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信じたくない光景
久しぶりに、ユウと2人で出掛けた
楽しくて…楽しくて…
ユウも、楽しんでくれてるのが分かる
伝わってくる
言葉とは違う
楽しいが伝わってくる
ユウが、俺だけを見て笑ってる
嬉しくて…嬉しくて…
最高の1日になる筈だった
「シュウ、ちょっとトイレ行って来るね」
「うん」
この時
ユウを1人でトイレに行かせてしまった事を
俺は、一生後悔する
大和だったら、一緒に行ってたかもしれない
一緒に居たのが、俺だったせいで
ユウは………
なかなかトイレから戻って来ない
お腹でも壊した?
そんな感じじゃなかったけど…
各階にトイレは、ある訳で
そんなに混んでる事はないし
ほんの少し…胸がざわついた
小さな頃から、可愛い上に、人懐っこかったユウは、皆に可愛がられた
そして、すぐに誰にでも付いて行こうとした
俺達の両親は、おおらかと言うか…
そんなユウを、困ったねと笑いながら見てたけど
俺は、何度かドキドキした事がある
今更、そんな歳ではないけれど
ユウの可愛いさも、人懐っこさも変わらなくて
少しずつ成長してる体に、幼い時の純粋さを持ち合わせてるもんだから
それが、全身から滲み出てて
なんて言うか…
昔よりも、危ない奴に狙われてしまうんじゃないかとか、思ってしまう
近くのトイレに入ると、ユウの姿が無かった
?
ここのトイレじゃなかったのか
それとも、もう出て、何処か見て歩いてる?
……あのユウが
俺の心配する事して、連絡がないって、おかしい
よく見ると
1番奥の個室のドアが閉まってた
なんだ…
そこに入ってたのか
「ユウ…居る?」
………あれ?
ユウじゃないのか?
全然知らない人に、声掛けてしまった
シュウ!
え?
今……
「ユウ…居ない?」
………やっぱり、反応ない
だけど…
個室の中に居るの…
ユウ…だと思う
この中…
ユウの気配がする
間違える訳がない
言葉なんてものを覚える前から知ってた
ユウの気配だ
ユウが居るのに、反応がない
反応…出来ない?
させてもらえない?
「……ユウ」
これ…
ユウが寝てる時の気配じゃない
起きてる時の気配
つまり
起きてるのに、反応出来ない何かが起こってる
身の毛がよだつって、こういう事か
落ち着け
ユウの安全が1番だ
ドア…
俺の体じゃ、上からは入れない
中に、どんな奴が居て、何が起こってるのか分からない
俺は、ただの中学生だ
大人…呼ばないと…
この場…離れたくないけど
待ってて、ユウ!
トイレを出て、すぐ隣の店へと入り、店員を探す
「すいません!」
「はい、いらっしゃいま…」
「そこの男子トイレに…俺の幼馴染みが閉じ込められてるんです!すぐに警備員さん呼んで下さい!」
「……え?…トイレ?…え?」
「急いで下さい!」
「っ!…わ…分かりました!」
店員さんが、すぐに電話を手にしてくれる
でも…
やっぱ、じっとなんてしてられない
この間に、殺されたりしたら…
気付くと、トイレに向かってた
危ないかもしれないけど
だってユウ…
声出せない状況って事かも…
ユウ!
トイレに戻り、掃除用具の入ってるドアを開ける
モップと…あと、何かない?
何か、ドア壊せそうな……
くそっ!
モップを手に取り、1番奥のドアの前へと向かう
さっきも、今も
まるで音がしない
ユウの気配は在るのに…
ガン!
思いっきり、ドアの鍵辺りをモップで叩く
ガン!ガン!ガン!!
くそっ!
内側に付いてるから、全然ダメージ無しだ
全然音も、声もしない
ユウ1人?
でも、それはそれでおかしい
こうなったら…
ドン!
思いっきり、ドアに体当たりすると…
「おい!何やってんだ!うっせぇぞ!」
!!
やっぱり、誰か居る
ユウと…ユウ以外の誰か…
一気に、全身に冷や汗が伝う
ユウは?
ユウは声出せないの?
何度か、思いっきり体当たりしてると…
バキッ!
ようやくドアが開いた
いや…壊れた
ほんの少し、頭に弁償という文字が浮かんだけど、そんなの気にしてる場合じゃない
開いたドアの中には、男が2人立ってて……
「ユウ!」
「……~~~~っ!」
信じられない光景だった
いや…
信じたくなかった
錯覚であって欲しかった
トイレの隅に
あり得ない姿のユウが
涙を流しながら、小さくなってた
「なんだ?!てめぇ!」
こいつら…
殺していいかな
殺していいよな
殺すしかないな
何かが、プツリと切れた気がした
向かって来る奴に、モップを構えた時…
バタバタ…バタバタ…
「おい!大丈夫か?!」
警備員らしき人達の声と足音に
「くっそ!逃げるぞ!」
「覚えてろよ!」
2人が逃げてく
俺が、捕まえて殺したい
けど…
急いで、ユウの元に向かうと
俺と目を合わせた途端
ユウが意識を失った
「ユウ!ユウ!」
左の頬が腫れて
口の中に…
「~~~~っ…ユウ…」
ハンカチ…突っ込まれてた…
返事…
したくても、出来なかったんだ
ハンカチを口の中から掻き出すと
ハンカチには、血が付いていた
口の中…切れてるんだ…
ユウじゃない奴のシャツで、後ろ手にされて
「~~っ…ユウっ…」
縛ってたシャツをほどく
どれほど怖かっただろう…
ぐったりとしたユウを、少し立たせて
下着ごと上げる
下は…濡れてはいない
ユウのも…濡れてない
便器の上に座らせて
ユウのシャツのボタンを閉める
胸…
「~~っ…!」
濡れてる…
体が…震える
許せない
こんなに、誰かに殺意を持った事ない
でも、今はそれより…
「ユウ…」
ユウの体を、抱き抱えようとすると…
「おい!大丈夫か?!」
警備員らしき人が、駆け込んで来た
「…救急車…呼んで下さい」
「っ!…わ…分かった!」
座らせたユウを、抱き寄せる
大丈夫…
生きてる
「…ユウ…~~っ…ごめんっ…1人にして…~~っ…ごめんっ…」
ごめんなんて謝ったって、何も変わらない
もう、遅い…
「……シュ…」
「ユウ!」
ユウが、うっすらと目を開けた
「ユウ!…ごめん…~~っ…ごめんっ…」
ほんの一瞬開けられた瞳は
すぐに閉じられて
代わりに、ユウの右手が、なんとか上げようとしている
「~~っ…ユウ…」
ユウの右手を握る
凄く冷たい
縛られてたから?
