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誰かの為に出来る事
少しの間、深山を確認して
ぐっすり寝てるし、大丈夫だなとカーテンを閉めて、戻ろうとした時…
「……っ」
ん?
深山…なんか言った?
「深山?」
「……っ…っ…」
泣いてる?
カーテンを少し開けてみると
「っ……っ…」
深山が、横向きになって泣いてる…
「深山…」
「~~っ…」
嬉しそうではない
辛そうに泣いてる
雨降りの外を見てた深山
最近寝不足だと言ってた深山
「深山も…雨降り嫌い?」
「っ……っ…」
小さな椅子を持って来て、近くに座る
深山が、ほんとに雨降りが嫌いなのか
そうだとして、その理由も知らないけど…
気持ちが大切だから
どんなだったかな…
時々口ずさんでたんだけど…
歌詞忘れちゃったな
「♪︎~♪︎♪︎ ♪︎♪︎♪︎♪︎~ ♪︎~♪︎♪︎~♪︎ ♪︎♪︎♪︎~…」
歌詞がなくても、なんかあったかいから
誰かが作ってくれて
沢山の人が誰かの為に歌ってきた歌だから
「♪︎~♪︎♪︎ ♪︎♪︎♪︎♪︎~ ♪︎~♪︎♪︎~♪︎ ♪︎♪︎♪︎~…」
きっと、何かは届くから
深山の理由が解決出来なくても
ほんの一瞬、いい夢見れるだけでもいいから
「♪︎~♪︎♪︎~ ♪︎♪︎♪︎~ ♪︎~♪︎♪︎~ ♪︎♪︎♪︎♪︎~…」
そっか
あの時の先生も、こんな気持ちだったんだな
プレイルームから戻ったら、また辛い検査や治療があっても
少しの間楽しくても、また同じ毎日が待ってるって分かってても
ほんの少しの時間でも、楽しくしたかったんだ
「♪︎~♪︎♪︎~♪︎ ♪︎♪︎♪︎~ ♪︎~♪︎♪︎~♪︎ ♪︎♪︎♪︎~…」
ほんの束の間
その後また、俺達が辛そうな顔するの知ってて
それでも…
「♪︎~♪︎♪︎ ♪︎♪︎♪︎♪︎~ ♪︎~♪︎♪︎~♪︎~…♪︎~♪︎♪︎ ♪︎♪︎♪︎♪︎~ ♪︎~♪︎♪︎~♪︎~…」
どうしよう
今になって
あの時の先生の優しい気持ちが…
凄く分かっちゃった
「うっ…ふっ…うっ…」
俺より、ずっとずっと
辛い顔した子達や
死んでった子達見てきて
それでも、ほんの少しの楽しい時間…
「うっ…っ……うぅっ…」
「………穂積?」
え?
