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Tシャツの思い出
土日が終わって
月曜日…
甲斐…学校来るかな
「じゃあな」
「うん、また帰りね」
いつも通り、シュウと別れて教室に入る
甲斐…まだ来てない
「おはよう、穂積」
「深山、おはよう」
「…元気か?」
「ん…俺は元気」
「そっか。郁人兄ちゃん、呼ばなくていい?」
「ん…ありがと」
「いくと兄ちゃんって?」
え?
「おはよう、甲斐」
「おはよう、深山」
甲斐…
甲斐だ!
「甲斐!おは…おはよう!」
「ぶっ…何そんな焦ってんの?おはよう、穂積」
「えっ……あっ…甲斐…」
突然過ぎて
予想外過ぎて
何言っていいのか…
「穂積、金魚みたいになってるよ?」
「き…金魚?」
「ん…口パクパクさせてんのに、喋れてない」
「あ…」
だって…
だって…
「甲斐…」
甲斐が笑って
普通に話してる
「深山、兄ちゃん居るのか?」
「ん~…俺の兄ちゃんって訳じゃないんたけど」
「ふ~ん?たまたま、穂積の知り合いだったのか?」
「そ。不思議な縁だよなぁ」
「まあ…世間は広いようで狭い」
「ははっ…だな」
泣きそう
まるで、今までと一緒だ
そんな訳ないのに
甲斐が…頑張ってくれてるんだ
「穂積」
「甲斐…」
昼休み
甲斐から、話し掛けてきてくれた
「元気過ぎて、びっくりした?」
「……うん」
うんって、言っていいのかな
「これでも、土日ずっと泣いてたんだぞ?」
「……うん」
「って、言われたって困るよな?」
「ううん…」
「正直…気持ちの整理なんて、全然出来てない。だから、今日も帰ったら泣くかもしれない」
「え…」
「でも、やっぱ…穂積がいるなら…穂積と楽しい時間…過ごしたい…」
そんなの、俺もだよ
俺もだけど…
「それって…俺にとって、凄く都合良過ぎない?」
「そうかな?俺だって…いつ、やっぱ普通にしてるの無理!って、そっぽ向くかもしれないし…」
「そんなの…当たり前だ。もう顔見たくないって言われたって、仕方ない」
「…だからさ…なんか…穂積に嫌な態度取ったり…するかもしれないけど…このまま、穂積と関わらない毎日なんて…」
俺もだよ
俺だって、毎日甲斐と話したいよ
「甲斐が、そう思ってくれてる間でいいよ」
「穂積、優し過ぎ……まだ…気持ち無くせた訳じゃないんだぞ?」
「あ…ごめん…」
「ふっ…だからさ、やっぱ穂積で良かったなぁ…って思う。今まで通りは難しいかもしれないけど…やっぱ俺…人としても、友達としても穂積の事好きだからさ。だから、どんだけ気持ち複雑でも、やっぱ…友達として…傍に居るのは俺がいい」
嬉しい
って、言っていいのかな
甲斐が…
甲斐の複雑な気持ちが
俺には分からない
「へっへっへ…なかなか、しつこい奴だろ」
「…え?」
「普通、離れるからな。でも…俺はお断りだ。深山に、俺の座は譲らないぜ!」
「……ありがとう…甲斐」
俺が、慰められてるみたいになってる
俺が、ウジウジ、メソメソしてちゃダメだ
「あっ…次体育だ。着替えに行くか」
「うん!」
「今日の体育は、柔道かぁ……あっ!穂積、Tシャツ持って来た?!」
「持って来たよ」
「ヨシ!俺も持って来た」
「行こ!甲斐」
凄く頑張って演じてるのかもしれない
でも、だったら
甲斐が演じてる間
一緒に、思いっきり楽しませてもらう
「あ、穂積待って。俺も着替え行く」
「うん。深山、一緒に行こ」
「深山は、俺の隣な」
「ん?そうなのか?」
「そ。穂積の隣は、俺って決まってるの。な?」
「…うん!決まってた」
「ふ~~ん?でも、たまに交換しようぜ?」
「交換禁止!穂積の隣交換禁止令!」
「なんじゃ、そりゃ?」
今までとは違う
やっぱり少しは、考えちゃう
これで、いいのかな?って
それでも…
やっぱ甲斐と笑ってたい
「ん?穂積、中にTシャツ着るのか?」
「うん」
Tシャツを着てると
深山が、不思議そうに話し掛けてきた
