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捏造の夢
「大和の弟よ?」
沢山のカプセルが並べられた部屋
何?ここ…
弟?
これが?
僕ともお母さんとも違う
何?これ…
小さくて
赤くて
シワシワ…
時々、動いてる
色んな線が繋がってる
「結叶…お母さん会いに来たわよ。今日は、お兄ちゃんも一緒よ?」
お母さん泣いてる
僕も泣きたくなってきた
なんか、分かんないけど
泣きたい気持ち
「さ、大和帰ろっか」
「うん」
怖いから
早く帰ろう?
いっぱい同じカプセル
怖いよ
「待って」
?
「大和?どうしたの?」
なんか
聞こえた
「…ううん」
「そう?行こう?」
「うん」
誰かが
待ってって言った気がした
「置いてかないで」
また
さっきの声だ
「大和?」
「……待ってって…」
「聞こえたの?」
「うん…」
置いてかないでって…
もしかして、さっきの子?
僕の…弟?
「結叶…1人で寂しいのかな。お兄ちゃん来てくれて、嬉しかったのかもしれないね」
1人で…
こんなとこ居たら
寂しいし、怖いよ
「じゃあ、大和代わろっか」
「…え?」
「結叶は、大和よりずっと小さいのに、こんな所に1人、可哀想でしょ?少しの間、代わってあげて?」
あの子と?
僕が?
やだよ
こんなとこ
怖くて怖くて
少しだって居られないよ
「大和?結叶が待ってるわ。優しいお兄ちゃんで、良かったわね?結叶」
優しくない!
優しくなくていい!
やだ!
僕、代わらないよ!
「あ、分かったの?笑ってるわ」
やだ!
やだ!やだ!
僕は、お母さんと帰るの!
その子は、ここに居るの!
「…ふっ…ふぇっ…ふぎゃ~…」
「あら…泣いちゃったわ…大変」
知らない!
泣いても知らないもん!
僕は、お母さんと帰るもん!
「ふぇっ…ふぇっ…」
知らない!
「ふぇっ…ふぇっ…」
「…~~~~っ…ごめんっ…ごめんねっ…」
優しいお兄ちゃんじゃなくて、ごめん
だって、怖いんだ
怖いよね?
僕も、お兄ちゃんでも怖いんだ
「ふぇっ…ふっ…ふぇっ…」
「…っ…うっ…ごめんなさいっ…」
もう少し大きくなって
ちゃんとお兄ちゃんになって
こんなの怖くなくなったら
また来るから
「大和…代わりたくないのね?じゃあ、結叶は置いて帰ろっか」
「~~~っ…っ…ごめんっ…ごめんねっ…」
「ふぇっ…ふぇっ…」
僕より、ずっとずっと小さい
僕より、ずっとずっと怖いんだ
なのに…
ごめんね
「泣かなくていいのよ、大和」
お母さんが、優しく抱き締めてくれた
「…っ…ごめっ…なさっ…」
「いいの。もう分かったから、大丈夫」
「っ…~~っ…ごめんなさっ…」
「分かったから…もう大丈夫よ」
きっと、強くて優しいお兄ちゃんになるから
怖いと思うけど
もう少し待ってて
ちゃんと代われる様になるから
「いい子ね。大和は、優しくて、いい子ね」
全然いい子じゃないよ
優しくないよ
僕だけ、お母さんに優しくしてもらって
でも
安心する
お母さんの、いい子いい子
気持ちいい
もう少ししたら
頑張るから
頑張って
いいお兄ちゃんになるから……
いつも通り
突然呼び出され
突然一緒に寝ろと言われ
ユウとシュウ、2人にしてやりたくて、呼んだのかと思ったら
お前が眠りたかったんかい
仕方なく、ベッドに横になると
あっという間に寝やがった
「…ったく…俺の物使って、安眠グッズでも作りやがれ」
大和の柔らかい髪を
指に巻き付け、クルクルとする
ピクリともしない
「こんだけ眠れるのに、やっかいな体やね~」
ってか…
全然眠くない俺は、何すりゃいいんだよ
「……勿体ねぇなぁ」
穂積 大和の寝顔
写真撮って
大和の学校の奴らに売ったら
結構儲かりそうなのに
報復が怖過ぎて出来ない
しばらく、スマホのゲームで遊び
ウトウトしてきたので
俺も昼寝するかと思った時
「……しく…ない…や…だ…」
なんか、寝言言い始めた
よく夢の見る奴だ
「や…だ……や………かあ…さん…」
なんか悪夢か?
母さん?
寝てる間くらい、ゆっくり休めばいいのに
面倒な奴だな
「…ら…ない…」
「あ?」
大和が、俺の服を、ぎゅ~~っと握り締めてきた
「…~~~~っ…ごめんっ…ごめんねっ…」
は?
