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かけがえのない存在

「…ん」 あ… なんか、すっごく熟睡してた 「ん~~っ…」 あれ? 「ユウ…起きたの?」 あ… シュウと寝てたのか どうりで、伸び出来ない訳だ 「ん……あっ…」 俺… 裸だ!! 「寒くない?」 「寒くはないけど……んしょっ…」 ちょっと、布団から出てみると… 「寒っ…布団から出ると寒いや」 「ユウ、凄く汗かいてたから…一応タオルでは拭いたんだけど…」 げっ… そんな事させてたの シュウが、布団から少し出た俺を、布団の中に戻す 「ありがとう…全然気付かなかった」 「ユウ…体大丈夫?…その…凄く…感じさせちゃったから…体中、相当力入ってたし…」 「……何も…話さないで、変な事言って…ごめん…」 「ユウが、それでいいならいいけど……ユウ…中、結構触っちゃったけど、痛くなってたりしない?」 痛く? 別に痛くない 中って痛くなったりするのかな? 中………っ?! 「ユウ?痛いの?」 「シュウ!」 「何?」 「指!大丈夫だった?!」 「……大丈夫って?」  忘れてた! おかしくなってて あんまり気にしなかったけど 「お風呂入ってなかったし!例のアレ!あり得ない物!付いてなかった?!」 お願い! 付いてませんように… 「ああ…付いてても、気にしないよ」 「そんな訳あるか!付いてたの?!めちゃくちゃ洗った?!」 「付いてないし…」 「あ…そう……はぁ…良かった」 「…ユウ…ちゃんと出てる?小さい頃は、毎日凄くいいの出てる!って自慢してたけど…」 「んなっ?!」 そんな事、俺自慢してた?! そうだった? …そうだったかも 小さい頃だしな 「ユウのお腹…ペタンコだし…」 「っ…くすぐったいよ」 「中…触れても、付かないし…心配」 「なんのだよ?今だって、快便だ」 「ほんとに?だったら、いいけど…」 なんか、変な会話 でも、シュウの指が無事で良かった 「シュウのお腹は…」 「っ…」 「あ、ごめん」 「急に触られたから、びっくりしただけ」 シュウのお腹は、男らしい いいな 俺のフニャフニャと、全然違う 「俺も、一応少しだけど、筋トレしてるんだけどなぁ…」 「少しずつでもしてるなら、そのうち変わってくるよ」 「ほんとに?!」 「うん…だけど、出来れば俺より強くならないで欲しい」 「……ぶっ…そんな、心配そうに言わなくたって、シュウを追い越す日なんて来ないって」 どんだけ差があると思ってんの? シュウも、朔兄も、大和も 俺なんか、絶対に追い付けない 「…それ位しか…ないから…」 「?…何が?」 「ユウより体が大きくて…力が強い位しか…ユウより凄いとこないから…」 「…な…何言ってんの?そんな事思ってんの?」 シュウが また、すっかり忘れてた 俺に忘れ去られてた、傷痕に触れてくる 「ユウみたいに…強くて優しい気持ちになんて、なれないけど…体は…強くなれるから…」 「……今日…シュウの優しさに、どれだけ救われたか分かる?…だって、聞きたいだろ?なのに、聞かないで……それは…強くて優しくて、俺を想ってくれてなきゃ、出来ないだろ?」 ちゅっ 「んっ…」 シュウが、傷痕にキスしてくる 「それでも…ユウに貰ってる物とは、比べ物にならない」 「そんな事ないよ」 「…………」 痛そうな顔するなよ 俺が痛くないんだから 「やっぱ、鏡見ても、よく分かんないんだけどな」 シュウがキスして、じっと見つめてる辺りを、指でグリグリと押しながら探ってみる 「ユウ!そんな強く触っちゃダメだ!」 「全然痛くないもん…ってか、グリグリしても、よく分かんないし」 「……分かるよ…今でも鮮明に覚えてる。小さなユウの頭から…赤い血が止まらなくて…全然止まらなくて…なのに、ユウは俺の心配してて…」 「シュウ…なんて顔してんの。昔の一瞬の事だろ?」 