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深山
俺には、3つ下の弟が居て
2軒先の家には、俺と同い年の子が居て
「しんく~ん」
「りくくん!」
「あそびにきた」
「うん!」
保育園も一緒で
親も仲が良くて
最初は、可愛くていつも傍で見てた弟も
だんだん、数時間おきに泣いては、母さんを奪っていく存在だと思うと
なんだか、家に居たくなくなって、しょっちゅう慎の家に遊びに行ってた
慎の家で、思いっきり遊んで帰ると
不思議な事に、また、弟が可愛く見えて
家では言えない、愚痴も
慎にだけは言ってた
弟が成長して、3人で遊ぶ事も多くなったけど
俺と慎の間には、既に特別な絆が出来ていた
ずっとずっと続くと思ってた、同じ様な日々は…
ある日突然終わった
雨が…続いてた
「…慎…頭痛いの?」
「う~ん…なんとなく」
時々、慎が頭を押さえてる
今まで、こんな事なかったのに
「おばさんに言った?」
「ううん…でも、母さんも、よく言ってる。雨降りは、頭痛くて嫌になるって」
「へぇ…そうなんだ」
「そういう家系なのかな?」
少しの心配は
その言葉で、安心に変わった
慎のおばさんも同じ
じゃあ、おばさんの子だから、そうなのかも
何日も雨が降ったり止んだり
時々、頭を押さえる慎
早く、雨止まないかなぁ
そう思ってたある日…
朝から、母さんが電話してる
皆、仕事とか学校行く準備で忙しいのに
「…分かったわ…うん…お大事に…」
電話を終えた母さんが
信じられない事を言った
「慎君…昨日の夜…倒れて病院運ばれたって…」
倒れて…
運ばれ…
「えっ?!なんで?!」
びっくりし過ぎて、言葉も出なかった俺の代わりに、弟の透が聞くと
「なんかね…頭の中の血管が破れちゃったみたいでね………」
頭…
そこから…
母さんが何言ってんのか、見えてるのに何も聞こえなかった
頭…ほんとに…
痛くなる原因があったんだ
どうしよう
俺は、知ってた
慎が頭痛がってるの知ってた
なのに…
「陸?…大丈夫?」
どうしよう…
俺が…おばさんに言った方がいいよって言ってたら
俺が…母さんにでも相談してたら
俺しか…知らなかったのに…
「陸!震えてるの?」
「~~~っ…さい…」
「え?何?」
「…~っ…めんな…さいっ……っ…ごめんなさい…」
結局…その日、俺は学校を休んだ
慎は、手術とかするの?
助かるよね?
何を聞いても、母さんは、
「大丈夫…きっと大丈夫だから」
って言ってた
昼過ぎ、母さんに電話が入る
電話をしながら、母さんが泣き始めて
慎の事だと分かる
嘘だ
そんな訳ない
慎が、居なくなる訳ない
電話を終えた母さんが
「陸…慎君ね……~っ…」
やだ
聞きたくない
「もう…目…覚まさないんだって…」
「~~~っ…なっ…なんで?」
「手術とかもね…難しいって……っ…良くなる為に…出来る事っ…~っ…ないんだって」
ないって何?
だって…病院に居るんでしょ?
何か…出来るんじゃないの?
「慎君と…お別れしたい人…会っていいんだって……陸…っ…会いに行く?」
お別れ…
慎とお別れする為に会いに行く?
「や…やだ!慎と…~っ…お別れなんかしない!」
「~~っ…そうだよね……陸っ…そうだよね…」
「っ…~~っ…やだっ……お願いっ…やだっ…」
「陸っ…そうだよね……やだよね…」
死という意味さえ、よく理解出来てなかった
お別れに行くという意味も、よく分かってなかった
翌日
慎は亡くなった
慎のお葬式には、家族で行った
けど…全然実感がなかった
綺麗に飾られたお花の中に
慎の笑ってる写真があって
なんだこれ…って思った
ただ…
ずっと皆が泣いてるから
俺も、ずっと泣いてた
慎の両親が並んで、泣きながら皆に声を掛ける
なんで…慎は居ないんだ?
しばらく…ぼ~っとした生活が続く
「陸…何処行くの?」
「慎のとこ」
「陸…慎君…居ないから…」
「…居ないって…」
居ないって、何?