気付くと、深山が驚いた顔して、こっち見てた
「あっ…ごめん…起こしちゃった…」
「な…なんで泣いてるの?」
「ううん…何でもないんだ…っ…」
「何でもないって……そんなに泣いて…」
せっかく眠れてた深山が、すっかり起き上がってしまった
そして、あろう事か、俺の心配をしている
「ごめん…ほんと…思い出し泣きなんだ。今、何かがあった訳じゃないから、気にしないで」
「………そっか」
「俺…もう戻るね。深山、もう少し寝てて」
「穂積…なんか歌ってた?」
「あ…うん……」
辛そうな顔してたから、歌ったんだって…
なんか変だな
変わってる奴だって思われるかも
「なんか…優しい音色が聞こえてきて…あったかい気持ちになった」
「…え?」
「それで、目覚めたら穂積が居て…泣いてたから、びっくりした」
やっぱ、俺はまだまだダメだな
自分が泣いて、どうするんだ
「……昔…歌ってくれた人の事、思い出したんだ」「そっか…」
「あの頃は…今より、ずっと小さな世界で生きてたから……今だからこそ分かる事もあって…」
「……なんで今…その歌、歌ったの?」
「深山…辛そうな顔してたから…少しの間でも、いい夢見れたらいいなと思って…」
そう言ったら
深山が、凄く驚いた顔をして
それから…
「穂積…~~っ…1つ…頼み事…あるんだけど…」
「何?」
「っ…少しだけっ…胸…貸して…」
「…いいよ」
あっという間に人気者になった
いつも、にこにこしてる深山が
泣きながら抱き付いてきた
「~~っ…っ…ぅっ…」
「うん…」
何があったのか
いつ頃あったのか
何も分からないけど
「うっ…~~っ…っ…」
「ん…」
まだ全然
こんな風にする程の友達じゃないと思う
それでも、こうするしかない位に
何か辛い事があるんだ
「ごめっ…穂積……」
「大丈夫…深山が泣いてる原因…俺には何も出来ないけど…今少しの間だけ、安心して泣くお手伝いなら出来るから」
「~~っ…んっ…ありがとう…」
それが転校と関係あるのか
家族には言えてるのか
どうにかなる事なのか
どうにも出来ない事なのか……
「ありがとう…ごめんな?穂積…」
「全然?」
「俺が可愛い女子だったら、気兼ねなくもう少し抱き付いてるんだけどな」
「かっ…可愛い女子だったら、こんな事出来ないよ!」
「ははっ…それもそうか……なんか、少しスッキリした」
そう言う深山の笑顔は
目が少し赤いけど
ほんとに、ここ数日の中では、スッキリした様に見えた
「少しでも役に立ったなら良かったよ」
「……穂積は…きっと痛みを知ってるんだな」
「え?」
「いや…穂積が優しい理由…なんとなく分かったかなって…」
「…よく分からないけど、深山の顔…少しスッキリして良かった。俺戻るから、深山休んでて」
「ん…ありがと」
優しい理由が、痛みを知ってるんだな
に、繋がってるんだとしたら
深山は、そう感じる経験をしてるって事だ
寝不足で、体調悪くても
いつも、にこにこしてる深山
それは…痛みを知ってるから?
「穂積~、深山大丈夫だったか~?」
「先生が見てくれて、大丈夫みたいです。でも、寝不足なら体育は休んでた方がいいって…」
「そうか。ありがとな」
甲斐の隣に戻ると
「お疲れ様。深山大丈夫そう?」
「うん。すぐに保健の先生出て行っちゃったから、眠るまで少し付いてたんだ」
「そっか…」
少し眠れたからって
少し泣いたからって
そんなので、深山の何かはたいして変わらない
でも…
ほんの少しでも、楽になれたらいいな
「ユウ…」
人生2周目なのに
「ユウ…」
誰かの為に出来る事って少ないな
「ユウ…」
「んんっ?!」
ぼ~っとしてたら、キスされた
そう言えば、呼ばれてた気がする
「ユウ…」
「ごめん、シュウ…呼んでた?」
「うん…何回も……何考えてるの?」
「えっと…深山…って……うちのクラスに来た転校生なんだけど…」
「ユウが案内してた転校生…」
「うん…」
うわ…
明らかにテンション下がった
「なんか、調子悪そうだなって思ってたら、今日体育の時間倒れちゃって……寝不足だったみたいなんだけど…」
「ん…」
「多分何か悩んでて……最近少し元気ないかな?とは思ってたんだけどさ…短いとは言え、皆よりは人生経験あるのに、出来る事ってないもんだなぁって思って…」
そう言うと
ぎゅ~っと、シュウが抱き付いてきた
「シュウ?」
何か…不安にさせた?
