ん中から出て、顔を見てやろうとすると
「もう起きたのか?」
え?
こいつ、寝てたんじゃねぇの?
「もう少し寝てろ」
せっかく少し這い出た俺の頭を
元の位置に戻してきた
「んぷっ…何すんだよ…お前、寝てなかったのか?」
「少し寝た。けど、お前はまだ寝てろ」
「何でだよ…目覚めたんだから起きる…離せ」
「お前は、慢性的な疲労に気付いてないからだ。そんで、起きたら問いただしてやりたい事がある」
「問いただす?お前が?俺を?」
「そ…でも、あと30分位大人しく寝やがれ」
朔が俺を?
そんなん出来る立場じゃないはずなのに
なんか怒ってんのか?
朔のくせに
でも、まあ…
ちょうど腹も落ち着いてきたし
もう少し眠りたい気持ちもあるから
ここは大人しくしとくか
ってか、起きててまともなら
なんだって俺を抱き締めてんだ?
やっぱ、なんかあって泣いてた?
なんか思い出したとか?
まあ、いいや
ここは、寝惚けてて気付かなかった事にしてやろう
もう一眠りして
スッキリと目覚めたら
まだ朔に抱き締められてた
どんだけだよ
「お前…なんかあったの?」
「目覚めたか…なんかあったか聞きたいのは、俺の方だ」
「はあ?俺は、何もねぇよ。お前、何かあったから、こんな引っ付いてんだろが」
「俺は…知らないけど、お前は知ってる俺の事あんだろ?」
「……は?」
なんだ?急に…
朔は知らないけど
俺は知ってる朔の事…
だったら朔は知らないはずなのに
知らなくていいのに
「とぼけんな。中学ん時…屋上で…」
なんで今さら…
「お前が助けに来た時…俺…何されてた?」
なんで今、気になった?
知ってどうする?
「何だよ急に…バカ面して倒れてたんだよ」
「俺は、気を失う前…ネクタイ外されて、手縛られてたはずだ」
そこは…意識あったのか
「そんで、シャツの前開けられて、多分…ベルト外されてたと思う…けど、目覚めた時は元通りだ。あいつらが元に戻すとは思えない。お前がやったんだろ?お前が来た時…俺…何されてた?」
馬鹿が…
あの時気付かなかったら意味ねぇんだよ
今さら思い出していい事なんてねぇんだよ
忘れとけや
「今さら…それ聞いてどうすんだよ」
「今さらだろうが何だろうが、俺の事だろが。俺の事なのに、お前が知ってて俺が知らないなんて、おかしな話だ」
「俺だって…何されてたか、ちゃんと見た訳じゃない」
「……じゃあ、お前は何を見たんだ?」
何って…
何ってお前…
馬鹿共の笑い声
馬鹿共の焦ってズボン上げてる光景
その下に……
「馬鹿共が、俺に身バレして焦ってる姿」
「俺は?俺は、どうなってた?」
「……お前は…バカ面して寝こけてた」
「どんな格好で?」
「…どんな…って…」
だから…
あれを今思い出して、どうすんだ
言ってしまいたいって何度も思った
そしたら馬鹿なりに、少しは考えるだろ
けど……
「俺…全部引ん剥かれてた?」
「………」
「目覚めた時、別にケツに違和感なかったけどな…全裸の姿晒されて、シュウが苛められたらどうしてくれんだよ?とは、思ってた。撮影でもされてた?」
「…撮影は…されてない。そんなデータ…この世に存在しないから…それは心配すんな」
1人ずつ、じっくりと調べて脅してやったが、誰も撮ってはいなさそうだった
ふざけて…ヤりたくなって…そんだけなんだろ
あいつらにとっては、ちょっと羽目を外しただけ
「だったら、何されてたと思う?目的もなく、そんな格好させないだろ」
「……さぁな」
「…目覚めてから…口ん中と…太ももの内側が……違和感……やけに熱を持ってる感じがして…」
「…………」
「ほら…お前に男同士の勉強しろとか言われてさ…素股?とかいうの…あんだろ?きっとさ…そういう事してたんだろな……馬鹿じゃねぇの?俺の意識があってこそ、やった意味あるじゃん?俺が覚えてなかったら意味ないじゃん」
そんなん考える奴らじゃないんだよ
お前が目覚めた時
何されたか…されてなくたって
屈辱的な思いをしたら、それでいいんだよ
「ああ…大和が来なかったら、俺…とんでもない格好で目覚めたのか……男が男に何された?って思ったら…意味あるか」
「あんな奴ら…一生関わる事ない……知らないならそれで終わりだ……わざわざ知る必要もない」
「そうだな…けど、お前が知ってる。お前だけが見て知って…誰にも言わないから、未だに夢なんて見るんだろ…」
「……夢?」
何の話だ
「俺…何か言ったのか?」
「なんで…俺の事なのに、お前が辛い思いしなきゃなんない?さっさと見た事、思った事ぶちまけろ」
「…は?今さら、そんな事する意味が分からない。時間の無駄だな…離せ」
朔から離れようとすると
ぎゅっと抱き締めてきた
「おい…離せって」
「お前…泣いてんだよ」
「…は?泣いてねぇよ」
「夢見て泣いてんだよ」
「……それは、夢だろ?寝惚けてんだろ?いちいち覚えてんなよキモいな」
「俺の名前…呼んで……っ謝って泣いてんだよ」
は?
