83 / 132
気付いたら急患室
週明けに会った深山は、先週より元気そうに見えた
「おはよう、深山」
「おはよう。この前は、ありがとな穂積」
「深山…少しは眠れてる?」
「実は、穂積の鼻歌思い出すと、なんか眠れる」
「えっ?!そう…あんなのが役に立ってるなら良かったよ」
「うん…なんか、あったかくて、優しい歌だよなぁ」
先生…
先生みたいに、ギターは弾けないし
歌詞も忘れちゃったけど
あの歌で、少し元気になった人居るよ
「あの先生の名前…なんだったかなぁ」
「先生って?」
「えっ?…あ…甲斐」
「うちの学校の先生じゃなくて?」
うわ…
思いっきり口に出してた
「先生は、学校の先生じゃないんだ。昔、よく入院してた病院の先生」
「へぇ…穂積、よく入院してたの?」
「うん…今も体弱い方だけど、昔はもっと弱かったんだ」
「そうなんだ…」
そして、それよりずっと昔は
もう、弱いとかのレベルじゃなかったんだ
「今は大丈夫なのか?」
「うん。なんの病気って訳じゃないから、大丈夫だよ」
「入院って、大変?」
「え?」
「あっ…俺、入院した事ないからさ。いや…大変に決まってるよな…ごめん」
そうだよな
この歳で、入院がどんなか分かんないなんて普通で
そりゃ、普通に聞きたいって思うかも…
「自分も具合悪くて大変なんだけど…同じ位家族も大変なんだ」
「家族?」
「入院させるって、すっごく大変。しかも、小さかった頃は、誰か家族が付き添わなきゃならなくて…そうなると、家から大人が1人抜ける訳で…俺のせいで、俺の家族は何回も大変な思いしてる」
「そうなんだ…」
結叶も、皆に迷惑かけてきたけど
シュウの家の人達が協力してくれたり
四葉にも大和が居るから、まだ安心
葵には…
ほんとに寂しい思いをさせてしまった
「注射とか…何回も針刺されたりするのか?」
「入院した時にね。あとは、時々採血の時」
「うぇ~…俺、針刺されんの苦手~」
「ちっちゃい子…毎日大声で泣いてるよ」
「マジかぁ…俺も泣いちゃうかも」
「でも、泣き声が聞こえるって事は、泣けるって事だから」
「ん?どういう事だ?」
蓮も、郁人兄ちゃんも、泣けなかった
あの時の病棟には、そんな子が何人も居た
大声で泣いてるのは、比較的元気な証拠だ
「ある程度元気じゃないと、泣く事も出来ないから…」
「それは…相当具合悪いんだろな」
「色んな子が入院するからね」
「……穂積が、なんとなく大人に見える」
「ははっ…そりゃ、自分の経験してない事経験してたら、そう思うんじゃない?」
「うん…穂積…元気になって良かったな」
「うん」
そんな会話を、甲斐としたのが今日の朝
なのに、学校からの帰り道
「ユウ…なんか調子悪い?」
「ん~…少し頭痛いかも…」
「風邪?」
「でも、鼻水とか咳とか出てないしな…」
そんな会話をした翌日
体がだるい…
けど…
「36.6℃熱はないな。でも、調子悪そうだな…」
「ありがと、大和。熱がないなら大丈夫だ」
「大和~?ユウの熱どう?」
「熱はないよ」
「そう…ユウどうする?調子悪かったら、休む?」
「ううん…なんとなくだるいとか、頭痛い気がする程度だから…具合悪くなったら、ちゃんと保健室行くよ」
何なんだろ…
無理して疲れる様な事はしてないし
とにかく、具合悪くなるなら週末にして欲しい
「穂積…大丈夫?具合悪そうだよ?」
昼休み
体がだるくて、机に突っ伏していると
甲斐が心配して声を掛けてくれた
「ん…でも、咳もなければ熱もないんだ」
「でも、辛そう…保健室行って休んだら?付いてこうか?」
「ん~…」
確かに…
これ以上だるくなったら、歩くの大変かも
「行く…」
そう行って立ち上がると、クラクラした
「うわ…眩暈する」
「えっ?!大丈夫?!」
「穂積、大丈夫か?」
後ろから、深山の声が聞こえてきた
それからは、あんまりよく覚えてない
クラクラしながら、廊下歩いて
気付くと、保健室で、すぐに横にされた
「穂積君!どうしたの?」
「先生…すいません…」
「すいませんじゃなくて、どこがどんな風に具合悪いのか言える?」
「んっと……クラクラで…ふわふわで…」
あれ?