シュウを優しく抱き締める
「転校してきたばかりで不安だし…席の近いユウが優しくするの、凄く安心すると思う…」
「うん…」
「でも…転校してきたばかりなのに、何か悩んでるとか、調子悪そうって分かる位…見てるんだって思うと……やっぱり……」
「シュウ…」
そっか
それだけ気にして見てるって思ったら
そりゃ不安で嫌な気持ちになるよな
「ごめん…結局、深山には何も出来ないし、シュウを不安にさせただけだった」
「ユウの優しいとこ好き…でも…そう思うの、俺だけじゃないから…」
「ん…でも、シュウと同じ意味で俺が好きなのは、シュウだけだよ」
「ユウ…」
おっきな体のシュウが
俺にしがみ付いてるみたいで…
「シュウ…明日、学校休みだし泊まってけば?」
「……ユウの隣で寝たら…ユウに嫌われる事してしまいそうだから…」
「しないよ。シュウは、俺がほんとに嫌がる事なんてしない…ほんとに嫌がってるのに、するなら…」
「するなら?」
「シュウが、そこまで我慢出来ない位したい事とか、どうしてもしなきゃならない事だ」
よしよしと、頭撫でてやると
少し顔を擦り寄せてくる
「……でも、もしも…」
「え?」
「もしも俺が…ほんとにユウが嫌がってる事を、する事があったら…どんな理由があっても、叩いても、蹴飛ばしても、噛ってもいいから、止めさせて欲しい」
「噛ってもって…」
俺は、何かの動物か?
けど、まあ…
普通に力勝負じゃ敵わないか
「一時的な感情で…抑えられなくてしてしまった行動で、ユウを傷つけてしまうなんて、絶対許せないから…」
「シュウ…」
「一生自分を許せないし…毎日毎日後悔する…ユウの…傍に居られなくなる…」
「そっ…それは嫌だ!」
「じゃあ、お願い…俺が馬鹿みたいに暴走したら、何使って殴ってもいいから、目を覚まさせて…」
一時的な感情で
抑えられなくて
俺を傷つける
そんな心配する様な事
シュウは、思ったりするんだろうか?
こんなに、自信無さ気にお願いする程の
そんな気持ちがあるんだろうか?
「分かったよ…だから、そんな心配するな」
「……ユウ…好きになる程…不安になる…」
「恋愛って、そういうもの?」
「分からない…こんなに好きになったの…初めて……ユウ……」
シュウも…分からないんだ
だから不安なんだ
「シュウ…俺達さ、分からない事沢山あるから、沢山話してこう?」
「…話…苦手…」
「あ…沢山ってのは、長く話すってんじゃなくてさ…溜め込まないで、その都度話そうって意味。一言でも二言でも、解決出来なくても、せめてお互いが何を不安に思ってるのか、知っておいた方がいいだろ?」
「ん…」
シュウから体を離して、顔を見ると
今にも泣きそうな顔をしてた
「シュウに言われたからって、深山と話すの止めるって訳にはいかない。けど、俺が深山を気にして見てると、シュウは不安なんだって知ったら…」
「知ったら?」
「ん~…やっぱり放ってはおけないから、きっと気になるし相談に乗ると思うけど…」
「うん…ユウは…そうだよね…」
あ…
シュンとしちゃった
「は…恥ずかしいけど…」
「え?」
「シュウが、それで安心するなら…深山に言う」
「何を?」
「すっ…好きな人……恋人居るって……そしたら…なんか、ちょっと安心しない?あんまり変わらない?俺には、よく…わっ!」
シュウが、勢い良く抱き付いてきた
「シュウ?」
「っ…変わる…嬉しい…」
「…ははっ…なんだ…良かった」
「ユウ…好き…好き…」
「ん…俺も好きだよ、シュウ」
俺も、いつかこうなるのかな
シュウが話してる人
シュウが見てる人
何でも気になって
出来れば、今のままの方が楽だなって思うけど
でも
それだけ人を想えるって気持ち
体験してみたい気もする
ふと、シュウと先輩のキスしてる光景が浮かんできて
ああ…そっか
ああいう痛みみたいな…苦しみみたいな…
ちょっと、あれは辛過ぎるから
もうしばらく、俺は、このままでいいやと思った
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