「俺も着る」
「え?甲斐も?」
「俺も」
「俺も」
「ってか、皆着る事にしたんだよ。深山に伝えるの忘れてたな」
「え?決まり?俺、持って来てないぞ?」
「決まりじゃないから大丈夫だ。これは、穂積と俺達…双方の安全確保と、変態教師から穂積を守る為だ」
「…全くもって、意味が分からないな」
だろうね、深山
俺も、結局よく分かってないんだよ
でも、俺を思っての事なんだよ
優しさが溢れてるんだ
学校でも、家でも
信じられないくらい
周りに大切にされてる
「……どうしたんだ?お前ら…なんで、皆してTシャツ着てるんだ?」
「変態教師から穂積を守る為で~す」
「変態教師じゃない!俺は、何もしてないぞ!」
「目撃者多数ですよ~」
「かなりアウト寄りのセーフでした~」
「セーフど真ん中のセーフだ!もういい!好きにしろ!」
ほんとは着ない方がいいとか、あるのかな
俺の為に皆着ちゃったけど…
各自、軽く準備運動になったので
先生の元に行ってみる
「先生」
「どうした?穂積」
「Tシャツ着る意味は…俺にも、よく分からないけど…皆がTシャツ着る事になったのは、俺のせいなんです。俺が…なんか、自分だけ着るの…女子みたいで嫌だって思っちゃったから…」
「穂積…」
「ほんとは、着るのあまり良くないですか?」
俺のクラスだけだし
ちゃんとした理由ないのに、勝手な事は、あんまり良くないのかな
「お前は、なんて言うか……皆に大切にされてんな?」
「はい、凄く」
「いや…別に問題はない。いいクラスメイトに恵まれて良かったな」
「はい」
「でも、きっと…穂積が居るから、そんなクラスメイトになれたのかもしれないな」
「?…よく…分からないです」
「何でも今、分からなくていいんだ。10年後に分かってもいい。だから、思い出せる様に、よく覚えとけ」
「……はい」
10年後…
思い出せるかな
先生は、覚えてるのかな
俺は、何処まで覚えてるかな
俺にとっては未知でしかない
先生は、もうその10年を、とっくに超している
24歳の俺…
10年前に、柔道の授業で、皆してTシャツ着たよ
ちょっと気まずくなった甲斐も、一緒にTシャツ着て、笑ってくれて
先生に、言われたよ
10年後に分かってもいい。覚えとけって…
ちゃんと思い出せた?
「穂積、ちょっと聞きたい事あるんだけど…」
「うん…?」
「前に、穂積が歌ってくれた歌さ…教えて欲しいんだ」
体育が終わって、教室に戻ると
深山が、そう聞いてきた
「いいけど…俺も歌詞は覚えてないし、うろ覚えだよ?」
「いいんだ…それでも、あの時…凄くあったかい気持ちになったから…なんかさ…俺も歌ってあげたいって思って」
「歌って…あげる?」
「俺の大切だった奴…引っ越してから、会いに行ってなかったんだけど…久しぶりに、会いに行こうかなって思ってさ」
大切だった…
死んじゃった幼馴染みだ
「そっか…」
「なんかさ…気持ちがスッキリ整理出来たとかじゃないけど…郁人の事思い出したり…蓮の事思い出したりしたせいなのかさ……死ってものが…前ほど暗くて重いものじゃ、なくなった気がする」
「…そう」
「うん…まあ…そんなの、こっちの勝手な気持ちなんだけどさ……ほら、そっち側の気持ちも、俺達少しは分かるじゃん?」
そっち側…
ああ
死んだ側か
先に…
皆を遺して逝った側
「そうだね」
「俺みたいに、いつまでも重たいもの、抱えてて欲しいなんて思わない…かなって…」
「うん。俺も、そう思う」
「だよな…だから、会いに行って来る……なんとなくさ…あの歌聞かせたいなって思うんだ。穂積みたいに…あったかい気持ちで…聞かせてやりたい」
「うん…」
少しずつ…俺達は成長してる
14年だけど
たった1年で、色んな事が変わってく
誰かと出会って…関わって…離れて…
蓮は知らなかった、人としての成長
今日もまた…
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