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最高の安眠グッズ

玄関のドアが開いた音と、階段を上る音がして ユウが帰って来たんだと思ったら パタン… 俺が居るって分かってて、一言もない これは、おかしい コンコン 「ユウ?帰って来たの?」 「……うん」 「……大丈夫?何かあった?」 「……うん…ちょっと……うん…大丈夫…」 これは、大丈夫じゃないな クラスの友達と遊んでたんだよな? ユウに限って、苛められたりはしないと思うけど……… っ! 嫌な事されたとか?! 無理矢理、襲われたりしてないよな?! 「ユウ?ちょっと入っていい?」 「…………」 泣いたりしてない? 「ユウ…入るよ?」 「…………」 ガチャ 中に入ると ? 何処に… 「ユウ…」 見当たらないと思ったら ドアのすぐ横に、体育座りしてた 「…どうした?」 「…………」 しゃがみ込んで、顔を覗き込む 「誰かに…嫌な事された?」 そう聞くと、ぶんぶん首を振る とりあえず、そういうんじゃないんだ けど、俯いてる顔が… 真っ赤な目で、めちゃくちゃ泣いた後… 「じゃあ、何があったか聞かないから、ユウがしたい事して、言いたい事言っていいよ」 そう言ってみると 「……俺…凄く人を傷つけて来た」 「…え?」 そんな訳あるか この…優しさで出来てるユウが そんな事するはずがない 「今…凄く泣いてる……俺のせいで…泣いてる」 「…それは…どうしようもない事なんだろ?」 「……どうしようも……うん…」 「それじゃ、仕方がないよ」 「どうしようもなくても…仕方がなくても……俺のせいで、泣いてるんだ」 こんな優しい子が 自分のせいで、誰かが泣いてるなんて思ったら… 「……じゃあ…ユウも泣きたくなるね」 「~~っ…俺が泣いたって…」 「それでも……おいで、ユウ…俺は事情を知らないから…ただ、泣いてるユウを慰めるだけ。いいも悪いも知らない。でも、泣いてるユウを1人には、しておけないから…おいで」 そう言って、少し抱き寄せると 「~~~~っ…ごめんなさいっ…」 そう言って、抱き付いてきた 「うん…」 何があったんだ? 「せっかく…っ…~~っ…ごめんっ……」 「うん…」 せっかく… 何か…ユウの為に準備してくれた? 「~~っ…っ…んにもっ…悪くないっ…のにっ…俺がっ…~~っ…俺がっ…」 「ん…そっか」 なんか… 受け取れなかった? 「っ…ごめっ…~っ…んっ…~~っ…っ…」 人の優しさとか、思いが込もってるもの なんか…受け取れない事情があったのかな 俺に詳しく言えなくて シュウを置いて、遊びに行くくらい、仲のいい友達で… この前言ってた、前世の友達か? 実は…ユウの事が好きだったとか…… あり得る! 普通じゃない繋がりなのに そんな好意を寄せられて、断るとか… そりゃ、泣くわな いや、分かんないけど… でも、なんか… そういう話な気がしてきた 「よしよし…頑張ったな」 「っ…俺は…~~っ…頑張ってないっ…」 「そんな事ないだろ?こんな風に泣けるくらい、真剣に考えたんだろ?」 「っ…大和っ…教えてくれたこっ…~~っ…思い出しっ…っ…考えたっ…」 「そっか…」 教えてくれた事? 何言ったっけ… 「可哀想っ…って…付き合うのっ……大切にしてないって……」 「うん…」 あれか! やっぱ、そういう話か 「っ…泣いてもっ……俺っ…ほんとの気持ちっ……伝えたっ…~~っ…傍に居て…あげたかったけっ……~~っ…帰って来たっ…」 「そっか…沢山考えたな…よく頑張った」 「~~っ…大和っ…大和っ…」 「よしよし…その子の気持ちも、シュウの気持ちも…ユウの気持ちも大切にして、偉かったな」 「~~~~っ…ぅっ…~~っ」 あれ…待てよ 前世の友達なら、まあいい まさかの… 眠ってるユウに、キスマーク付けた奴じゃないよな? 絶対、そいつも気があるもんな そいつだった場合… こんなに泣いてやる事なんてないのに あの罪だけで、万死に値するのに いやいや 普通に考えたら、女の子だろ 女子だよ女子 けど、なんでかな 男子って考えた方が、しっくりくるんだよな 「目…腫れてる?」 「少しね。ちょっと冷やしてれば、赤みが取れる頃には、分かんないよ」 「うん…ごめん、大和…ちゃんと話もしないで…」 「いいよ。タオル持って来るね」 「ありがとう」 今までも、ユウを好きな子、居たと思うけどな なんか、ユウがあんな感じだから 直接は、言えなかったのかな これから、何度告白されるか分からないのに ユウの心…大丈夫かな 告白した本人が、笑える様になって、他に好きな人が出来て… そうなっても、ユウが自分で残した傷痕は、消えない気がする 「もう少し、適当になってくれないかなぁ…」 もっとドライじゃないと 気持ちが持たない 「はい、タオル」 「ありがとう……はぁ~……なんで俺…すぐ泣いちゃうんだろ……」 「すぐじゃないだろ?…泣くって、凄いエネルギーだよ。その子の為に使ってるんだろ?」 