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忘れてた訳じゃない

「おはよう、穂積」 「おはよう、深山」 不思議 郁人兄ちゃんの顔した 郁人兄ちゃんの記憶を持った 同級生の深山 深山の奥から 今も郁人兄ちゃんが見てくれてる気がする 「穂積、最近元気だね」 昼休み 給食を食べ終わった後、甲斐と何気ない会話をしてると、急にそんな事を言われた 「甲斐、俺は調子悪くなりやすいだけで、基本元気だよ」 「うん…でも、なんか…前より楽しそう」 「そう?」 「……なんかさ…深山と…仲いいよね」 ドキっとした 別に、やましい事はないけど 秘密の話ではある 「俺に妹が居て、深山にも弟が居るから、そういう話するからかな…」 「そっか……」 なんか… 甲斐…元気ない? 「甲斐…」 「東雲とは…変わりないの?」 「え?」 「あれから…また、キスマークとか…付けられたり…そういう事…してない?」 忘れてた訳じゃない 甲斐が、そういう話してこないから 触れない様にしてた 甲斐は、きっと まだ俺の事、好きだって思ってくれてる ちゃんと…話さなきゃ 「甲斐…俺……甲斐に話したい事がある」 「……そっか…そういう事…」 「ちょっと…外行く?」 「あんまり…聞きたくないな」 「じゃあ、甲斐が聞きたい時にする。甲斐は気持ち…伝えてくれたから、俺も…ちゃんと伝えるから」 そうだよね、大和… 「けどね、多分自分と全然合わないだろなと思ったり、他に好きな人居るのに、その子が可哀想だからって付き合うのは、その子の気持ち…大切にしてないって思う」 甲斐が、このままで居てくれるなら この関係性続けられるなら 曖昧なままにしておきたい気もする けど、それは甲斐の気持ち知っておきながら、騙してるって事だ 大事な事言わないで、今までと同じなんて 俺にとって、都合良過ぎる 「聞いていい?」 「うん」 「それって、ちゃんと穂積の気持ちで決めた事?」 「…え?」 「幼馴染みで…大切な奴だから…そいつの為に…そいつが喜ぶなら…とか…」 分かる 今なら、言われてる事分かる 「勿論、それも思ってる。それに、俺もよく分からなかった。だけど…ある事があって、自分の気持ちを知った。ちゃんと…そういう意味で大切なんだって、分かった」 シュウにとっては、あれも一つの大切な思い出 だけど、俺にとっては… 今、思い出しても…胸が痛くなる様な… 「そっか…ごめん。穂積の大切な気持ち…疑う様な事言って…」 「ううん。俺も、そう思えるまで、甲斐と同じ様な事考えたから」 「……穂積は悪くないし、嫌いになった訳じゃない。けど…少しの間…ちょっと……普通に話せないかも…」 「うん……分かった」 これで、いいのかな こんなんで、いいのかな 俺を好きなんだって シュウと同じ、泣きそうな顔して伝えてくれて だけど、俺が好きなのはシュウで だから、甲斐を選ぶ事は出来ないんだけど そんな風に思ってくれたのは、凄く嬉しくて だけど、それを伝えるのは、なんだか違う気がして 「ユウ…鍋…」 結局、あの後 甲斐は、トイレって言って、昼休みが終わるまで、戻って来なかった 「ユウ、鍋」 何処かで泣いてたりしたのかな カチッ 「っ?!」 突然、目の前にシュウが出て来た 「ユウ…調子悪い?あっちで休んでて」 「いや…調子悪くないよ」 「目の前で鍋、沸騰してるのに、全然気付いてない。危ないから」 「あ…悪い…ありがとう」 鍋の周りが汚れてて シュウが、拭いてくれている そう言えば…なんか、名前呼ばれてた気がする 「っ!」 「え?シュウ…大丈夫?」 「大丈夫…」 そう言って、水道の水を出すと 手を冷やしてる 「シュウ…火傷したの?!」 「大したことない…すぐに冷やせば大丈夫」 「見せて!」 「大丈夫」 シュウの右手の小指が、赤くなっている 鍋?コンロの方? どっちにしても、俺がぼ~っとしてたせいだ 「シュウ君、火傷したの?!」 「ごめん…痛いよな…」 「全然」 「んっと、んっと~…アイスノン!」 俺達の会話を聞きつけて現れた四葉が 動揺してる俺よりも、的確な治療方針を示してくれる 「四葉、シュウを向こうに連れてって、冷やしてあげて」 「分かった~」 「大丈夫…ユウ心配だから…」 「大丈夫。もう、ちゃんとするから、向こう行って、休んでろ」 「……分かった」 何やってんの俺… シュウを選んで、甲斐を悲しませて 甲斐の事考えて、シュウを傷つけて 「最悪…」 大和に見てもらって 母さん達に見てもらって 冷やしてれば大丈夫って言われたけど シュウの小指は、赤くて 痛々しかった 「ごめん、シュウ…俺がぼ~っとしてたせいで…」 「もう大丈夫…蓮の事…考えてたの?」 「え?」 シュウが、めちゃくちゃ不安そうな顔してる! 「違う…ちゃんと、俺の…結叶の事」 「そっか…俺、何か出来る事ある?」 「…ありがとう…でも…俺が考えなきゃならない事だと思うから…」 「……そっか。何か出来る事あるなら、言って。俺、今日はもう帰る」 あ… 「シュウ!」 