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雨の記憶
「ユウ、傘持った~?」
「持った~」
こんなに晴れてるのに、今日も降るのかな
ここのところ、降っては止んで
1日晴れると、1日雨で
そんな日が続いていた
「おはよう、穂積」
「おはよう、深山」
深山は、すっかりクラスに馴染んで…
と言うか、人気者だ
カッコいいし、優しいし納得だけど
そう考えると…
郁人兄ちゃんも、学校ではモテてたのかな
俺が子供過ぎて、そんな話した事なかったけど
実は、めちゃくちゃモテてたのかもしれない
休み時間の度に、誰かしらに話し掛けられてて
誰とでも楽しそうに話してる深山
けど…
なんとなく最近…
疲れてる感じがするのは、俺の気のせい?
「シュウ!」
「ユウ…どうしたの?」
「今日俺、委員会あるから、先帰っててくれる?」
「分かった。雨降り…気を付けて」
「うん。分かってる」
幼い頃から俺を知ってるシュウの、こんな日の気を付けては
単に車に気を付けてだけではなく
風邪引くなよも込められている
俺が風邪引くと、厄介なのを十分知ってるから
「…っはぁ~…思いの外長かった…」
急いで教室へ戻ると
窓辺に誰か居る
窓辺の机に腰を掛けて、ぼ~っと外を眺めてるのは…
「深山?」
声を掛けると、はっとした様に、こっちを見た
「あ、びっくりさせてごめん」
「いや…もう、こんな時間か。ぼ~っとし過ぎた。声掛けてくれて、ありがと」
「もう帰るの?途中まで一緒に行こ」
「そうだな」
やっぱり、なんとなく…
活気がない様な…
「深山、傘持って来た?」
「ん、持って来た」
「深山……何処か調子悪い?」
「いや?そう見える?」
「ううん…気のせいならいいんだ」
雨降りが続いて
なんとなく、そんな風に見えただけかな
「じゃあ、俺こっちだから。また、明日」
「ん、また明日」
そう言って別れて
ふと、さっきの深山を思い出す
机の上に座ってた深山は
泣いてるのかなって思う様な、表情だった気がする
けど…それも気のせいだったのかもしれない
「ユウ…体冷えてない?大丈夫?」
「大丈夫」
「ん…」
シュウが、確かめる様に抱き締めてくる
冷えてはいないけど
あったかくて気持ちいい
「シュウ…変な事聞いていい?」
「変な事?」
「うん…シュウは、雨ってどう思う?」
「どう…?」
あ…
聞き方が、抽象的過ぎた
「えっと…例えば、憂鬱な気分になるとか、なんか体の調子悪くなるとか、雨の日に思ってる事あるのかなって…」
「……好きか嫌いかで言えば嫌い…ユウが…風邪引くかもしれないから…」
「ゔっ…心配かけてごめん」
「あとは…雨とか泥で汚れるなとか、出掛けるの大変とか、普通に思うけど…?」
そうだよね…
普通の人の感覚って、そんな感じだと思う
今の俺にとっても
だから、深山のあの表情が気になる
「どうかしたの?」
「ううん…昔は嫌いだったなぁ…って」
「昔……蓮の事?」
「そう…んっ…」
「そんな簡単に蓮の事思い出さないで…」
「んっ……はぁっ…ごめっ…」
もう蓮に戻る事なんてないよ
けど、実際少しの間、蓮になってた事実があるから、あまり強くは言えない
蓮は…
雨が嫌いだった
「れ~ん。何、難しそうな顔してんだ?」
「郁人兄ちゃん…難しそうな顔って?」
「今の蓮みたいな顔だよ」
「難しい顔は分かんないけど…雨降り嫌いだから…」
「そっか…」
ただでさえ、体調も気分も良くない人達が集まってるのに
天気までも、暗く、ジメジメされると
物凄く暗い気分になる
晴れたら晴れたで
こんな天気いいのに、外で思いっきり遊べないのが悲しいけど
楽しそうにしてる葵や、皆の笑顔を見ると
少し元気になれる
「はいは~い!皆、プレイルームに集合!」
イベント大好きな先生が、なんだか張り切って皆に声を掛けてきた
プレイルームに行ってみると
ギターを持った先生が
「雨降ってジメジメしてるからね。先生の歌で元気になろう!」
そう言って、ギターを弾きながら歌を歌い始めた
それは、とても聞き心地が良くて
優しい歌だった
雨が降ってるけど、晴れて虹が出るって意味の歌だった
あったかい気持ちになる反面
何処かで思ってしまう
雨は晴れて虹が出るかもしれない
けど、俺の病気は落ち着いても治る事はない
優しくて、あったかくて
