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今度は大和
「蓮、蓮!今の人誰?!」
「今の人?郁人兄ちゃん…」
「郁人お兄ちゃん……超格好いい…」
「え?」
「はぁ~…また会えるかなぁ…」
葵…
まだ小3だよ?
そんな事思うの?
「……ちょっと痛いよ~…」
ん?
あ…点滴抜いてんのか
あれ?抜いてるって事は…
腫れた?
まさか…退院?
「はい、抜けたよ~」
「……違うとこ…刺すの?」
「え?違うとこ?もう刺さないよ?」
あれ?
点滴空っぽで、外しちゃった
「また熱上がってきたから、ちょっとボーっとしてるかな?」
熱…上がって…
「もう…点滴終わり?」
「終わり。帰れるかな?」
帰っていいの?
なんか…あんまり具合良くないのに
退院させてくれるの?
「…帰っていいなら…帰る」
「うん。今、お母さん呼んで来るね」
何処に居たって具合悪いもん
でも
具合悪いのに、家帰ったら…
母さん大変かな
母さんが大変だと
葵は寂しい思いして…
やっぱり…
もう少し元気になるまで入院してた方がいいかな
「ユウ……ユウ…」
「また寝ちゃったかな?」
え?
俺?
「結叶…お父さん来たし帰ろう?」
結叶…
俺だ!
お父さん?!
「母さん…ごめん…」
父さんまで呼んじゃったの?!
「あ…起きた。ユウ…少し動けそう?」
「うん」
動く!
って気力でいっぱいなのに
体はなかなか動いてくれない
モタモタと、ようやく起き上がって、立ち上がって
母さんに支えられながら、待合室に出ると
「結叶…大丈夫か?」
気付いた父さんが、すぐに来てくれた
ゔ~…父さんも母さんも、俺のとこ来ちゃってたんだ…
外は、もうすっかり暗くなっていた
「四葉…大丈夫?」
「大丈夫。大和が居るから」
今回は、俺にも四葉にも、お兄ちゃんが居るから…
「…お兄ちゃん…居るから…大丈夫…」
「ふふっ…結叶、お兄ちゃん好き?」
「ん…良かった…」
具合悪くなったり、病院に居ると
無意識的に、蓮の意識になってる
それだけ…
そういう世界が、蓮にとっての日常だったから
「……シュウが…心配するな…」
俺がボソッと呟いた一言に
「シュウ君の家にも、ちゃんと連絡してるから大丈夫よ」
母さんが答えてくれた
そっか
シュウ…帰り、俺が居なくて心配したよな
びっくりしたろうな
早く…元気にならなきゃ
父さんに、おんぶされて、ドサッとソファーに横たわる
すぐに、大和と四葉が来てくれた
「ユウ…だいぶ熱いな」
「ユウ…寒い?あっつい?」
「……大丈夫」
もっと、大丈夫って、ちゃんと言ってあげたいけど
全然体が動いてくれない
結局、いつの間にか40.0℃まで熱の上がってた俺は、よく分からないままベッドに寝かされてた
風邪なのかな
喉少し変なくらいなのに
でも、帰っていいって事は、大変な病気じゃないんだよな
暑い…苦しい…
汗…かいてきた
そろそろ起きなきゃ
重い体を起こして、ベッドの上に座る
着替え…出さなきゃ
電気を点けて、なんとか着替えを出してると
ガチャ
「ユウ…起きたのか?」
大和が入って来た
「うん…大丈夫だよ。大和寝てて…」
「まだ起きてたから、大丈夫。座って」
そう言って、ベッドに座らせてくれた
「今…何時?」
「夜11:00」
「俺、風邪?」
「うん。今のところ、色んな検査はマイナスだからって言ってたよ」
「大和も…うつるから…」
「マスクしてるし、今のところユウも咳してないし、大丈夫」
新しい着替えを持った大和が、傍に来て、俺の服を脱がしてくれる
「大和…あと出来るよ」
「でも、だるいだろ?せっかくここに居るんだから、手伝わせてよ」
「いつも、俺ばっかりごめんね」
着替え終わり、布団に寝せたくれた大和が
「寒くないか?」
と、背中を布団越しに、ぽんぽんとしてくれる
「うん…」
スッキリして
気持ち良くなって
疲れて
もう寝そう…
「ユウ…具合悪い時は、機嫌悪くなってもいいんだぞ」
具合悪い時…機嫌…
「もっと、我が儘言ってもいいんだぞ」
我が儘…
じゃあ…
「……寝るまで…このままがいい…」
「そんなんでいいのか?」
「うん……気持ち良く…眠れる…」
「いいよ。いくらでも、このままで居てあげるよ」
そうして、心地好く眠りに就いた