思わず、立ち上がったシュウの腕を掴む 「ユウ?」 「えっと…なんか…シュウに気を遣わせた?俺…嫌な態度とか…」 「してない…大丈夫」 「そっか…」 何もしないでってのも変だけど もう帰るなんて言うから、ちょっとびっくりした 「ユウ…」 シュウが、ゆっくりと抱き締めてきた 「ユウが、何か頑張ってるって分かったから…」 「…え?」 「何か…1人で頑張んなきゃならない事、なんだろ?」 「……うん」 「手を貸して欲しいなら、いつでも貸す…けど、そうじゃないなら、邪魔したくない」 「シュウ…」 ほんとは、この、どうする事も出来ない重たい気持ちを、どうにかしたい だけど 俺が選ばなかったせいで、甲斐は1人で辛い思いしてる なのに、俺だけ甘やかしてもらうなんて、ずるい 「ありがとう、シュウ。考えたところで、何か出来る訳じゃないんだけど…でも、ちゃんと考えたいんだ」 「うん……あまり無理しないで」 「分かった。ありがとう」 翌日、甲斐とは、朝のおはよう以外話す事がなく その次の日には、おはようを言うタイミングもなくて 次の日には、視線を合わせたら、逸らされた このまま…話す事なくなっちゃうのかな… なるべく普通にしてるつもりだけど  シュウは、あれ以来… 俺の部屋で少し話すと、少しの間抱き締めて 大丈夫か、何か出来る事はないかを確認して、帰って行く 「はぁ~~…」 お昼休み 甲斐と、目も合わせられない教室から出て 体育館のギャラリーで、溜め息を吐く そろそろ大和に相談してみようかな 俺は、このままで居るべきなのか それとも、俺から何かした方がいいのか なんとなく、1人で悩んでるかもしれない甲斐を思うと 他の人に話して相談するって、どうなんだろ… とか、思ってたけど これ以上時間経ったら、何かした方がいいと言われても、話す事すら難しくなりそうだ 「はぁ~~…相談してみるか…」 「何を?」 「ぅわっ!びっくりした!深山…」 「そんなに?ははっ…」 「全然、気配に気付かなかったよ」 「ん…すっごく深い溜め息で、何か考えてたもんな」 一瞬、体浮き上がったかと思った 「甲斐と…喧嘩でもしたのか?」 さすがに、周りも気付いて そんな感じで、見られてるなぁとは、思ってた 「喧嘩じゃないんだ」 「そうなんだ」 「けど…甲斐が元気ないのは、俺のせい」 「ふ~~ん?」 言ってしまいたい けど… 同じクラスの奴に、知られるなんて 絶対嫌に違いない 「ふっ…穂積は、俺と違って、見た目全然違うのに…」 「え?」 「やっぱ、蓮の魂の持ち主なんだなぁ…って思う」 「そう?」 「ん…蓮と同じ…我慢強くて、頑張り屋さんで…一生懸命生きてる」 なんか… 郁人兄ちゃんに褒められてるみたいで、嬉しくなる 「ありがとう…」 「郁人兄ちゃんが、相談に乗ったげようか?」 「え?」 「深山 陸には、内緒にしといてやるぞ?」 甲斐が知られたくないって気持ち 分かってくれてるんだ 「…郁人兄ちゃん…好きだって言われて…断った事ある?」 「……あるな」 「その後…した方がいい事とか…ある?それとも…何もしない方がいい?」 ごめん、甲斐… でも、郁人兄ちゃんは大丈夫だから 「人によるんじゃないかな…もう関わりたくない人…やっぱり友達でいたい人…けど、やっぱ元通りって訳にはいかないし…自分自身どうしたいのか…したいと思う事が出来るのか…気持ちの整理つくまでは、結構時間かかるかもなぁ…」 「……そう…だよね…」 結局、甲斐からのリアクションを待つべきなんだろな 自分が苦しいからって、逃げる様な事考えて… 「難しいよな…親しい人なら尚更…お互いに、今の状況が一番苦しいよな…」 「今が一番?今よりも甲斐…苦しくなる事ない?」 「…人の死とは、また違うけどさ…辛い気持ちを乗り越えるには、やっぱり時間って必要で…時間は…乗り越える為の力…くれるんだって思う」 幼馴染みの死を受け入れて、泣くまで1ヶ月かかったって言ってた だけど… 今、こうして…俺の相談に乗ってくれてる 「うん…時間って、必要なんだね」 「そうだな…その人の気持ちと向き合ってた、辛い期間があったってのも…きっと、大事な事なんじゃないかな…」 「そっか……そうだね」 甲斐と、また友達に戻れるのかは、分からない このまま、気まずくなってしまうのかもしれない けど… 高校入ってから、1番仲良くなった友達が甲斐で 俺の事、好きになってくれて それは…なくならない 「よし!答えが出なくても…今は、思いっきり悩んで、考える!それが今、俺に出来る事だ」 「ん…穂積、なんか元気になった」 「俺が、あんまり元気になんない方が、いいのかもしんないけど…」 「そんな事ないだろ?好きな奴が元気ないのは…どんな状況でだって、見てて辛いもんだ」 「そっかな…じゃあ、元気になる!」 何が正解なのか分からない 何が、もっと辛くさせてしまうのかも けど、きっとそうやって、考える事が大事なんだ 俺とじゃなくても 甲斐がまた…笑える日が来るまで…

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