キモ…
何やっちゃってんの俺…
気抜き過ぎだろ
「そんなん…っ…1人で抱えてんな馬鹿…俺の事だろが…なんでお前が泣かなきゃなんないんだよ」
「お前が泣くくらいなら、そっちのがマシなんだよ」
「なんだよ…それ……」
「お前が泣くと、厄介なんだよ……どうしたらいいか…分かんねぇんだよ」
「~~っ…馬鹿が……俺だって…お前に泣かれたらっ…どうしたらいいか分かんねぇよ……しかも…俺の事でとか……っ…ごめん…大和…」
今さらなのに
あいつらだって皆、後悔するだけの事してやった
朔が覚えてないなら、それで終わり
それで良かったのに
なんで…
「俺の目の届く範囲なら……泣く前にどうにか出来る……っ…なんで…お前…別の学校行ったんだよ……何も出来ねぇじゃん…」
「ごめん…っ…そこまで……大和が気にしてるって、思ってなかったんだ」
「しかも…男子校なんて選びやがって……っ…お前が…気にしてないなら…別にいいんだけど…俺は……お前が…」
男何人かに囲まれてると
男に触れられてると
毎日周りに男ばっか居るって思うと
「~~~っ…くそっ!腹立つな!」
「…大和」
「なんだよ!人がせっかく心配して、色々考えてやってたのに…お前は馬鹿だから…あんなんなっても、バカ面して眠ってる馬鹿だから…俺が守ってやんなきゃって思ってたのに……俺1人で…~~~っ…馬鹿みたいだ」
結局、全部無駄だった
朔が望んでた事なんて、あの日の帰りに、肩を貸した事くらいだ
それでも、朔が知らなくて馬鹿みたいに、笑ってられんならいいと思ってたのに
結局それすらバレて…
「大和…」
「っんだよ…耳元で喋んな」
「大和は、俺の保護者じゃない。兄ちゃんでもない」
「分かってるわ!余計な事して悪かったな!」
「親友で、幼馴染みで、腐れ縁だ…俺にまで気を遣うな。俺の前では、馬鹿だろうが、悪魔だろうが、何だっていいんだ……俺にまで隠すな」
そう言って
朔が、俺の髪に優しく触れてくる
「……お前…ショックじゃねぇのかよ…」
「そりゃな…けど、考えないようにしてただけで、なんとなく何かされたんだろなとは思ってたから」
「…そうだったのか」
「まあ、実際覚えてねぇしな。お前にケツの穴に指突っ込まれた方が、衝撃的だったわ」
隠すなって言った朔が
本心を言ってるのかは分からない
けど…
もっと大きく反応すると思ってた
こんな簡単に話せると思ってなかった
思ってたよりずっと
朔は、守ってやらなくてもいい男だった
「…クルクル…クルクル…何やってんだ…」
「ん~?お前の髪、触り心地いいんだよ」
「キモ…」
「落ち着くんだよなぁ…お前の髪触ってると」
は?
キモいから、今すぐ手を離せ
そう言ってやろうと思ったけど
朔の胸ん中も、なかなか落ち着くとか思ってしまってて
「男子校さ…まあ、すぐにふざけて色んな事する奴らだけど……本気で泣きたくなる様な事はしねぇよ」
「…っそ」
「その辺はさ…やっぱ少しずつ大人になってる訳じゃん?苛めとかもないし。ほんとにヤバい一線を超える奴らじゃない」
「別に…そんな報告しなくていい」
「ふっ…そうかよ」
兄ちゃんじゃない
けど、こいつには全部見せれて
頼りたくはないけど
一緒に戦えて
そうだった
全部知ってるはずなのに
知らない事あるってのは、凄く不安だった
朔もきっと…
「もう…お前の為に俺だけが頑張るなんて、こりごりだ」
「そうしてくれ…後で泣かれる、こっちの身にもなってくれ」
「泣いてない」
「はいはい…そうかよ」
こんなん
他の誰にも言えない
他の誰にも見せれない
我が儘で、手がかかって、面倒で
それでも、そのままでいいんだ
世界でただ一人
こいつだけ
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