なのに、素直にそう思えなくて
せっかく先生が元気になってもらいたくて、歌ってるのに
なんだか、泣きたい気持ちになってきて…
隣に居た郁人兄ちゃんの手を、ぎゅっと握った
歌い終わった先生は、壁一面に貼り付けた画用紙に
「自由に何描いてもいいぞ~」
と、沢山の色鉛筆やクレヨンを用意してくれてた
皆が、楽しそうに絵を描きに行く
俺は…そんな気持ちになれなくて…
すると、郁人兄ちゃんが話し掛けてきた
「蓮…蓮は、ずっと雨がいいと思う?」
「え?」
「虹が出たからと言って、俺達には関係ないし、どうせすぐに消えてしまう。虹なんて出なくていいと思う?」
郁人兄ちゃんが、なんでそんな事聞いてきたのか分からなかった
俺が、なんて答えたらいいのか考えてると
「俺はね、蓮…やっぱり虹は、あった方がいいと思うんだ。虹が病気を治してくれる訳でもないし、気まぐれに少しの間だけ、幸せにして消えるのは…なんだか少し寂しい気もする」
「うん…」
すぐに…消えちゃうのに
次の雨も、その次の雨も、もう虹は出ないかもしれない
期待させる様に出て…
あとは出なくても知らんぷり
「だけど、たった数分気まぐれに出るだけで、沢山の人達が笑うんだ。凄いと思わない?色んな場所に居る沢山の人達が、その時は同じ物を見て、笑ってるんだ。たった数分だけど、俺達に喜んでもらおうとしてくれた先生と同じだ」
そう言って、先生と皆を見てる郁人兄ちゃんは
凄く優しい顔で笑ってて
その郁人兄ちゃんを見て思った
そっか
虹とか歌とかじゃなく
それを見て誰かが笑ってるのが嬉しいんだ
きっと、そんな気持ちで作られた歌だから
聞き心地が良くて
そんな気持ちで歌ってくれたから、皆嬉しくて
「郁人兄ちゃん…俺も絵、描きに行く」
「ん、行こう」
俺達が喜ぶと
きっと先生も嬉しくて……
ピピ~!
「次、交代!」
「う~…ボール当たったとこ痛い~」
「穂積、色白いから赤いの目立つなぁ…痛そう」
「運動全般苦手だけど、球技はほんと苦手だ~」
今日の体育はバレー
正直、痛いからボール飛んで来ないで欲しいが、そうも言ってられない訳で…
「大丈夫か?後で保健室行く?」
「こんくらい大丈夫だよ、甲斐」
「そっかあ?」
甲斐が心配して、俺の腕を見てくれてるけど
俺は、もっと心配な対象が居る
やっぱ、深山…
なんか体調悪そうに見える
そんな事を思いながら、深山を見てると
「深山!」
「え?」
深山の方に飛んで来るボール
ぽけっとした深山の代わりに、深山の方に突進してきた奴と深山が…
「「うわっ!」」
思いっきりぶつかった
ピピ~!
「おい!大丈夫か?!」
「いって~…深山、大丈夫か?」
「…ってて…大丈夫…」
大丈夫と言った深山が
なかなか起き上がらない
ようやく起き上がったけど、なんだかまだ、ぼ~っとしてる
「おい、深山大丈夫か?保健室行くか?」
「……いえ…大丈夫です」
「あんま、大丈夫じゃなさそうだな」
「先生、俺保健室連れてきます」
「おお!穂積は保健室のプロだからな。頼む!」
保健室のプロって何?
なんかのハラスメントだよ、先生
「ほんと、大丈夫なんだけどな」
「でも…体調あまり良くなさそうに見える」
「…そう?」
「うん…寝不足とか?」
「ふっ…穂積すごっ…確かに、あまり眠れてないな」
それは…
あの、外を眺めてたのと関係ある?
ガラッ
「先生~…」
「穂積君?今日はどうしたの?」
名乗んなくても知られてる
そして、俺が患者だと信じて疑わない
「俺じゃなくて、深山です。実は…」
事情を説明すると
少し診察をした先生が
「う~ん…特に大きな怪我はなさそうだけど、寝不足なら体育は無理しない方がいいわね。穂積君、悪いけど先生しばらく戻って来ないから、深山君を寝せて、あの用紙書いておいてもらえる?」
相変わらず忙しそうな先生は
そう言って、さっさと出て行ってしまった
「ははっ…穂積、凄い信用されてんだな?」
「ゔっ…常連なので…」
「えっと?ここに寝ていいのかな?」
「うん。そこのカゴに上着とか入れて…」
深山が、横になったので
言われた通り用紙を記入する
さてと…
あと俺がする事もないし、戻るか
「深山…」
深山は、既に寝息を立てていた
こんな眠いのに、なんで眠れなかったんだろ
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