脱がされてたから?
怖い思い…したから?
救急隊が来て
ユウを担架に乗せて
少しの間、色々測ったりして
俺にも、なんか色々聞いてきてたけど
ちゃんと答えてたのか、分からない
頭が、全然回ってないのは分かってた
警察の人もやって来て
さっきの奴らが、捕まえられたって、教えてくれた
死刑にしてくれないかな
してくれないなら、俺が殺していいかな
救急車に乗ってからも、なんだか機械を色々付けたりして…
早くユウを病院に連れてって欲しいのに…
「穂積君!結叶君!分かるかい?!」
大きな声で、体揺さぶられても、目を覚まさない
ユウ…何…されたの…
なんで、ユウなの?
「ユウ…ユウ…~~っ…ユウっ…」
「……シュウ」
「ユウ!」
「穂積君?!分かるかい?!」
ユウの目は、閉じられたままで
だけど…
「~~っ…ユウっ…」
また…
右手を上げようとしてる
ユウの手を、ぎゅっと握ると
ほんの少し、握り返した
さっきは
怖くて、不安で、手を握って欲しいんだと思った
けど、違う…
俺が…
ユウの名前呼びながら、泣いてるからだ
こんな時も
泣いてる俺の為に…
手…握ってくれようとしてるんだ
「~~~~っ…ユウ…」
体ばかり大きくなっても
いつもユウに助けられてばかりだ
せっかく鍛えてたって
傍に居なきゃ意味ないのに
病院に着いて
ユウと離されて
待合室に1人置かれた
「~~~~っ…」
俺を見た時のユウの姿が
目に焼き付いて離れない
待ってたはずだ
俺が来るって
まだかな
気付かないのかなって…
「~~っ…ごめんっ…」
もっと早く、見に行くべきだった
1人で、行かせなきゃ良かった
「ごめんっ…ごめんユウ…」
何も出来ない俺が
ただただ、後悔の念を募らせていると
「シュウ!」
「……母さん?…父さん…」
なんで…
「っ?!」
「シュウ君…」
「~~~~っ…すいませんっ…おじさん…おばさん……俺っ…~~~っ…ユウ…1人にさせたからっ…~~っ…すいませんっ…ユウっ…~~~~っ…ユウ…っ…」
なんて謝ればいい?
どう言ったって
もう…変えられない…
「シュウ…落ち着いて」
「そうよ、シュウ君。とりあえず、看護師さん探さなくちゃ…」
おばさん…
そんな事言ってる場合じゃないんだ
聞いたら…おばさん…
「~~~~っ…っ…~~~~っ…ごめんなさいっ…」
「シュウ…話は、ゆっくり聞くから、一回落ち着いて」
落ち着いてなんて…
あのユウの状況…
おじさんとおばさんに、伝えなきゃならないなんて…
「~~~~~っ…~~~~~っ…っ…っ…」
?
「シュウ?どうしたの?」
「~~っ…っ…っ…」
苦しい…何これ…
「シュウ?!」
「シュウ君?!」
苦しい…
頑張って息してるのに、出来てない
「どうしました?!」
なんで…
頑張って吸ってるのに、どんどん苦しくなる
「息吐いて!ゆっくり息して~!」
無理だ
こんな苦しいのに…
もっと吸わなきゃ
何故だか、体まで上手く動かせなくなってきた
待合室のソファーに、崩れる様になると
騒がしくなった中、ストレッチャーに乗せられた
何?
何が起きてる?
苦しくなってく中
「ゆっくり、ゆっくり息してな~」
今度は、先生らしい人が言ってきた
無理なんだって
苦しいんだって
全身汗だくだ
俺、このまま死ぬのかな
「こんにちは」
また、別の先生が来た
「今、凄く苦しいね」
コクコクと頷く
「少しずつでいいから、ゆっくり息してみて」
また…
「ほんの少しずつで大丈夫だよ。出来るかい?」
この人…
無理なの分かってるんだ
ほんの少し…
「そう。上手だね。少しずつでいいよ。少しずつ…そしたら、楽になってくよ」
苦しいけど…
楽になるの?
「そう…ほら、少しずつ楽になってきただろ?」
……ほんとだ
苦しくなるはずなのに
なんだか、楽になってきた
徐々に楽になると共に、ウトウトしてきて
こんな事してる場合じゃないのに…
「少し休もう。眠っていいよ」
「……ユウ…目覚めたら……起こして…」
半分眠りながら、それだけ伝えた
伝わったかな
「……分かったよ。おやすみ…」
ユウの事も気になるけど
おじさんとおばさんも、父さんと母さんも…
俺が、話さなきゃならないのに
全ての力を使い果たしてしまったみたいで
俺は、そのまま眠ってしまった
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