鮮明に覚えてんなよ さっさと忘れろよ 俺の傷痕も、今更こんなに想われて、びっくりだよ 「大きくなって…強くなって…ユウを守りたいって思ってるのに……守るどころか…苦しめてばかりだ」 そう言いながら、俺の頭の後ろを撫でてくる 「頭…傷残らなくて良かった…」 頭の傷… 「ああ!階段の?別にシュウのせいじゃないってば」 「そうは思わない。そのせいで、蓮の事思い出して…ユウは、沢山泣く事になった」 何度も言ってるんだけどな シュウのせいじゃない 嫌な事や悲しい思い出ばかりじゃないって… 「シュウ…もうさ、俺の人生は、そんな風に決まってたんだって、思う事にしよ?」 「そんな風に?」 「うん。遅かれ早かれ、階段から落ちなかったら、別の何かにぶつかったりしてさ、前世の記憶、思い出す人生設計だったんだって」 「人生…設計?」 そんなの知らないけど でも、思い出したら、繋がってくる、沢山の事も縁もあるから 「そ。途中で、シュウに変えられたんじゃない。そもそも蓮を思い出す予定の、俺だったんだ。それも含めて結叶。そして、そんな俺を受け入れてくれる人達のとこに、生まれたんだ」 「……そう…なの?」 「そ。そういう事にしよ?蓮を思い出した事で…結叶の大切な人に…いつまでも、そんな顔させたくない」 「ユウ…」 俺にとって、蓮は大切で 郁人兄ちゃんも大切で だけど、それは終わった記憶 今、結叶が生きてる世界には居ない人達 深山だって、忘れられない人に出逢って、そういう人生歩んでる 今を、一生懸命生きてる 「あの頃、欲しかった親友が居る。あの頃欲しかった幼馴染みが居る。あの頃は知らなかった…人を…好きになる気持ち知った。あの頃を思い出してなかったら…それが、どんなに凄い事なのかって気持ちに、ならなかった。全部…シュウがくれたんだ」 全部…全部… まるで、用意されたみたいに 俺の為に生まれてきてくれたみたいに 「俺は…前世の事なんか知らない…でも…前を知らなくたって思ってる…ユウが親友で…幼馴染みで…恋人で……それが、ユウだった事に…どんなに感謝しても足りない位…奇跡みたいだって思ってる」 「シュウ………そうだな。俺も。前世を思い出してなくたって、シュウが親友で幼馴染みで良かったって思ってたよ」 「ユウ…」 思い出す前は こんな風にキスする様な 恋人同士では、なかった 不思議だね、シュウ… あんなに長い間、一緒に居て 例えば5年前… 俺が前世の記憶、思い出して シュウと恋人同士になって そんな事、ほんの少しでも予想出来た? だけど、確信はあったよね 俺達、きっと…ずっと一緒に居るって 離れる事なんて、出来ないって だって、今でも時々、ほんの欠片だけ感じる シュウの考えてる事や、思ってる事が、口に出さなくても分かる そして… シュウも、そうだろうって感じる感覚 小さな頃は、いつも感じてた 言葉を覚えて話すのが楽しくて だから話してたけど 話してる事は 俺達の間では、もう分かってた事だった 徐々に…徐々に… 言葉で話すのが、当たり前で その感覚は、薄れていったけど 色んな気持ちや感覚の 大前提に常にあったのは ずっと一緒に居るっていう、当たり前の感覚 「ユウ…」 声も、見た目も変わったけど 「んっ…」 欠片から伝わってくるものは あの頃と変わらないシュウのもの 「そろそろ、着替えなきゃな…」 「俺の服、何処?」 「ここ。寒くなるから、布団の中で着替えさせてあげる」 「パンツくらい、自分で履くよ」 不思議だね、シュウ 裸になって、あんな事する仲になったのに シュウは、やっぱり大切な親友で、幼馴染みのまま、変わらない 「風邪引かないかな…服着せとけば良かった」 「大丈夫だよ。小さな頃より、だいぶ丈夫になっただろ?」 「それは……うん。入院しなくなった」 「だろ?」 なんだって知ってる どんな俺だって知ってる 他の誰も知らない、不思議な感覚も だからさ、シュウ… つまりは、結局 穂積 結叶にとって、かけがえのない存在なんだよ…シュウ…

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