毎日の様に、慎の家に行こうとする俺を
母さんは、何度か一緒に連れてってくれた
けど、慎の家に慎は居なくて
いつも、仏壇に連れてかれた
仏壇には、沢山のお花とお菓子と
やっぱり笑ってる慎の写真が、飾られてた
「……慎は?」
「~~っ…陸君っ…」
「陸っ…」
あの頃…
ほんとに頭がおかしく…
ってか、現実世界を生きてなかったんだと思う
1ヶ月位、俺はぼやっとしてたらしい
朝も、慎の家に行くのを透に止められ
ふらっと慎の家に行こうとするのを、母さんに止められ
あまり…覚えてない
どういう意味か分からなくても
慎の居ない毎日は続く
1ヶ月位経った頃
ちょうど夏休みに入った頃、2日程雨が続いた
「…慎…頭痛いの?」
「う~ん…なんとなく」
ふいに、思い出した
そして、久しぶりに、ちゃんと慎の顔と声を思い出した
一気に、寂しさが込み上げてくる
「…慎」
ずっと…
ちゃんと考えない様にしてた
「陸、おはよう」
「あ……慎…」
蓋を開けてしまった箱の中から
一気に、中の物が溢れ出る
「陸~、今日、俺ん家来る?」
「っ…慎…」
毎日…
毎日毎日毎日…
ずっと一緒だった
「おばさんに言った?」
「ううん…でも、母さんも、よく言ってる。雨降りは、頭痛くて嫌になるって」
「へぇ…そうなんだ」
「そういう家系なのかな?」
「~~~っ…慎っ…慎っ…」
頭押さえながら、ちょっと困った顔で笑ってた慎
なんで…それで終わらせちゃったんだろう
「兄ちゃん?大丈夫?」
「っ…~~っ…透……俺が悪いんだ…」
「兄ちゃん?」
「っ…慎……っ…助けられたかもしれないのにっ…俺のせいだ…」
「…母さん!兄ちゃんが…」
1ヶ月も遅れて、ちゃんと慎の死と向き合って
ようやく、奥に押し込めてた、懺悔をした
母さんも、おばさんも
小5の俺が、そんなの気付く訳ない
ちょっと痛いくらい、皆様子見てしまう
俺が気にする事じゃないって、必死に言ってくれた
けど…
俺の中で罪は消えない
そして、最後に分からなくても、ちゃんとお別れに行かなかった
それも、時間が経つにつれて、どんどん気持ちを重くした
あれから3年
俺が、いつまでもジメジメしてたところで、何も変わらない
普通の毎日が続いている
ただ、慎が居ないだけ
父さんの仕事の都合で、結構離れたとこに引っ越して来た
もう、慎の家を見る事すらなくなった
それでも…雨の日は
気持ちが…押し潰されそうになる
「深山?」
誰も居ない教室で
ぼ~っと雨の降ってる外を眺めてたら、穂積が声を掛けてきた
すぐ前の席の穂積は、不思議な感じのする奴だ
弟に似てる訳でもないのに
なんとなく、弟っぽい
弟と同じく、体弱いって聞いたからなのかな
途中まで、穂積と一緒に帰る事になった
すると…
「深山……何処か調子悪い?」
「いや?そう見える?」
「ううん…気のせいならいいんだ」
さっき、ぼ~っとしてたから?
知り合いが、俺にそっくりだと言う穂積
学校案内係だったし、気にしてくれてんのかな
「行って来ます」
今日も雨
夜中は何度も目が覚め
日中は憂鬱な気分になる
が…
「おはよう、深山」
「おはよう」
それを隠して
普通に生活出来るくらい、大人にはなった
けれども、隠してるだけであって
体は、寝不足がたたってたらしい
体育で、球技やってるのに、ぼけっとしてるなんて…
穂積が、先生に任されて保健室に連れて来てくれた
すると、保健室の先生にも、任された
ほんとに、よく来てるんだ
別に、保健室来なくてもいいと思ってたのに
ベッドに横になると、すぐに眠気に襲われた
情けない…
もう、どうしようもないのに、いつまでこんなの続けるんだか……
「…慎…頭痛いの?」
「う~ん…なんとなく」
言わなきゃ
おばさんに言おうって
「おばさんに言った?」
「ううん…でも、母さんも、よく言ってる。雨降りは、頭痛くて嫌になるって」
「へぇ…そうなんだ」
「そういう家系なのかな?」
待って
それで終わりにしないで
病院行こう
今なら…
すぐに病院行ったら、助かるかもしれない
「っ…」
声…
「っ!」
声出ない
なんで…
「陸…慎君ね……」
やだ
聞きたくない
「もう…目…覚まさないんだって…」
また…
もうやだ
「手術とかもね…難しいって……っ…良くなる為に…出来る事っ…~っ…ないんだって」
俺が…
俺が言わなかったから…
俺のせいだ
ごめん…
慎…
俺のせいで…もう戻らない…
何度見たか分からない最悪な夢の中…
なんだか、あったかい様な
懐かしい様な歌が聞こえてきた
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