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夢から覚めたら終わり

深山と話した翌日… 「おはよう…穂積」 「甲斐…おはよう!」 甲斐から話し掛けてくれた! おはようだけだったけど 甲斐から… 嬉しい その日の昼休み 「穂積…ちょっといい?」 「うん」 教室から出ると 「外…出てもいい?」 「うん」 甲斐と一緒に校舎を出て なんとなく、グラウンドの方へと歩く 「穂積…嫌な態度とって…ごめん」 「全然…話し掛けてくれて、ありがとう」 「実は…まだ、全然気持ち…整理出来てないんだけど…」 「うん…」 「穂積に…嫌な事する自分が…嫌過ぎて…」 「甲斐…」 そんなの… わざとじゃないのくらい、分かってる 甲斐の気持ち、ちゃんと分かんなくたって 甲斐が、そんな奴じゃないの、知ってるから 「自分でも、どうしたいのか、まだ分かんないんだけど…また、同じ態度とっちゃうかもなんだけど…でも、一回謝っておきたくて…」 そう思ってても、そうしちゃうくらいの気持ち なのに、俺の事考えてくれてる 「甲斐…謝んなくても、分かってる。甲斐は、イジワルでそんな事する奴じゃない」 「穂積…」 「正直…甲斐の気持ち、想像しようとしても、分からない。だけど、甲斐があのクラスで、俺の1番の友達で、好きになってくれて…そのせいで、苦しんでるのは分かる。だから…甲斐が辛い間は、俺も辛くたって、いいと思う」 「いい訳ないだろ…そんな…俺の勝手で…」 それを言うなら、俺だって俺の勝手だ 同じく俺に気持ち向けてくれたのに 甲斐を選ばなかった 甲斐に何か足りない訳でも もちろん、甲斐が悪い訳でもないのに 「俺は、俺の勝手で甲斐に辛い思いさせてる。甲斐が、どうしたいのか決めるまで、俺になんか気を遣わなくていい」 「穂積…」 「甲斐の…大切な気持ち…俺は受け取らなかったんだ。甲斐…怒ったっていいと思う」 「穂積…優し過ぎ……穂積が、俺を選ばなかったのだって、イジワルでじゃないって分かってる。ちゃんと…俺の気持ち考えてくれてるのも…だから……だけど…」 甲斐の中の、色んな気持ち こんな風に話せて… 挨拶出来ただけで嬉しくて 出来れば、また友達として居たいけど… 「ありがとう。甲斐に…俺とじゃなくても、また学校で笑ってて欲しいから…だから、もしも俺に出来る事……なんて、ないと思うけど…せめて、俺の事なんて気にしないで」 「……穂積は…ほんとに…恋人として、東雲の事…好きなんだよな?」 「うん」 「うん……」 甲斐の瞳が、少し揺らいでいる 潤んでる? 「1つ…お願いがあるんだけど…」 「何?」 「……抱き締めて……口じゃなくていい…キスして欲しい」 「……え?」 「すぐ決めなくていい…穂積のタイミングでいい…ほんとに嫌なら、断わっていいから…」 ほんとに嫌な訳じゃないけど そんな事していいのかな シュウにもだけど 「甲斐は…ほんとに、それ…して欲しいの?」 「…して欲しい……あり得ないから…」 「……どういう事?」 「穂積が…俺にそんな事…あり得ないだろ?だから…そんな、あり得ない事起きてるのは…もう、この気持ち…終わりにするからだって…最後に…夢みたいな事起こって…夢から覚めたら終わり…」 そんな風に、思えるのかな 大和や四葉と、抱きあったり、キスするのと 好きだって気付いてから、シュウとそういう事するのとでは、全然違う 好きだって思ってる人と…そんな事して… 「甲斐は、辛くならないの?」 「どうせ…辛いから……ほんのちょっとだけでいい…そういう思い出…欲しい」 シュウと相談するって言いたいけど それは、聞きたくないだろな それどころか、シュウだって、相談されたくないよな 「……いいよ」 「…え?」 「甲斐が、ほんとに望むなら、いいよ」 「…ほんとに?…もっと…考えなくていいの?」 「うん」 俺が…俺の責任で決めた 責められても、憎まれても、仕方ない 一番大事な…シュウを泣かせてしまうかもしれない だけど… 「それで甲斐の笑える日が近付くなら…甲斐が望むなら、いいよ」 「~~っ…ありがとう」 甲斐も… 俺のせいで、いっぱい泣いたんだ シュウには、これから 泣かせた分、沢山沢山笑わせるから… でも、甲斐には、今しか返せないから 結局、学校帰りは時間がないので 週末、甲斐と会う事になった シュウに言うべきか、どうしようか 迷いに迷って 言うのをやめた ちょっと、クラスの友達と遊びに行く それだけを伝えると 深山じゃないのかを確認され… そうだった そういう不安も、まだ残ってるのかと シュウにも申し訳なくなり だいぶ、決心が揺らいだけど… 「甲斐」 「穂積…来てくれて、ありがとう」 外で、する事でもなく 俺の家に、甲斐を呼ぶのもなと思い 甲斐の家へと来てしまった まあ… 何度か、遊びには来てるんだけど 今日は、するべき事が、これまでとは違う 「誰も居ないの?」 「うん。俺、泣くかもなぁ…と思ってさ…友達と遊んでるから、2人で夜までゆっくりして来なよって、両親追い出した」 「甲斐…」 笑ってるけど… 目の下…クマ… 眠れてない? 