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好きだから止められない
「シュウ…相談があるんだけど…」
嫌な予感に限って当たるもんだ
「シュウを不安にさせるから、言おうか迷ったんだけど…嘘吐きたくないから」
「うん……」
大丈夫
ただの昔話だ
「えっと…やっぱ…やめて欲しい?」
やめて欲しいよ
「あ、シュウも一緒に行っていいか、聞いてみる?」
それもそうだけど
2人でも会って欲しくないけど
「結叶…」
「え?」
「ユウが、混乱して…何度も泣いてたから…どうにかしてあげたい気持ち、分かる」
「シュウ…」
「優しいユウが好きだから…仕方ないけど……」
自分にしか、どうにか出来ないって、分かってて
何もしないで居られるユウじゃない
「シュウ?嫌なら…」
「約束して」
「約束?」
「その話してる時は…仕方ない……だけど、帰って来たら…ちゃんと結叶に戻ってて」
「…当たり前だろ?真っ直ぐシュウのとこ行くからさ、シュウが確かめてよ」
「ん…」
俺の知らない
2人だけの記憶の話
その世界に
俺は居ない
「いくら思い出しても…蓮には戻らないよ」
「ん…」
「蓮と郁人兄ちゃんの話をしてるのは…穂積 結叶と深山 陸なんだから」
「ん…」
分かってる
分かってるけど、その話自体が、理解を超えてて…
理解出来ない事は、この先また、何が起こるのかなんて、分からないから…
「シュウ…泊まってく?明日、行くまで一緒に居る?」
一緒には居たいけど
俺の知らない世界に行くユウを
きっと、凄く嫌な顔して送り出してしまうから
「ううん…帰る」
「シュウ…キスする?」
「…する」
「うん、しよ?」
いくら、ユウの中入っても
蓮には届かない
蓮の意識になった途端
このキスも全部忘れてる
生まれる前からの付き合いなのに
その前だなんて
どうやったって、敵わない
「ユウ…」
「んっ…シュ……んっ…」
「キスマーク…付けてもいい?」
「キス…マーク?…いいけど?」
意味ない
いくらマーキングしたところで
意味ないんだ
だけど…それでも…
「ぁっ…~~っ…んっ…」
ユウの心臓の近く
蓮の心臓じゃなく
ユウの心臓の近くに
沢山散らす
「んっ!…はぁっ…~~っ…んっ…ぁっ…」
最後に、柔らかい部分に触れたいけど
きっと、ユウ…凄い声出ちゃうから
「ユウ…ユウからも…キスして欲しい」
そう言って、ゆっくりとユウの体を起こすと
まだ息も整ってないまま
「シュウ…」
ユウがキスしてきてくれた
何度か重ねて
少し口を開くと
恐る恐る、ユウの舌が入って来る
「はぁ…ごめん…シュウみたいに…上手く出来ない」
「上手くなくていい…ユウが…俺の中に居るの…嬉しいから」
「うん…」
慣れない感じで
それでも、俺の中を探る様に…
「ありがと…無理言ってごめん」
「……無理じゃない。あとは?して欲しい事ある?」
「俺の名前…呼んで」
「シュウ…」
「もっと…」
「シュウ…秀真」
「ユウ……」
たかが何時間か会うだけだ
大丈夫
どれだけ居ても、何しても
明日が終わるまで、不安なんて無くならない
「そろそろ帰る」
「うん。じゃあ、明日ね」
「うん…おやすみ」
「おやすみ、シュウ」
なんで、前世なんて思い出したんだろう
そんなのより
どうせなら、生まれた時からの事、思い出してくれれば良かったのに
辛い事があった分
結叶より、ずっとずっと大切な思い出が、多いのかもしれない
シャワーを浴びても
ベッドに入ってみても
考えたくない事ばかりが、浮かんでくる
眠れない…
コンコン
「…シュウ?」
「朔兄…ちょっといい?」
「おお」
ガチャ
「まだ、起きてたんだ」
「何かあったのか?」
「別に…何かあった訳じゃない」
「…こっち来て座れ」
「うん…」
俺は、体も大きくて
甘えるなんて歳でもなくて
明日の事を話すかと言えば
それを口に出すのは憂鬱で
一体、何をしに来たんだろう
「どうした?ユウの事か?」
「うん…」
「喧嘩したのか?」
「してない…」
「手出して、嫌がられたか?」
「ううん…」
どうしたのか分かんなきゃ
どうしたらいいのか、分かんないよな
「大丈夫だ」
?
