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誰かの夢
どこか懐かしいその歌は
鼻歌だけど
童謡?
だから、懐かしいのかな
優しい歌……
目を開けると…
穂積が泣いてた
え?
「ごめん…ほんと…思い出し泣きなんだ。今、何かがあった訳じゃないから、気にしないで」
思い出し泣き
穂積も?
穂積も、今の事じゃないのに
そんなに泣いてしまう様な事あるのか
「俺…もう戻るね。深山、もう少し寝てて」
「穂積…なんか歌ってた?」
「あ…うん……」
やっぱ、あれは穂積が歌ってたんだ
「なんか…優しい音色が聞こえてきて…あったかい気持ちになった」
「…え?」
「それで、目覚めたら穂積が居て…泣いてたから、びっくりした」
昔歌ってくれた人を、思い出したんだって言う穂積…
「あの頃は…今より、ずっと小さな世界で生きてたから……今だからこそ分かる事もあって…」
昔…
小さな頃の事?
「……なんで今…その歌、歌ったの?」
「深山…辛そうな顔してたから…少しの間でも、いい夢見れたらいいなと思って…」
辛そうな顔…してたんだ
つまり…穂積も、その歌、歌ってもらった時…
辛かったんだ
なんか…
なんでだろう
穂積になら…
「穂積…~~っ…1つ…頼み事…あるんだけど…」
「何?」
「っ…少しだけっ…胸…貸して…」
「…いいよ」
まだ全然、友達と呼べる関係でもない
だけど…
なんか…穂積なら少し分かってくれそうで…
「~~っ…っ…ぅっ…」
「うん…」
俺より、ずっと華奢な穂積
だけど、さっきの歌みたいに
優しくて、あったかくて
「うっ…~~っ…っ…」
「ん…」
何にも話してないのに
何故だか穂積が
そうだよね
辛かったよねって
言ってくれてる様で
「ごめっ…穂積……」
「大丈夫…深山が泣いてる原因…俺には何も出来ないけど…今少しの間だけ、安心して泣くお手伝いなら出来るから」
「~~っ…んっ…ありがとう…」
穂積は、知ってるんだ
どうする事も出来ない事があるって
それでも、どうしようもない気持ちを抑えられない時
少しの間安心して泣ける事が
どれだけ救われるかを
穂積は、知ってるんだ…
散々泣いたら、スッキリした
訳も分からないのに、穂積は泣いた理由を聞くでもなく
「よく分からないけど、深山の顔…少しスッキリして良かった。俺戻るから、深山休んでて」
「ん…ありがと」
そう言って、去って行った
俺だけじゃない
穂積も、痛みを抱えながら
それでも、あんな風に人に優しく出来てるんだ
なんか…凄く力を貰えた気がした
「♪︎~♪︎♪︎~ ♪︎♪︎♪︎~…」
なんて曲だったかな…
すっかり忘れてたけど
懐かしいって思ったんだから
きっと、凄く昔に聞いたんだな…
沢山の人達と聞いた気がする…
保育園?
いや…
ピアノじゃなくて……ギター………
「……く…兄…」
透?
ぱちっ…
「…あれ?」
透が居ない
って…保健室だし
透が居る訳ないし
「深山君?起きた?」
「あ…はい」
保健室の先生が、カーテンを開けて、様子を見に来る
「うん。だいぶ血色のいい顔になったんじゃない?」
「俺…顔色悪かったですか?」
「どうかな…寝不足って聞いたから、そう見えたのかも。ぐっすり眠れた?」
「はい。今、何時ですか?」
「あと15分もすれば、本日の授業おしまいね」
え?
本日の授業…おしまい…って…
俺…え?
体育…3時間目だったよな…
「ふふっ…びっくりした?顔色は、そこまで分からないけど、体は相当疲れてたみたいね。頑張るのもいいけど、倒れて心配かけるまではダメよ?」
「……そうですね…穂積は、よく具合悪くなるんですか?」
「そうね…いつもは、ちょっと熱がとか、咳がとかなんだけど…階段から落ちて、反応なかった時は、さすがに焦ったわね」
「えっ?階段?!」
反応なかったって…
階段から落ちてそれは、結構ヤバいんじゃ…
「まあ…結局は、病院で目が覚めて、色々検査したけど、打撲程度で済んだみたいなんだけど…」
「そうなんですか…」
なんで、階段から落ちたんだろ
調子悪かったのかな
俺より、ずっと体弱そう
すぐ前の席なんだし、俺も穂積が具合悪くなったら、何か出来るかな
なんて思ってたら
なんか穂積が、具合悪そう
声掛けようか考えてたら
甲斐って奴が来て、保健室に誘ってる
保健室に行く気になった穂積が立ち上がると
ふらふらだ!