「まあまあ…とりあえずは、ジュースでも飲んで」 「うん…いただきます」 「よく、東雲…俺のとこ来させたね…」 「シュウには…クラスの友達ってしか言ってない」 「そっか…まあ、お互い…その方がいっか…」 もう、こうして遊ぶ事ないのかな クラスでは…挨拶くらい出来るのかな 甲斐は… 俺を見る度、嫌な気持ちにならないのかな 「今日が終わって…月曜日に、どんな気持ちの自分自身になってるのか…まだ分からない」 「うん」 「こんな事まで頼んでおいて…穂積の顔見た途端……泣きそうになって…目を逸らせるかもしれない」 「構わないよ」 泣きそうになって 逸らせてたんだ 「それが続いたら…また…~~っ…挨拶も…出来なくなるかもしれないっ…」 「うん」 「皆に…っ…穂積まで…変な目で見られてっ…色々聞かれるかもしれないっ…」 「聞かれても、言わないよ」 「…っ…東雲に…っ…バレたらっ…~~っ…穂積…凄く辛い思いっ…するっ……分かって…っ…」 分かってるんだ 俺の事まで考えてくれて それでもなんだろ? 「それは…甲斐が気にする事じゃないから。選択権は俺にあった。俺が…決めて、ここに来たんだ」 「~~っ…穂積…いい?」 「いいよ」 「~~~っ…」 ゆっくりと、甲斐が抱き締めてくる 恐る恐る…弱々しく 「甲斐…これ…言わない方がいいかと思ったんだけど…」 「っ!」 あ… びくっとさせちゃった ゆっくり…優しく、俺も甲斐を抱き締める 「やっぱり、ちゃんと伝えたいから…同じ気持ちにはなれなかったけど、そんな風に特別大切に思ってもらえたの…凄く嬉しいから…」 「穂積…」 「応えられなのに、こんなの言うの、どうかと思ったんだけど…でも、やっぱり嬉しいから…俺の為に…こんなに辛い思いするくらい…必死に思ってくれたの…感謝してる」 こういう時 何を言うのが正解なのか、分からないけど 「ちゃんと…気持ち大切にして、自分のほんとの気持ち…伝えるって、覚えとくよ」 大和から教えてもらったから 沢山居る中で、俺を選んでくれた人に… 「ふっ…感謝してるって…~~っ…変なのっ…」 「ごめん…こういう時…何言ったらいいのか、分からなくて…」 「~~っ…穂積のっ…そういうとこ好きっ…」 「え?」 「分かんなくてもっ…出来なくてもっ…一生懸命……っ…~~っ…結果…どんなでもっ…いつも笑ってて…っ…優しくて…~~っ…穂積っ…ほんとに…好きなんだっ…」 体の奥からの気持ち… 受け止め切れないくらい 沢山の気持ち 「ありがとう…そんな風に思ってくれて……同じく思えなくて…ごめん」 「~~~~っ…っ……~~っ…っ…」 沢山優しくしてあげたい ずっと、横に居て慰めてあげたい だけど、それはきっと 優しさじゃなくて ただの罪滅ぼしだ 「甲斐…何処に…キスして欲しい?」 「~~っ…っ…っ…ほっ…ぺ…」 「うん…分かった」 「もっ…もうっ…する?…っ…ちょっと…待って…」 甲斐が、少しぎゅっとしてきた そうだよな 気持ち… 色んな気持ちの準備… 「甲斐のタイミングでいいよ」 「んっ…ちょっと…っ…待って…」 「うん…」 もう…泣きじゃくってて… 俺まで…泣いちゃいそう… 「待って…ねっ…今っ…ちょっと…落ち着っ…からっ…」 こんな大きな気持ち、終わらせる為のキス どんな気持ちで、今日を迎えたんだろう 「~~っ…いいよ…落ち着くまで、待つよ」 泣くな 俺が泣くのは、ずる過ぎるだろ 何度か、甲斐が深呼吸をした後… 少しして… 「穂積…お願い」 そう言って、俺から体を離した 甲斐の目は真っ赤だけど 涙は止まってて 少し…笑ってた 「うん…するよ?」 「うん」 ゆっくりと、甲斐の頬に近付く ほんの僅か、皮膚に触れると 少し甲斐の体が動いた そのまま、ゆっくりとキスをすると 上から、止まってた物が、流れてきた これは… どんな涙なのかな… 俺を好きになってくれて、ありがとう 気持ちを込めて ゆっくりと、離れる 甲斐を見ると 号泣してた 驚く程に 「甲斐…」 「~~~~っ…ありがとう…っ…ありがとう…穂積っ…」 して…良かったんだよね? そう…聞きたくなるくらい泣いてる 「甲斐…」 大丈夫?とも聞けず… 「ごめんっ…やっぱ……すげぇ…泣いちゃうっ…~~っ…ごめんっ…穂積…」 「……分かった…帰るね?」 「~~~~っ…ごめんっ…」 「ううん……また…学校でね」 「~~っ…ありがとうっ…」 甲斐の部屋を出て、ドアを閉めた途端 我慢してた物が、溢れてくる ぼやけ始めた視界の中、階段を下りて 靴を履く 「お邪魔しました」 もう、来る事はないかもしれない甲斐の家 玄関のドアを閉めると どんどん流れ落ちてくる 「っ…~~っ…っ…」 甲斐の前じゃないから、いいよね 「~~っ…っ…っ…」 優しくしたいのに 誰も悪くないのに こんなに、大切な人を傷つける事ってあるんだ 「~~っ…ごめっ…甲斐っ…~~っ…ごめっ…」 きっと、かなり怪しい奴だったと思う 家の近くの公園まで 俺は、号泣しながら歩いた

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