もっと、ちゃんと伝えなきゃ
あと…なんだっけ…
「ユウ…」
誰かが呼んでる
「ユウ…起きれないかな?」
起きれるよ
ん?
なんで、こんな瞼重いんだ?
「ちょっと無理かもしれませんね…男手あった方がいいですね。誰か先生呼んで来ます」
「すいません…」
え…
なんか…大事になってる
起きれるってば
「ん…」
なんで、こんな頑張ってんのに、これしか開かないんだ?
すぐに、目…閉じたくなっちゃう
「ユウ…」
母さんだ
呼び出されたんだ
「…母さん…ごめん…」
無理しないで、休めば良かった
そしたら、具合悪くても家で寝てれば良かったんだ
「辛いわね…帰ったら、すぐに解熱剤飲みましょ?」
解熱剤…
熱…
それでクラクラしてたのか
朝はなかったのに…
それから、色んな人の声が聞こえて
おんぶされたり
車に乗せられたり
暑くなったり、寒くなったり
気付いたら……
ピッ ピッ ピッ
聞き覚えのある音…
ポーン
何だっけ…この音…
プルルルッ プルルルッ
「すいませ~ん!こっち手貸して下さい!」
「誰かキャスター持って来て~」
これは…
病院!
目を開けると
まぎれもなく病院だ
そして、これは…
急患室だ!
「カテ行くから準備して~」
「カテ室準備OKです!」
「準備出来次第行くよ~」
めちゃくちゃ忙しそう
多分ただの風邪なのに
俺が目覚めないから、来てしまったんだ
ピッ ピッ ピッ ピッ
心電図…ちょっと脈速いけど、綺麗
酸素…95%大丈夫
ただ…
体が、めちゃくちゃだるくて、関節が痛い
シャッ
「あら!穂積君、目が覚めた?」
「あ…すいません。もう大丈夫です」
「うん…しっかり目覚めて話せる様になったね。ちょっと熱計ってみよっか」
「はい…」
ピーポー ピーポー
今度は救急車の音
申し訳なさでいっぱいになる
ピピピピッ
「どれどれ?38.8℃か。だいぶ下がったね」
そうなんだ
「今、体はどんな感じ?」
「だるいのと、関節痛いくらいです。もう大丈夫です」
「え?…ふふっ…目覚めてすぐに、もう大丈夫ですって言う患者さん初めて見た。先生呼んで来るから、待っててね」
「はい…」
だって、もうしっかり話せるもん
力は…
足…立てれるし
「んっ…しょっと…」
ちょっと大変だけど、起き上がれる
「失礼します…お?起きたかったのかい?」
「あ、先生…もう、起き上がれるし帰れます」
「随分早くここから脱出しようとしてるね?病院は苦手かい?」
「苦手なのもあるけど…そんな重症じゃないのに、俺が眠っちゃってたせいで、こんなとこ来ちゃったから…すいません」
俺なんか、比べものにならない位、重症な人達がいっぱいなんだ
さっさと退散しなきゃ
「ははっ…凄いな。穂積君、確かに君は重症ではないけど、ここに来た時は、いくら声を掛けても目覚めないくらい、ぐったりしてたんだよ。充分、ここに居る患者さんとしては合格だよ?」
「そうですか…でも、もう帰れますか?」
「せっかくだから、その点滴全部入ったら帰っていいよ。ほぼ水とは言え、今の君には必要だからね」
「はい…ありがとうございます。終わったらナースコール押します」
まだ半分位もある
また横になっとこ
「穂積君は、病院慣れしてるのかな?」
「えっ?」
「いや…その歳で、点滴終わったらナースコール押すとか、自然に口から出て来たからさ」
「あっ…」
しまった
めちゃくちゃ慣れてます
蓮の時に…
「小さい頃…結構入院してたので…」
「そっかそっか。看護師さんも見に来るけど、じゃあ、もし気付いたら教えてもらおうかな」
「はい」
「でも、体休めるのも治療だから、眠れるなら寝ちゃってていいからね」
「はい…あ…母さんに…大丈夫って…」
「目が覚めたって、看護師さん伝えてくれてたよ」
「あ…ありがとうございます」
少しの間、先生がこっちを見て
俺の頭をぽんぽんとしながら
「君は、いい子だね。さ、ゆっくり休むんだよ」
そう言って出て行った
バタバタと走り回る足音
何回も聞こえてくるナースコールや、電話の音
こんな中で、優しく話せる先生や看護師さんが、凄いと思う
あと、どの位かな?
15分位?
30分位?
ちゃんと見て、ナースコール押そうと思ってたのに
まだまだ体は、休みたかったみたいで
いつの間にか、俺は眠っていた
ともだちにシェアしよう!