何も言ってないのに
朔兄が、そう言って俺の頭に手を置いた
「俺と大和を見ろ。あんな犬猿の仲でも、腐れ縁でも、全然切れねぇ」
「朔兄……分かってる…だけど…」
ユウじゃないんだ
蓮の話なんだ
「何が不安だ?」
「ユウが…ユウじゃなくなってしまうのが……俺の知らないユウを…知ってる人が居るのが…」
「ユウはユウだろ?知らない部分が出て来たって、ユウである事は変わらないだろ?」
「……っ蓮…の…事……知ってる奴が居て…」
「蓮……って……は?前に言ってた、ユウの前世とか言う奴?知ってるって、どういう事だよ?」
どういう事なんだろう
それだけ…強い絆だったのか
「いや…シュウに聞いたって分からないよな…そりゃ不安になって当然だ。そいつは、身近に居るのか?」
「ユウの…クラスに…転校して来て……ユウに会って…思い出してきたみたい」
「ユウのクラスに転校?出来過ぎじゃね?そいつ、ユウと親しくなりたくて、ユウの事調べたんじゃねぇの?」
「そんなの…調べられない…」
「まあ…そうだけどさ…」
嘘でも、気のせいでもない
遠い遠い記憶
深い絆
「ユウが思い出した時みたいに、混乱してるって…明日…会って話すって」
「そいつと2人で?ダメだろ」
「……でも…」
「そんなの…訳分かんねぇし…は?何…そんなんシュウが不安になるって、ユウ分かんねぇの?」
分かってる
分かんない訳ない
沢山、俺に気を遣ってくれてた
それでも、ユウが行くって決めた
だから…止められない
「悪い…分かんない訳ねぇよな…そんで、それを分かってるから、今、こうなってんだよな?」
「…ユウにとって…凄く大切な事……俺の事を思いながらも、どうにかしてあげたいって思う位、大切な事で、大切な人……それを止めるのは…ユウを否定する事…」
「シュウ…」
「ユウが好きだから…ユウの事が好きだから……止められない」
「馬鹿だな…もっとずる賢く生きればいいのに」
そう言って、朔兄が頭をガシガシと撫でる
だって、ずる賢いなんて、ユウに合わない
そんなの、ユウの近くに居られない
「今のユウが好きなんだ…俺のせいで…ユウを変えたくないんだ」
「じゃあ、我慢するしかねぇな」
「ん…」
「明日は家に居るから、いつでもここに来い」
「ん…ありがとう…朔兄」
そう
自分で決めたんだから
ユウを止めたら、きっともっと嫌な気持ちになる
ユウを信じて、待つって決めたのは俺
2人で、色んな思い出話するかもしれない
2人だけの思い出で、笑って、泣いて…
もしかしたら…
抱き合ったり、頭撫でたり…
でも、恋人としてじゃない
そこは信じてないと
それだけは…
ユウが、恋人だって思ってくれてるのは、俺だけ
だから…ユウから聞いてくれたんだ
キスする?って
結局、あまり眠れなかった
だからなのか、だるい…
起きたくない
ユウ…午前中に行くって言ってた
ゴソゴソと、布団を引っ張り
布団にくるまる
情けない
弱いな
起きる気力すらないなんて
けど、こんなんでも頑張ってるんだから
少し位、自分を甘やかしていいかなとか
思ってしまう自分が嫌だ
コンコン
あ…あのまま寝てたんだ
「シュウ…寝てるのか?」
「ん…寝てた」
ガチャ
「大丈夫か?」
「大丈夫…ただ、寝てただけ」
「こんなにダメージ受けてたんだぞって、そのままユウ待ってるか?」
「…待ってない。起きて、ちゃんと待つ」
「ふっ…そっか?」
こんな俺を
甘やかしながらも、こっちだよって
そっちがいいのか?
こっちもあるぞって
優しい朔兄が、大好きだ
「母さん、サンドイッチいっぱい作ってくれてたぞ。早く食いに来い」
「ん…行く」
美味しいサンドイッチと
なんとなく傍に居てくれた朔兄のお陰で
最悪な俺にはならずに済んだ
そろそろお昼
ユウ…何時に帰って来るかな…
昼ごはん、一緒に食べてからかな
食べたら…また話し出すだろうから
1時間…2時間…
やめよう
「シュウ…コーヒー淹れるけど、飲むか?」
「…飲む」
「オッケー」
「朔兄…」
「ん?」
「今日、朔兄が居てくれて良かった」
「そりゃ良かった」
そう言って、朔兄と笑い合った時…
ピンポ~ン
「っ!」
まさか…ユウだったり…
「シュウ?出ねぇの?ユウじゃねぇのか?」
そうかな…
こんなに早く?
そう思いながらも、気付くと体は玄関に向かってた
ガチャ
「シュウ、ただいま」
「…………ユウ?」
「ふっ…なんだよ、それ?穂積 結叶に見えない?」
「……~~~っ…見える…ユウ!」
「ごめん…ありがとう…シュウ」
俺より小さなユウの手が
抱き締めた俺の背中をポンポンして
ごめんと、ありがとうで分かった
良かった
止めなくて
変わらないユウを、真っ直ぐな気持ちで抱き締められた
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