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久しぶりのキス

結局、ほとんど大和に出来る事なんて、なかったけど 「ユウ~!大和にご飯とお薬持ってって~」 「は~い!」 「ぶ~~…四葉もマスクしてたら、大丈夫なのに…」 四葉が、何も出来ずに不貞腐れてる 「四葉…気持ちは分かるけど、さすがにこの後、四葉まで具合悪くなったら、母さん倒れちゃうから…」 「分かってるもん…」 気持ち…分かるもんなぁ 何かしたいんだよな 「……母さん、リンゴ買って来てたからさ、大和食べれそうなら、あとで四葉剥いてあげたら?」 「剥く!大和食べるかな?」 「きっと食べるよ」 「うん!」 「大和、だいぶ咳も落ち着いてきたね?」 「うん…ユウは、体調大丈夫か?」 「大丈夫だよ。やっぱり、俺より回復早いね?」 「……俺、あんなに熱出る事も、こんなに咳出る事も、あんまりないからさ…いつも、ユウ辛そうだな…苦しそうだな…とは、思ってたけど、ほんとに辛くて苦しかった。ユウはそれを、何回も乗り越えてるんだもんな…凄いな」 優しい大和 いつでも俺が喜ぶ言葉をくれる 「四葉がね、何かしたくてウズウズしてるんだ。大和リンゴ食べれそうなら、剥いてもらおうかなと思うんだけど…」 「ふっ…目に浮かぶな。食べれるよ」 「良かった。後で持って来るね」 大喜びで四葉が皮を剥いたリンゴを食べて 大和は、あっという間に元気になった 「大和、今日から学校行ったよ」 「良かった…四葉は大丈夫か?」 「今んとこ大丈夫。大和、全然近寄らせなかったし、多分大丈夫だと思うけど」 「そっか…」 こっそり見てしまった、可愛い大和を思い出す 朔兄にとっては、驚く事でもないんだろな 「朔兄に、いっぱいお礼言っといて」 「分かった」 可愛いかったなぁ 小さな子供みたいだった 父さんや母さんは、見た事あるのかな そりゃ、あるよな 赤ちゃんの時から見てるんだから 「じゃあね…」 「ん、また帰りね」 いつもの日常に戻った いつもの、変わりのない けど、かけがえのない 「穂積…」 「はい」 「お前だけだよ。先生が確認テストやるぞ~って言っても、にこにこしてるのは…」 「はあ…そうですか」 「決して、いい点数じゃないのに、一度も文句を言わない…先生は嬉しいぞ」 だって、先生… 先生の「テストやるぞ~」も、皆の「え~~!」も 俺にとっては嬉しいんだ いつも皆、こんな風だったんだって知れたから 「先生~…決していい点数じゃないのに、いいんですか~?」 「点数だけが大事じゃないぞ」 「んじゃ、点数気にしない事にしよ~っと」 「え…」 「俺も~…あ~…気が楽になったら、なんか嫌じゃなくなったわ。何点でもいいもんなぁ」 「いや…お前ら…違う!一生懸命やるって事が大事だからな!」 「は~い…一生懸命やるので、結果は気にしない様にしま~す」 「え?!いや…気にはしてくれ…」 なんか、先生が困ってる 俺のせい? でも、ごめん先生 こんな、やり取りも楽しいんだ 「穂積ってさ…」 給食を食べ終わると、深山が話し掛けてきた 「何?」 「何て言うか…いつも楽しそうだよな?」 「ああ…テストの話?」 「それもだけど……どんな時もって言うか…」 「ふっ…変かな…でも、普通がいいんだ。皆と同じく給食食べて、食べ終わったら、友達と何気ない話して…それが嬉しいんだ」 皆と一緒 どれだけ、それを望んだか… 「…そうだよな…」 「…深山も、そう思う?」 「え?……あ…そうだな…何気ない日常が、大切だったりするよな」 「うん」 深山にとって 何気ない日常じゃない事が、きっとあったんだろうな 「……穂積さ、名前……」 「?…名前?結叶だよ」 「…うん…そうだよな…」 そうだよな? 知ってたけど、確認? 「小さい頃って、なんて呼ばれてたの?」 「小さい頃も、結叶とか、ユウとか…」 「……そっか…」 え… なんか、残念そう? いや…残念ってなんだよ でもなんか、落ち込んでる? 「深山?」 「あっ…ごめん。変な事言った…気にしないで」 「……うん」 不思議な質問だった まるで、俺には結叶って名前が合ってないかの様な… けど、その後の深山は、いつも通りで あまり気にしない事にした 家に帰り、ご飯を食べ終わり シュウと片付けをして 「終わりっと…」 四葉は最近、漫画を見る、描くに夢中らしく シュウとの撮影会なんてものは、何処かに消えてしまった まあ…その方がいいんだけど 「四葉」 「な~に?」 