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どうしても伝えたい事

なんか…騒がしい 聞き慣れない音… なんだ…この匂い… 「………病院だ」 そうだ 俺、病院で倒れたんだ ユウの事…話そうとして… 「ユウ…」 ユウは? どれ位、時間経ったんだ? ユウ…目覚めた? 泣いてない? 「あ…目が覚めたのね」 「…はい…あの…ユウ……穂積 結叶…目覚めましたか?」 「まずは、自分の事。えっと…東雲君、痛いとこは?バタンと倒れた訳じゃないから、大丈夫だと思うけど…」 「痛いとこはないです。俺は、どこも何ともないです」 「でも、体はだるいでしょ?先生呼んで来るから、ちょっと待っててね」 「え?…あ…」 行ってしまった 俺より、ユウの事聞きたかったのに 目覚めて1人だったら、怯えてるかもしれない 早く…ユウの所に行ってあげないと… 「東雲君」 「あ…すいません…」 「シュウ!」 「っ?!…ユウ!」 え? 先生と一緒に、ユウが入って来た 俺…幻見てる? だって、ユウ… なんか… 「シュウ…気分悪くなったって?どうした?」 なんで、こんな… いつも通りみたいな… 「…ユウ…どうした?って……ユウは?…~~っ…ユウは…っ…気分悪くない?怪我…痛くない?」 俺の心配してる場合じゃない なんで…そんな… あんな事なかったかの様に… 「なっ…何泣いてんの?!どうした?ほら…大丈夫だから。俺は、顔が少し痛いくらいで、全然平気。あと、怪我した時の記憶が、すっぽり抜けてるみたい」 「………え?」 記憶が…すっぽり… そんな事あるの? そんな、都合のいい事… 「シュウと、楽しく遊んだり、ご飯食べてたのは覚えてる。その後、気付いたら此処だよ。パラレルワールドに来たみたいだ」 ほんとに忘れてる だって… 全然怯えてない いつものユウだ 俺の都合のいい夢じゃないよね…これ… 先生の方を見ると… 「そういう事だそうだ。これは、体が良くなって終わりじゃない。君の分も手紙書いておくから、必ず心のケアをする先生に診てもらう事。いいね?」 心のケア… 夢じゃない あれは… ほんとに起こった事だ 「……はい」 父さんと母さんが、俺の顔を見て、一安心し 身体的には、入院の必要のない俺達は、家に帰る事となった 「お父さんとお母さんに、ちょっとお話があるから、看護師さんと待っててくれるかな」 「はい」 そうして、ユウと待合室に座る ユウは、基本的に凄く我慢強い だんだん腫れてきた頬は 見てるだけで、痛々しいのに 「こんなの、全然我慢出来るよ」 そう言って、笑顔を見せる 口の中の血…止まったのかな 「……寒くない?」 「大丈夫だよ」 ほんとに? あんな…脱がされてたんだよ… 「シュウは、俺が怪我した時、そこに居たのか?」 「っ?!……居なかった……~~っ…ごめん…」 居なかったんだ 間に合わなかったんだ ごめん… 「え?なんで、シュウが謝るんだよ?たまたま、そこに居たかどうかだろ?…ってか、俺…シュウと離れて、どっか行ってたのか?」 「……トイレ…行くって…」 そう言った瞬間 ほんの少し ユウが、固まったみたいになって… 「ユウ?」 「…あ…そっか…それは、仕方ないだろ」 いつものユウだ 気のせい? 俺を心配させない様に 無理して演じてる訳じゃないよね ほんとに忘れてしまったなら これから先も、思い出さないで欲しい あんな…怖い事… あんな… 「……痛く…ない?」 「え?」 ユウの手首… うっすらと赤くなってる 「手首?なんで?痛くないけど?」 「……~~~っ…ユウ…」 「シュウ?」 痛くなくて良かった 少しでも、痛いとこ少なくて… ごめん… どれだけ怖かった事だろう… 怖過ぎて… 失くしてしまったんだ すっぽり… 無かった事にしたんだ ユウの手首に顔を埋めると 「なんかまだ…気分悪いのか?」 「~~っ…違うっ……俺は…大丈夫…」 気分悪いのは 大丈夫じゃないのは ユウ… 「そう?なんか、調子悪いなら、病院居るうちに、言っておいた方がいいからな?」 「~~~~っ…んっ…ユウもだよ…」 「俺は、病院のプロだから、分かってる」 でも、ユウ… 今回は、病院に居たからって、治してもらえないんだよ だから、帰ろう… 俺達の家…あったかいから… 俺達の体の事を考えて、タクシーで帰る事になった ユウと離れたくなかったけど お互いの両親が心配してるのは、分かるから… 「シュウ…大丈夫?