その後3日間、熱は下がっても38.0℃付近で
薬飲んで、寝て起きて、着替えて…
もう、朝なんだか夜なんだか分かんなくて、すっかり疲れ果てた頃
咳が出てきた
「あら~…咳が出てきたら、受診した方がいいって言われてたから、病院行かなくっちゃ…結叶、頑張って行けそう?」
「行ける…」
正直、少しも動きたくない
けど、この3日で俺以外の皆も疲れてる
病院行ったら、いい薬貰えるかもしれない
病院行く=長い時間待つ
分かってたけど…しんどい
だるい
寒くて関節痛い
きっと、また熱上がってる
疲れてるのに、勝手に咳が出て、余計体力奪われる
「ユウ…大丈夫?」
「うん…」
大丈夫じゃないけど
大丈夫じゃない人ばかりが来てるんだから
俺だけ特別扱いは出来ない
ようやく呼ばれた診察、検査
そこからまた検査の結果待ち
寝たい…
とにかく横になりたい
「ユウ…お母さんに寄りかかっていいわよ」
「ん…」
ごめん、母さん
仕事休ませて
夜もゆっくり眠れなくて
結局、マイコプラズマなるものに、感染してたらしく
それに効く薬を処方してもらえた
来た甲斐がある
1日で劇的に良くなってくれないかな
家に帰って、薬を飲むと
俺は、死んだ様に眠った
そして、自分の咳で目が覚めた
苦しい
熱…少し下がってる感じする
けど、咳き込み過ぎて、吐きそう
コンコン
「ユウ…大丈夫?」
「……はぁ…大丈夫…大和…うつるから…」
「何かして欲しい事は?」
「大丈夫…」
苦しい
でも、ちゃんと治るから
何日かしたら治るから
「お母さん…」
「な~に?」
「僕もお母さんとか、お父さんくらいになったら、病気治る?」
「……そうね…治る様に…頑張ろうね」
「うん」
大人になれる事を、疑ったりしてなかった頃
大人になったら、治るんだって思ってた
皆、あの子供ばかりの病棟に来なくなる頃には
だんだん元気になってくんだって思ってた
たった1週間位寝込んだだけで
こんなに憂鬱な気分になるなんて
随分、欲張りになったんだな
「ユウ!大丈夫なの?!」
「ちょっと、トイレと喉乾いたから…四葉、近寄らないで」
「お母さん!マスクしたら、ユウのとこ行っていい?!」
「ずっとユウのとこ、行きたがってたもんね。マスクして、ユウが咳してない時ならいいわよ」
「やった~!」
大丈夫かな
咳込んだ時に、パジャマとか、菌付いてるかもしんないのに…
「ユウ!ユウ!」
マスクをした四葉が、抱き付いてきた
「四葉…ごめんな、いつも俺のせいで迷惑かけて…」
「迷惑じゃないもん!ユウに会えないのが寂しいだけだもん!」
「四葉の傍に大和が居てくれて、良かった」
「ユウは?ずっと1人で寂しくない?」
「大丈夫。また、すぐに治るし、時々皆の声聞こえてくるから」
「寂しかったら、大和の携帯に連絡してね。マスクして会いに行くから」
「ん…ありがと」
俺が弱いから、妹が強くなるのかな
葵も四葉も、健康優良児な上
風邪すら、めったに引かないし
妹とは思えない程、しっかりしている
「ユウ…一緒に階段上ろうか?」
「大丈夫だよ、大和。高い熱出なくなったから、だいぶ楽なんだ」
「あとで、お粥とお薬持ってくわね~」
「うん。母さんも、今日は夜中来なくて大丈夫だよ」
そうは言っても、来ちゃうんだろうけど
久しぶりに、ゆっくりと四葉と大和と話した
2人共元気で安心する
たまには、俺も誰かのお世話したいけどな
俺が元気に登校するまで
なんと10日もかかってしまい、クラスの皆にも、めちゃくちゃ心配かけてしまった
ところが、いつもはそれで終わるのに
なんと…
1週間位した後…
「38.8℃か…まずいな」
大和が熱を出した
「あら、珍しいわね~。ユウのパターンからして、今日病院行っても、なんだか分からないかもしれないから、ちょっと様子見てから行こっか」
「じゃあ母さん、俺適当に休んでるから、仕事行っていいよ。この前休んだばっかで、休みづらいでしょ」
「あら、子供3人居たら、うつるかもって考えてくれるわよ。大丈夫、大丈夫」
こうして、大和が俺と同じ経過を辿る事となった
大和のお世話…
日頃のお返しを、目一杯しなければ!
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