「俺が泣いても、誰も幸せにならないのに…」 「感情なんて、そんな器用に、コントロール出来るものじゃないだろ?」 「うん…」 特にユウはね 俺やシュウより、何倍も、人の気持ちに影響されるから 「……大和は、凄いな」 「何?」 「こんなの…俺達に心配もかけずに、何度も乗り越えてきたんだろね」 「俺は、ユウほど優しくないから」 「……自分で決めた事なんだから、泣かないで…進まないとね」 全然強くなんてないのに 全然要領なんてよくなくて 必死で踠いて進んでく ユウの方が、ずっと凄いんだよ 「ユウ…また少し大人になったね」 「進むの…遅過ぎかもしんないけど…」 「そんな事ないよ。成長するのには、痛みが伴う事もある。ユウは、いつも頑張ってる」 「……ありがとう…なんか…知らない誰かでも、知らないとこで話されるの、嫌かなって…シュウにも言ってなかったんだけど…少しだけど、大和に話したら…だいぶ気持ち、落ち着いた」 ユウは、人の気持ちに影響されやすい こんだけって事は、相手も相当思ってるって、伝えられたんだ シュウに言わないのは、分かる よく、俺に言わずに居られたな 「俺…泣きながら歩いてる、怪しい奴だった」 「誰にも声掛けられなかったか?」 「うん。怪し過ぎて、掛けられなかったんだと思う」 「もしも声掛けられても、どんな状況でも、付いて行っちゃダメだぞ?」 「…え?」 泣いてる子に声掛けて こんな可愛いかったら、誘拐されるかもしれない 「ふっ…四葉じゃないんだから。俺もう、中学生で男だよ?」 「関係ないよ。男でも女でも、何歳でも、イカれた奴らにとっては、関係ないんだ」 「……大和?」 「ユウの大切な人達を悲しませたくないだろ?」 「うん」 「だったら、何歳になっても気を付けなきゃ」 「…分かった」 昔みたいに、いつも一緒には居られない 朔の奴なんかより、ずっと あいつとは別の理由で…あんな事…される危険が、充分にある 「大和もだよ?」 「ん?」 「俺より、ずっとずっとモテるんだから、気を付けてね」 「ふっ…うん。気を付ける」 俺に、そんな事しようなんて思う奴居ないよ そんな風に生きてるから 好かれる様に 守ってもらえる様に ユウとは違うんだよ 「そろそろ、どう?」 「う~~ん…よし、可愛いユウの出来上がりだ」 「シュウに泣いてたの、バレない?」 「ん…シュウに…会いに行くのか?」 「うん。きっと心配して待ってる」 「そうだろうけど…無理しなくていいんだぞ?」 「うん…でも、俺が会いたいんだ」 「……そっか。行っといで」 泣いてたのは、隠して 話した内容は? 会ってた人は? 全部1人で抱えたまま、シュウに今会って、大丈夫か? けど… 「行って来るね。ありがとう、大和」 「行ってらっしゃい。もしも、朔の奴が居たら、今すぐ、こっち来いと伝えてくれ」 「ふっ…朔兄が居たって、別にいいよ」 「いや、あいつに話があるから、もし居たら伝えてくれ。大至急だぞってな」 「ふふっ…うん」 玄関を出て行く後ろ姿は 中2の男子としては、まだ全然華奢だけど あのカプセルの中の、赤くてシワシワだった、可哀想な子が こんなに大きく成長した 1人じゃ、他の人達よりずっと弱いのに 少しずつ手を貸してもらいながら 誰より一生懸命生きてる あの小さかった頃から変わらない ガチャ 「…んだよ…ったく……げっ?!なんで、玄関で待ってんだよ?!」 「……はぁ…なんで、お前は…いつでも煩いんだ…」 「はあ?!さっさと要件を言いやがれ!」 「はぁ…煩い煩い」 「おい!待てって!さっさと言えよ!」 こいつが登場すると、こいつの世界が押し寄せて来る 煩くて煩くて 馬鹿は、煩くて困る 「なんだよ?俺の家空けて欲しけりゃ、適当に出掛けるし」 「いいから、お前もこっち来て寝ろ」 「はあ?全っ然眠くねぇし!」 「お前がどうかは、関係ない。煩い」 「いや…静かにするし」 「……いいから、さっさと来い」 なんだかんだ文句言ったって 結局、俺の言いなりなんだ 「はぁ…ユウと、なんかあったのか?」 「ある訳ないだろ…静かにしろ」 「ああ?…ったく、なんだってんだよ」 寝るって言ってんのに、煩い奴 煩いのに、こいつの気配も匂いも 眠気を誘う 「……布団…かけろ」 「へぇへぇ…寝不足か~?」 「……いいから…お前も…静かに…」 こいつの匂いで、なんか安眠グッズでも、作っておいた方がいいのかな こいつの前なら、気が抜けるって、無意識的に、スイッチオフになんのかな 「鍵、あんだろが…勝手に入って来て、俺の部屋で寝てりゃいいのに…」 そんな声が、遠くから聞こえてきて あったかいものに、頭を覆われた なんか、気持ちが騒いだから お前が、あり得ない格好して、ぶっ倒れてた時と カプセルの中の、可哀想な子と 色んな事、思い出しちゃったから… 俺の気を落ち着かせる為に 使えるものは… 使ってやらないと…… こいつは、馬鹿で煩いけど… 最高の安眠グッズ……

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