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生きる意味
俺が、勝手な質問をして
聞くだけ聞いて、話を終わらせて
それからも、穂積の態度が変わる事はなかった
泣きそうな顔してたのに
それ程、嬉しそうだったのに
ほんとに、そんな事ってあるのかな
前の人生の知り合いが、また現代でも身近に居るなんて
穂積と俺は、どれ位の付き合いだったんだろう
学生の間だけ?
大人になってからも?
少なくとも、今くらいの歳の頃、一緒に居たんだろな
「蓮…」
こんな名前の奴、知らない
なのに…
なんて呼び慣れた感じなんだろう
なんで…
「蓮…」
胸が…
締め付けられるみたいだ
きっと、普通の友達じゃない
慎みたいに…特別な関係だったのかもしれない
知るのが怖い
知る必要はない
知らなくていい事だ
なのに…
穂積を見ると、何かを思い出しそうになる
よく、見上げられてた気がする
たまに、小さな手を握ってた気がする
学校じゃない…
何処か別の場所で会ってた気がする
頭がおかしくなりそうだ
俺じゃない
知らない記憶の欠片が降ってくる
パラパラ…パラパラ…
「穂積」
「何?」
「………いや…」
何がしたいんだ?俺は…
どうしたいんだ
どうしたらいいんだ
「もしかして、深山…俺がこの前話した事で、困ってる?混乱してる?」
「穂積のせいじゃない。ただ…勝手に、知らないはずの、何かが…次々……」
「深山…」
「穂積…頭おかしくなんない?思い出すの…怖くなかったのか?」
「俺は…勝手に夢で見ちゃったんだ。階段から落ちた衝撃で、それから少しずつ…」
階段から…
そうだ
落ちたって言ってた
「穂積は…今、穂積で居れてんの?」
「うん…混乱してた時もあった。特に、夢見た後は…けど、今は大丈夫」
「思い出さなきゃ、良かったって…思うだろ?」
「俺は…思い出して良かったって思う。今が、凄く特別で大切だって思えるから…」
それは…
穂積を見てると、なんか感じる
「穂積の…前の話…少しだけ聞いてみたい…」
「いいよ」
「話すの…嫌じゃない?」
「全然」
放課後より、休日がいいとの事で
土曜日…
「深山、お待たせ」
「いや…ほんとに用事なかったのか?」
「大丈夫だよ。行こ」
あまり、人に聞かれない方がいいだろうと
大きな公園へと向かう
「穂積、階段から落ちた時の怪我、大丈夫なのか?」
「もう、全然平気」
「そっか。その時、初めて思い出したのか?」
「ほんの少しね。けど、意識がちゃんとしてなかったから、前世とこっちが混ざってて…でも、それが前世の記憶だって事にも、気付いてなかったから、結構混乱してた」
そっか
そもそも、それが前世の記憶だってのも、すぐには…ってか、普通そんな可能性考えない
「よく、前世の記憶だって分かったな?」
「階段から落ちた後さ、熱も出始めて、何度も夢見てた。何度か見た夢で、俺は自分で体動かす事が出来ない位、弱ってた感覚だった」
「え?…じいちゃんになってからの記憶って事?」
色んな年齢の
色んな記憶が、混ざってんのか
「いや…じいちゃんになる前に、死んじゃったんだけど…自分の家族だけど違う。あの家族は?そもそも、あの俺は?って考えたら…多分あのまま死んじゃったんだろな…あの世界は、もう終わったんだって…分かった」
「その…俺にそっくりな人は、学生時代の…友達?」
「……あそこのベンチ、座ろっか」
「ああ…」
2人してベンチへと座ると
穂積が一息ついて、こっちを見る
「深山…蓮と、郁人兄ちゃんは…小さな頃に、病院で知り合ったんだ」
ドクン
何?
なんか…胸騒ぎが…
「病院って…たまたま同じ日に、受診してたのか?」
「いや…2人共…同じ病院に入院してたんだ」
ドクン
入院…
「深山…この話…もう少し聞く?やめとく?」
「あ……えっと……」
何か…思い出しそう
けど、思い出していい事なのか、分からない
「じゃあ、今日は、ここまでにしとこう?」
「……ごめん…自分でも、どうしたらいいのか、よく分からないんだ」
「思い出しちゃう時は、きっと、どうしようもないから。思い出したくないって、少しでも思うなら、そうした方がいいよ」
「…兄ちゃんって事は、その時は、同い歳じゃなかったんだよな?」
「うん。でも、凄く仲良くなったんだ…」
穂積が、嬉しそうな顔して、何もない空間を見つめる
きっと、話したいんだろな
だって、びっくりする位、その時の俺に似てるんだもんな
早く思い出して欲しいに違いないのに…
「穂積から見て…俺の人生……いや…何でもない」
思い出したくなる様な、人生だったと思う?
思い出さない方が、良さそうな人生だったと思う?