今度は泣いてんの?
忙しい奴だな
せっかく来てやってんのに
ちゃんと寝ろよな
「…っ…怖っ…」
怖?
「…兄ちゃ…でも……怖い……」
なんか怖い夢か?
「…っ…うっ…ごめんなさいっ…」
ごめんなさい?
怖い物に向かって謝ってんの?
そりゃ、大和じゃない別人だな
ん?
あれ?
前にも確か、こんな事…
「ユウをっ……置いてきぼりにっ…しちゃう夢っ…」
あ…
あれか?!
「~~~っ…っ…ごめんっ…ごめんねっ…」
それで、こんなに泣いてんのか
納得
「泣くな。泣かなくていいんだ」
優しく大和を抱き締めてやる
今は、小さな大和なんだ
「…っ…ごめっ…なさっ…」
「いい。もう分かったから、大丈夫だ」
「っ…~~っ…ごめんなさっ…」
「分かったから…もう大丈夫だ」
そうだった
小学1、2年頃?
なんか、こんな風に夢見て
何度か泣いてた
まだ悪魔になりきれてない大和に
どんな夢なのか聞くと
最初は、教えてくれなかった
思い出すのも、嫌だといった感じだった
何度目かの時に、泣きながら
「ユウをっ……置いてきぼりにっ…しちゃう夢っ…」
そう答えた
所詮、小学生低学年の話だし
俺には、ユウが入れられてたって光景が、全然想像も出来なかったから
とりあえず、現実に起きた事でもないみたいで
夢なんだからと、なだめてた
あれから…その夢見て泣いてた事あったっけ?
とにかく、そんなのも忘れる位だったのに
まだ、見てたんか
「っ…さしぃ……兄ちゃ…なる……まっ…てて…」
優しくない兄ちゃんだった事ねぇよ
そんな事実はなかったみたいで
なんで、そんな夢を見る様になったのかは、分からない
ただ、その時の光景が
大和にとって、かなりの衝撃だったってのは
何度か聞いていた
3歳の大和が受けた
衝撃的な光景は
悪夢として、現れるらしい
「いい子…大和は、優しくて、いい子だ」
そう言って、頭を撫でてやる
小さい頃
ユウが酷い咳をしてたり、入院したりで
その度に大和は、よく俺の家に預けられてた
ユウも可哀想だったけど
まだ小さいのに
また、俺の家にお泊まりなんだと
可哀想に思った
「寂しい?」
いつもより大人しくなる大和に
そう聞いてみた
すると...
「寂しく…ないよ……僕には…あの苦しいの…代わってあげられないんだ…」
そう答えた
俺もシュウも、かなり健康なまま、育ってきたから
シュウが、そうなった時
俺も代わってあげたいとか思えるのか、分からない
だって
見てるだけで苦しそうだった
小さい頃は、ほんとに
息するのも大変そうで
だから、あれを見てて
1人預けられてて
代わってあげられたらって思う大和が
なんか、大人に見えた
NICUとかいう所での夢は
大和が捏造したものだけど
大和にとっては、1人目のユウを
そこに置いて来たって気持ちが、あった様だ
2人目の、可愛いユウは、可愛いがってるのにって気持ちが
ちゃんとした知識が入るまで
ずっとあったらしい
3歳の時に
まだ、罪悪感という言葉すら、知らなかった時に
無駄な罪悪感を、植え付けられたらしい
「何処まで、根、生やしてんだ~?」
その罪悪感の罪は、罪じゃなかったろ?
そんな事実なかったんだから
「ん…待ってて…」
待ってねぇんだよ
勝手に元気になって
可愛いユウが出来上がって来るんだよ
「…にぃ…ちゃ……がんばる…」
「アホ…もう、あんまり頑張るな」
頑張り続けるよ
これから、ずっと
お前は、弟にも妹にも好かれる
いい兄ちゃんでしかないよ
だから…
頑張り過ぎて、こうなるんだよ
「ゴチャゴチャ考えてねぇで、大人しく寝ろ」
「ん…」
こいつ…
俺の服に顔擦り付けて、涙拭きやがった
「お前…」
「…さっくん……いた…」
「あ?」
お前が、呼び出したんだろが
強制的に、寝かせやがって
「……さびしく…ないよ…」
「………そうかよ」
「ん…」
なんだよ
寂しかったんじゃん
さっくん居て、寂しくないって思う事にしたなら
寂しかったんじゃん
「だから…頑張り過ぎなんだって…」
大和の皮を全部剥いだら
きっと、ユウと同じものが、出て来るんだろう
そのままじゃ
強い兄ちゃんには、なれないから
きっと、何枚も何枚も
色んな種類の皮を見付けては、覆い隠したんだ
「おやすみ…ま~くん」
不器用な奴
もっと素直に生きたって
大和以外の、誰も困らないのに……
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