今は、ゆっくり休むのが1番。無理に思い出そうとしたり、話そうとしなくていいのよ」 「……でも…ユウの…おじさんとおばさんに…~~っ…俺しか…見てないからっ…」 「大丈夫。警察の人がね…先生から、こっちの状況聞いてね…とりあえず、犯人から聞き出した事…伝えるからって、言ってたから…」 警察… 犯人…犯人…… あいつら…… 「…死刑に…してくれるかな…」 「え?」 「……何でもない」 絶対忘れない あの2人の顔 毎日、思い返して… 覚えててやる タクシーから降りて すぐにユウの元へと行く 「ユウ…」 一緒に居たい 離れたくない 「シュウ…一緒に居てやりたいけど…今日は、おじさんもおばさんも心配してるし、帰った方がいい」 「…………」 分かってる 分かってるけど… 「明日、起きたらまた、1日一緒に居よう?」 「………うん」 急に思い出さない? 急に怖くならない? 「シュウ…そうしましょう?今日は、シュウも休んだ方がいいわ」 「ユウ君が言う様に、明日起きたら、ユウ君のとこ行けばいい。今日は…父さん達も心配だから…」 「……分かった」 仕方がない 目の前で倒れる様にして、父さんも母さんも、凄く心配してるのも分かる 「じゃあな、シュウ」 「明日…行くから…」 「うん」 後ろ髪を引かれる思いで、家に入ると… 「シュウ!」 「朔兄…」 「大丈夫なのか?!倒れたって?…ユウは?!」 「大丈夫…とりあえず、ユウも…今、家に帰った」 「……そうか」 「さ、とりあえず中、入りましょ」 とりあえず…今は… だけど… だけど、ユウ…… 「~~~っ…朔兄っ…」 「ん?…なっ?!…シュウ!どうした?!」 父さんと母さんの傍に行って、話を聞いてた朔兄が、俺の元に飛んで来てくれる 「朔兄っ…朔兄っ…俺っ…」 「シュウ…落ち着いて…また、苦しくなっちゃうわ…ゆっくり、落ち着いて息して…」 「苦しくなるって?」 「シュウ…過呼吸で倒れたのよ」 「過呼吸…」 分かってるけど でも、せめて… 大和にだけは、伝えないと… 「朔兄にっ…話したい事あるっ……」 「シュウ………母さん…過呼吸になったら、呼べばいい?」 「朔……そうね。治す方法…ゆっくり息するしかないんですって…でも、きっとびっくりするから…そうなったら、呼んでくれた方がいいわ」 「分かった。ごめん…ちょっと、シュウ連れてく」 「……分かったわ」 ありがとう…朔兄… 今のうちに、どうしても大和に伝えたいんだ 「さてと…いいぞ。順を追ってじゃなくて、訳分からなくても、伝えたい事だけ伝えてもいいぞ」 「朔兄っ…」 「ん」 「~~っ…朔兄っ…俺っ…」 朔兄が、抱き寄せて 甘やかす様に、ポンポンとしてくれる 「ん…大丈夫だ。言いたい事だけ、言ってみろ」 「~~~っ…ユウ…守れなかった…酷い事された…~~~~っ…あんなの…あり得ないっ…信じたくなかった…」 「…そうか」 「っ…ユウ…~~っ…全部っ…見られたっ…」 「っ……シュウ…」 「下はっ…ユウのも…濡れてなかった…」 「シュウ……お前…」 朔兄が、ぎゅっと抱き締めてくれる 朔兄は…俺の気持ちも、俺達の事も知ってるから… 「っ…むっ…胸っ…~~~~っ…胸っ…濡れてたっ…」 「シュウ…」 「ユウのっ…胸っ…~~~~っ…お願いっ…朔兄…ユウは…記憶失くしてるんだ……お願いっ…大和に…~~~っ…綺麗にしてもらいたいっ...お願いっ…」 「~~っ…分かった。大丈夫…大和なら、ユウが覚えてなくても、上手くやってくれる。大丈夫だ…ちゃんと…すっかり綺麗にしてくれるから…」 「んっ…~~っ…お願いっ…」 ほんとは、俺が綺麗にしたい だけど… ほんとに俺がしたら… ユウの皮膚が擦れて、傷つくまで、洗ってしまいそう 朔兄が、すぐに携帯を手に連絡してくれる 何度か、やり取りをして 「シュウ…大丈夫だ。ちゃんと大和に伝えたから」 「んっ…~~っ...ありがっ...とっ…」 「シュウ…今日は、俺達も一緒に風呂入って寝るぞ。たまには、いいだろ?」 「~~っ...うんっ…」 沢山、聞きたい事あるのに まだ、殆ど話してないのに ありがとう…朔兄…

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