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知らないのに知ってる
最近、自分が変だ
自分で、自分の事がよく分からない
「おはよう、深山」
「おはよう、穂積」
すぐ前の席の
穂積の事が
気になってしょうがない
最初は、転校してきてすぐに、色々お世話になったし
他の奴らと比べて、深く接したせいで、何となく気になってるだけだと思ってた
けど…
「穂積~~!大丈夫か~~?あと1周だぞ~~!」
「はぁっ…はぁっ……大丈夫…です!」
「倒れる前に教えろよ~~!俺は、体罰教師じゃねぇぞ~~!」
「はい!…はぁっ…はぁっ…」
穂積が、頑張ってる姿を見てると
何とも言えない気持ちになる
「俺…近くに行って、一緒に走ろうかな」
「マジか?!深山、体力ある~~」
「ちょっと行って来る」
穂積が…
一生懸命な姿を見てると
居ても立っても居られなくなる
「穂積…あと少しだ」
「はぁっ…深山……はぁっ…はぁっ…ありがと…けど……休んでて…」
歩いちゃえばいいのに
少し休んじゃえばいいのに
だって、もう誰も走ってない
「ほら…もうすぐだ…」
「はぁっ…はぁっ……あと…少し…」
頑張れ
頑張れ
「よ~~し!穂積、よく頑張った。大丈夫か?」
「はぁっ…はぁっ……先生…大丈夫…」
「ゆっくり息して、充分休め。俺の授業で、無理したせいで、なんか体調悪くなったとか…やめてくれよ?!」
「はぁっ…先生…心配し過ぎ……はぁ…はぁ~っ…俺、そこまで弱くない」
「怖いんだよ。ちょっとふざけてた奴が、膝ぶつけて帰ったらさ、内出血ができてる。俺の監督不行き届きだ!って、電話かかってきたりさ…」
「先生……大変だね…」
いや…
先生が穂積に愚痴言って、どうすんの?
でも…なんか分かる
穂積なら、聞いてくれる
なんか、きっと分かってくれるって思うんだ
「穂積、大丈夫か~?」
「ここ、芝生になってて、休めるぞ~」
「倒れんなよ~」
皆、穂積に優しいのは
単純に体が弱いからだけじゃない
皆が優しくしたくなる位、優しいんだ
不思議な気持ちだ
穂積が、皆に優しくされて笑ってると
嬉しくて、安心する
まるで、透を見てるみたいな気持ちになる
何なんだ?
もしかして俺…
穂積の事好きとか……
いや
男を好きになった事とかないし
穂積を見て欲情とか…
ないない
じゃあ一体何なんだ?
モヤモヤとした気持ち
それに、時々夢で呼んでる声
「……く…兄ちゃん…」
考えてみたら、透は、陸兄ちゃんなんて呼ばない
兄ちゃんは、俺1人な訳で、兄ちゃんって呼ぶ
親戚の子か?
それとも、小さい頃親しかった子?
「よく似てる人…知ってて…」
何故だか、ふいに…
穂積が、転校初日そう言ってたのを、思い出した
もしかして…その人が、お互いの知り合いだったりとか……
昼休み、聞いてみようかな
「穂積、ちょっと聞いていい?」
「何?」
「穂積さ、俺によく似てる人、知ってるって言ってたよな?」
「うん…」
「その人って、どんな人?」
「え?」
「あ…いや…」
なんて聞けばいいんだ?
俺にも分からない、このモヤモヤを、なんて説明したらいいんだ?
「凄く…優しい人だよ」
「あ…そうなんだ…」
じゃなくて…
何処で知り合った、何歳くらいの…
「深山?」
「えっと…穂積の親戚?」
「親戚じゃない…けど……どうしたの?」
「その……上手く説明出来ないんだけど…もしかしたら、その人の事…俺も知ってるのかも…とか、思ったりして……」
いや…
普通に考えて、あり得ないな
俺そっくりの別人を知ってたら、俺が忘れる訳がない
なんで、そう思ったのか…
「え?…穂積?」
穂積が…泣きそう?