ソファーで、漫画に夢中の四葉の隣に座る 「ずっと漫画見てると、目悪くなるよ」 「ん~…」 漫画から、目を離さずに返事をする 「四葉…俺の方見て?」 「ん?」 「四葉……もう…兄ちゃん…ウザい?」 「……ユウ!ウザくない!ユウ大好き!」 「ほんとに?」 「ほんとに!ユウ、ぎゅ~ってして?」 「うん…四葉…ぎゅ~っ…」 思春期のウザい… もう始まりなのかと思った 「漫画に夢中でごめんね?ユウ…」 「四葉さ…その…ほんとにウザいって、思う時が来たら……出来れば、早めに教えてもらいたいな…」 「そんな日、来ないよ!」 「うん…でもね、それも成長だから…一時的にでも、嫌だなって思う時が来るかもしれないから…そしたら…もう、あんまり近寄らないでとかさ…凄く嫌いになる前に教えて欲しい…」 それ以上近寄らないで 隣に座らないで 話に入ってこないで あと…どんな事言われるのかな… 想像しただけで、泣きたくなる 「ユウも大和も、ずっと大好きだよ」 「ありがとう」 「ユウと、大和とシュウ君が協力してくれた写真は、四葉の宝物だよ」 「あれは、もういいの?」 「うん。四葉の大切な資料だし、撮影会も楽しかったけど、1番の目的達成されたから、もういいんだ」 「…1番の目的?…って?」 「ふっふ~…内緒♪︎」 凄く楽しそうに、そう言うから 四葉が楽しいなら、まあ…いいか 「ユウ…」 「ん?」 部屋に入ると、シュウが後ろから抱き締めてきた 「四葉の事……寂しいのかなって…」 「そうだな…正直、まだあんな風に言ってくれた事に、ほっとしてる」 「四葉…変わらないと思うけど…」 「そんな事ないよ…制服着て…女子中学生になって…友達も変わって…」 「多分四葉…周りには流されないタイプ…」 「そうかもだけど……んっ!」 シュウが、耳にキスしてきた くすぐったいよ 「ユウ…俺も、寂しかった…」 「え?シュウも?なんで?」 「ユウが調子悪くなって…その後、大和…ずっとこうしてユウに、触れられなかった」 確かに こんな風に、俺の部屋でゆっくりするの、久しぶり 「そうだったな…」 「ユウ…こっち見て?」 そう言われて、振り返ると シュウが、そっと頬に触れてくる 「ユウ…キスしたい…」 「ん…いいよ」 「ユウ…」 「んっ…」 目を瞑る前に映った、シュウの目が… 凄く優しくて、嬉しそうで なのに何処か、寂しそうな… 「ユウ…息…」 「はぁっ…んっ…」 久しぶりのシュウのキスは やっぱり気持ち良くて 久しぶりだから 息継ぎ忘れてて 「んぅっ……~~っ…んんっ!」 思い出したけど 気持ち良くて 頭ふわふわで 息…どうしたらいいか…分かんない… 「んんっ…んっ…んっ……んん~っ!…はっ…んんっ!…んっ!…~~~~っ!」 ふわふわ…ふわふわ… 頭真っ白… 体…宙に浮いてるみたいだ 宙に…浮いて…… え? 宙に浮いてる? 「ユウ…降ろすよ」 「え?」 ゆっくり目を開けると シュウの顔が近くにあって 俺の体は、ゆっくりと下がってベッドの上に降ろされた つまり… 抱っこされてた! しかも…横向きに! 「ごめん!俺…また、ふわふわで真っ白になって…」 「うん…俺とキスするの…気持ちいい?」 ベッドに腰掛けながら そう聞いてきたシュウの顔が なんか… すっごく大人っぽくて 「~っ…気持ち…いい…」 「ん…嬉し…」 そう言って、また頬から耳を触るから… 「~っ…シュウ…くすぐったいよ」 シュウの手に重ねると 「ごめん…ユウを見てると、触れたくなる…」 「…嫌な訳じゃない」 「ん…ありがと」 そう言って、今度は抱き締めてくれた これは、安心するから好き 「……ユウの匂い…久しぶり…」 「ふっ…シュウの匂いも、久しぶり」 「ユウ……」 今度は、なんだか小さな子供が 寂しかったよって、言ってるみたいだ 「シュウ…寂しくさせてごめん」 「ユウが悪い訳じゃない…」 「ん…でも、シュウは寂しかったから」 「ん…ユウ…」 不思議だな 産まれる前から一緒のシュウの事なんか ほとんど知り尽くしてたはずなのに どんどん知らないシュウが出て来る でも、どんなシュウも大切で どんなシュウも、大好きだ

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