そんなの…穂積が知る訳ない
「深山は、深山 陸の人生…もしも来世で思い出せるなら、思い出したいと思う?」
深山 陸の人生…
「どうかな…今はまだ、ちゃんと昇華されてない気持ちとか、あるから……もう少し大人になったら、また変わってるかもな」
「……そっか」
そっかって言った穂積は
凄く大人びた顔で
でも、ほんの少し寂しそうでもあった
「俺は、今の人生…結構恵まれてると思うから、思い出したくないかなぁ…」
「?…いい人生なら、思い出したいんじゃないのか?」
「次も、いい人生とは限らないだろ?過去の自分が、羨ましくなって…頑張れなくなったら大変だ」
そっか
でも、そうだとしたら…
穂積の前世は今より、いいものではなかったって事になる
「穂積……大丈夫?」
「え?」
「結構…辛い事…思い出したりした?」
「…そうだな…けど…辛い事だけじゃないから。沢山…優しさとか……うん…大丈夫」
あ…
穂積…泣きそう…
なのに、頑張って笑ってる
胸が…締め付けられる
「ごめんっ…」
「え?…深山?」
気付いたら…穂積を抱き締めてた
何やってんの?こんなとこで…って、頭の隅で考えてる
けど…
「1人で…思い出しちゃったら、寂しいよな…誰とも共感出来なくて…辛いよな?」
「…今じゃ…ないから…ただの…思い出だから…」
「それでも…思い出の中でも、夢の中でも…蓮に戻った時…辛かったり……」
『蓮…おいで…』
あ…
『大丈夫だよ、蓮…』
記憶が…
「深山?」
『郁人兄ちゃん…』
『大丈夫…怖くないよ』
『うん…』
『ゆっくり…ゆっくり息するんだ』
「~~っ…蓮…」
「深山…もしかして…」
『郁人兄ちゃん…』
『どうした?蓮』
『昨日…いっぱい泣いてる声聞こえてたね…』
『おいで、蓮…』
『郁人兄ちゃん…~~っ…』
『大丈夫…俺がまだ生きてるんだ。蓮なんて、まだまだ大丈夫だよ』
『んっ…~~っ…郁人兄ちゃん…~~っ…怖いっ…』
『うん…怖いな。でも、1人じゃないよ』
思い出した
蓮は…
俺が一番可愛いがってた…
戦友…
けど、俺…
多分、蓮を置いて…
「…ごめんっ……最期まで…一緒に居てやれなかった…」
「っ…郁人兄ちゃんっ…~~っ…郁人兄ちゃんっ…」
「ごめんなっ…怖かったよな?…1人で逝くの…怖かったな…」
「~~~~っ…ごめんなさいっ…郁人兄ちゃん…一生懸命頑張ってくれたのに…俺…郁人兄ちゃんと同じだけ…っ…生きられなかった…」
「蓮…」
はっきりとは思い出せない
けど…
多分、相当若くして死んだんだろう
あんな小さな蓮が、他人事とは思えない程
俺達の傍には、死があった
「でも…最後まで頑張ったんだろ?」
「んっ…頑張った……葵も…父さんも母さんも…皆頑張ってくれたから……でもっ…~~っ…あんなにっ…皆頑張ってくれたのにっ…なっ…何にもっ…出来なかった……~~~~っ…ごめんなさいっ…」
ああ…そうだった
この感覚…
不安とか、恐怖とか…
それとは別に、常に罪悪感みたいな…
そんな事ないよって、言ってあげたいのに
分かり過ぎる位、分かってしまう
与えられただけ、返せればいいのに
いつも、与えられるだけ
「ん…俺も何も出来なかったよ…」
そういう思いも…
全部分かるから
「いっ…郁人兄ちゃんっ…はっ…俺に…いっぱいくれたからっ…」
だから、きっと…
ほんの少しでも
何かを与えられる蓮が
俺にとっての救いだったんだ
「違うよ…蓮が居てくれたから…俺は頑張れたんだ」
『蓮…ほら、郁人君居たよ?』
『郁人…兄ちゃん…』
『ふふっ…蓮は、郁人君大好きだもんね?』
『うん』
『じゃあ、入院頑張れる?』
『うん』
誰の役にも、何の役にも立たない俺を
心配や、不安しか与えない俺を
ただ、居るってだけで喜んでくれた
俺が居るから、頑張れるって言ってくれた
「蓮に…~~~っ…どれだけ貰ったか、分からないんだ…」
「俺の方がだよ?郁人兄ちゃんが居たから……俺も頑張るって思えて……大丈夫だよって…いつでも俺の前を歩いてくれたから……」
「蓮の為は、俺の為だったんだ。蓮が居なかったら…前を見るの怖かったかもしれない…蓮が居るからって思うと…頑張れたんだ」
『郁人兄ちゃん…何歳?』
『7歳』
『郁人兄ちゃん…小学2年生になった?』
『なったよ』
その時は、分からなかった
なんで、それを聞いて嬉しそうにしてたのか
後々、気付く
あれは…俺が自分と同じ病気だと知って
自分の寿命を確かめてたんだ
あんなに小さいのに、もう少し生きれるのかを確認してたのかと思うと…
泣きそうになった
どんどん記憶が降って来る
夢とか、何になりたいとか
そんなの考えられない俺に、与えてくれたんだ
俺の生きる意味を
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