俺と甲斐で穂積を支えながら、保健室へと連れて行く
保健室の先生に聞かれると
「んっと……クラクラで…ふわふわで…」
とか、答えてる
これは、かなりヤバい
結局、穂積はそこから学校を休んだ
先生は風邪だって言ってたけど、もう1週間
中学生で、風邪で、こんなに休む?
ちらほらと、そんな声が出始めた頃
穂積が、元気に登校してきた
ほんとに風邪だったんだ
体弱いから、回復するのに時間かかるのかな
穂積の周りには、すぐに人が集まって来て
俺の疑問を全て聞いてくれた
なんか難しい名前の、風邪みたいなものに感染してたらしい
風邪みたいなものだけど、普通の風邪より、ずっと高い熱と、咳が出るらしい
なんだよ
先生、ちゃんと教えてよ
そう言えば、穂積の声少し掠れてるかも
あの鼻歌、歌ってた時は綺麗だったのに
「…入院なんて、したくないからさ…」
そうだよな
入院なんて、もう懲り懲りだよな………
ん?
入院?
俺、入院なんてした事ないのに
何考えてんだろ
透が小さい頃、しょっちゅうしてたからかな
元気になって戻って来た穂積が
「はぁ~~…」
深っ…
「穂積?だいぶ深い溜め息だね?」
「あ…深山…」
「体調悪い?」
あんなに休んでたんだし
体…まだ調子戻ってない?とか思ったら…
「いや…今度は、俺の兄ちゃんが風邪引いちゃったんだけどさ…」
兄ちゃんも体弱いのか?
穂積の家、大変だな
「俺がお世話すると、多分、気を遣っちゃうんだ」
3つ上…
確かに、しかも透みたいに体弱いと思うと…
「その幼馴染みは、お兄さんと同い年?」
「そうだよ」
「じゃあ…なんて言うか…同士って言うか…戦友みたいな感じあるのかもね」
「同士…戦友…」
あれ…
なんだろう…
「そういうのさ、同じ時期に、一緒に乗り越えてきたみたいなさ…」
「……そっか」
同じ時期に…
一緒に乗り越えて…
なんか…
なんか大切な…
「深山…なんとなく分かった気がする」
「そう?」
今…
何か大切な事思い出しかけた様な…
「分かったからって、俺に出来る事はないんだけど…とりあえず、元気な俺で、出来る事をしてみるよ」
「うん。俺も、心配や不安そうな顔の弟より、元気な顔の弟を見ると、安心して、少し元気になるよ」
「うん!」
不思議だな
まだ、全然深い付き合いしてないのに
穂積が元気になると、凄くほっとする
あの保健室での出来事があったからかな
透みたいに、体弱いって知ったからかな
「ユウ…」
「シュウ…帰ろっか」
「うん」
ユウ…
穂積の名前は、結叶
なんか…しっくりこない
いや…
しっくりこないってなんだよ
穂積なんて苗字の知り合い居ないぞ?
何が、引っ掛かるんだろう
「……兄ちゃん…」
誰…
透じゃないんだろ?
「……く…兄ちゃん…」
大丈夫だよ
一緒だよ
「……ぃく…兄ちゃん…」
小さいな
俺より小さいのに、頑張ってる
泣きたくても、泣けなくて
苦しくて、怖くて、寂しくて
「大丈夫だよ…」
泣きたいよな
逃げ出したいよな
だけど……が、頑張ってるから
俺も頑張れる
だから、俺も……が頑張れる様に
「……れ…」
ぱちっ
え…
は?
俺…なんの夢見て泣いたんだ?
慎の夢じゃなかった
なのに…なんで、こんな泣いてんだ?
今…なんて言いかけた?
「…れ?」
れの付く言葉…
なんか…頑張るとかなんとか…
「練習?…なんの?」
ダメだ
もう、ほとんど思い出せない
なんか…悲しい?夢だった?
でも、こんな泣いてんのに
なんか…悲しいだけじゃない様な…
「……れ…」
何かが思い出せそうで
全然分からない
すぐそこに答えがあるのに
そこに通じる扉を見失ってるみたいだ
なんで、こんなに思い出したいんだろう
それが、何なのか分からないのに
凄く大切なものの様な気がする
慎以外で、そんな大切な事…あったかな
変なの
慎…
今は…痛くない?苦しくない?
怖くない?寂しくない?
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