「深山…なんで…そう思うの?」
しまった
俺にとって、凄く大切で
むやみに触れられたくない、慎との思い出みたいに
穂積にとっても、土足で入るべき話じゃなかったのかも…
「ごめん!今の話、忘れて」
「え?」
「実は…俺自身、よく分かってないんだ。なのに…自分の事しか考えないで言った。穂積にとって、どんな人なのかとか、何も考えずに突然こんなとこで聞いた。ごめん」
あの歌を歌ってくれた人なのかもしれない
思い出して、泣いてしまう様な思い出のある…
「深山…ちょっといい?」
「え?」
そう言って穂積は、廊下の端へと歩いて来た
今は使われずに、資料室になってる教室の前には、昼休みでも誰も来ない
「ごめんね?ちょっと…聞こえたら、苦手な人も居るかなと思って…」
「聞こえたら…苦手?」
「……深山…前世ってあると思う?」
「前世?……あんまり…ちゃんと考えた事ない…けど……」
なんだ?突然…
なんかの勧誘?
いや…穂積がそんな事する訳ないよな…
「だよね……うん。深山が、なんで急に、深山にそっくりな人が気になったのかは、分からないけど…俺が知ってるその人は…そういう話」
「……え?そういう話?…って?」
「俺ね…前世の記憶があるんだ。深山にそっくりな人は、前世の知り合い」
「………え?……えっと…」
前世の記憶…
なんか…テレビで見た事あるけど…
「うん。信じなくてもいいんだ。ただね…どんな人?っていうのが、何処の誰?って意味なら…今のこの世界の人ではないから…答えられないんだ。ごめん…役に立てなくて…」
「……えっと…そっか…」
それ以上…
なんて言ったらいいのか、分かんなくなった
前世…今のこの世界じゃない…
話が、ぶっ飛び過ぎてる
「教室…戻ろっか」
そう言った穂積が
笑ってるのに…なんか、寂しそうに見えた
「穂積…」
なんで…
それを聞こうと思ったのか、自分でも分からない
「前世は…なんて名前だったの?」
聞いてどうすんの?
知ってどうすんの?
訳が分からない
「……蓮」
?!
聞いた瞬間…
身体中に、電気が流れたみたいだった
「苗字は覚えてないんだ…?…深山?」
「れ…れん?」
「?…そう…蓮花の蓮で、蓮」
「蓮花の…蓮……蓮……」
なんだ…これ…
知らないのに…知ってる
蓮を…知ってる…
「深山?」
「その…蓮の知り合いに…なんとか兄ちゃんみたいに…呼ばれてた人…居ない?」
なんか…
泣きそう…
意味分かんない
「……深山…なんで……なんで知ってるの?!」
「分からないんだ……ただ…夢で何度も呼ばれるんだ……く兄ちゃんって聞こえるから、弟が呼んでる夢だと思ってたんだけど…弟が俺の名前を付けて呼ぶ事ないから…」
「~~っ…その人の名前…郁人って言うんだ…」
「郁人…」
「俺は…郁人兄ちゃんって呼んでた」
?!
郁人兄ちゃん…
「あ……」
そうだ…
郁人兄ちゃんだ
そうだって…何が?
「深山…もしかして……」
泣きそうな顔して、穂積が見てくる
つまり…
俺が、その郁人兄ちゃんだったって事?
俺も…前世の…
「深山っ…」
「ごめん!…その…名前は……なんか…聞き覚えがある気がする……けど…その……前の人生の記憶とか…ないんだ」
今にも、嬉しくて飛び付きそうな穂積に
思わず、そう言ってしまった
「………そう…だよね?ごめん…変な話…したね?」
「……いや…俺こそ…ごめん」
なんで?って思ってるはずだ
だって、俺から聞いたんだ
それで…蓮にも、郁人にも反応しておいて…
だけど…
前世なんて考えた事もなかったのに
突然、前の人生の知り合いだとか…
なんか…全てを認めるのが怖くなった
だって、どんな人生だったか分からない
優しい人だって言ってたけど
どんな関係だったのか
どんな…死に方をしたのか……
「教室戻ろっか」
「そうだな…」
多分、モヤモヤは取れたんだと思う
夢の中の声も
いつか、呼ぼうとした『れ』に続く言葉も
多分、分かったんだろう
だけど……
穂積は、どの位覚えているんだろう?
苗字は分からないと言っていた
ほんとに、部分的な場面だけ覚えてるんだろうか?
それとも…
人生の終わりまで覚えてるんだろうか?
それは…忘れてるべき事なんじゃないんだろうか?
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