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胸…洗って…
「ユウが…救急車で病院に運ばれたみたいなの。お母さん達、病院行って来るから」
出掛けてた父さんと母さんが帰って来るなり、そう言って…
「救急車って…ユウ、具合なんて悪く無さそうだったけど?」
「…詳しい事は…まだ分からないけど…なんか怪我をしてるらしくて…」
「怪我?救急車で運ばれるくらいの?」
「よく分からないのよ。今は意識がないけど、命に別状はないとか…とにかく、病院行って来るから、四葉が帰って来たらお願い」
「それは…いいけど……詳しい事分かったら、すぐに連絡して」
「分かったわ。じゃあ、お願いね」
救急車…
怪我は、大したことないけど、意識がないから?
それとも、命に別状はないけど、結構な大怪我なのか?
『ユウが救急車で運ばれたらしい』
『シュウから何か連絡は?』
今日は、シュウと出掛けてたはずだ
シュウは?
シュウも怪我したのか?
事故?
何だ?
何が起こった?
「くそっ…」
あの馬鹿
見ろよ
シュウは一緒なんだろうが
シュウが無事だとしても
きっと、携帯…気付かないよな
『おい、寝てんのか』
『さっさと起きろ』
この辺で、大きな事故や災害のニュースは無い
交通事故か、何らかの事故に巻き込まれたか
事件……
ヴヴッ
『救急車?!何事?!』
『シュウは?!』
ほんとに馬鹿だ
それを聞いてんだっつ~の
「はぁ…」
『今、電話出来るか?』
ヴ~~…ヴ~~…
「もしも…」
「何?!どういう事?!」
「だから、それを何か知ってるかと思ったんだよ」
「知らねぇし…何で…」
「分からないんだ…ユウが怪我をして救急車で運ばれたからって、うちの両親が病院行った。今は意識ないけど、命に別状はないって言われたって…」
「はあ?分からないって…シュウは?ユウと一緒のはず…あっ!」
「どうした?」
「母さんから連絡きた。一回切るわ」
おばさんのとこにも連絡が来たとしたら
シュウも怪我をしたって事か
2人共、大した怪我じゃなきゃいいけど……
どうして、ユウの身の回りには、こう次々と事が起こるのか…
生まれてすぐに、あんなカプセルに入れられて、たった1人で頑張らなきゃならなかったのに
小さな頃だって、何度も何度も苦しい思いして
入院しては、痛い思いして…怖い思いして…
ヴ~~…
「もしもし…なんか分かったか?」
「いや、それがさ…怪我をして運ばれたのは、ユウらしいんだけど…付き添ってたのが、未成年のシュウだけで…だいぶパニクってるのと……警察沙汰だから、保護者に来てもらいたいからって…言われたらしい」
「事故か?」
「その辺が…よく分からないんだ」
結局…
俺達は、家に連絡が入るかもと思い、それぞれの家で待機しながら、連絡を取り合って
「たっだいま~」
「お帰り、四葉」
「大和~…んちゅっ…ユウは、まだシュウ君とラブラブデート中?」
「四葉…実は……」
今のところ分かってる事を話すと
「また?!ユウ…階段から落ちて…自転車に引っ掛けられたばかりだよ?!」
「そうだな…」
「ユウ帰って来たら、お祓い行こ!なんか、変なモノに取り憑かれてるかもしれない!」
「じいちゃんに相談してみような」
「………ユウ…大丈夫だよね?」
元気いっぱいの四葉が
不安そうな顔して、俺の服をキュッと掴む
「大丈夫。ユウは、俺達の誰より復活する力持ってる。そうだろ?」
そう言って、抱き締めてあげると
「うん…知ってる……ユウ…弱くなんてない。四葉より、ずっとずっと強い」
「四葉の事、大好きなんだから…ちゃんと四葉が安心出来る様に、帰って来るよ」
「うん…そうだよね…」
分からない事が多過ぎる
もっと安心出来る事、言ってあげたいけど
ユウ…
何があったんだ?
「四葉、ご飯支度しちゃうから、お風呂入っておいで」
「は~い!」
四葉がお風呂に入って、間も無く
ヴ~~…
父さんからだ
「もしもし?父さん?何か分かった?」
「大和…なかなか連絡出来なくて、ごめんな。四葉は?」
「帰って来てるし、今、お風呂入ってる。ユウは?」
「まだ…眠ってるんだが……大和…結叶…襲われたらしいんだ」
「………は?」
「先生からの話では…」
デパートのトイレで襲われたらしい
怪我は、頬を殴られて腫れてるのと、口の中を切ったくらい
あとは…両手首が、少し赤くなっていたそうだ
「…襲った奴は?」
「高校生位の2人組らしく、今、警察で話を聞いてる」
「…怪我以外は?ユウ…服…着てたの?」
「……男でも…そういう事ってあるんだな?状況からして、その可能性も考えたらしいけど、ユウの体を見る限り、そっちの心配は無いだろうって…」
「状況?…って?」
発見された時には、トイレの個室のドアが壊されてて
中で、意識を失ったユウを、シュウが抱き締めてたらしい
服は、ちゃんと着てたけど
そのトイレの中には、ユウでもシュウでもない、誰かのシャツと
血塗れになったハンカチが落ちてたそうだ
体の奥から、沸々と怒りが込み上げてくる
「つまり、犯人が逃げてから少しの間、シュウ君しか居なかった訳で…その時の状況は、犯人かシュウ君しか知らない訳なんだが……シュウ君もパニックになってたらしくて…」
当然だ
そんなユウ見たら…
「病院に向かってる途中で、東雲さんから連絡が入って、同じ位に病院に着いたんだけどさ…シュウ君…父さん達を見るなり、泣きながら謝り出して…多分、状況を話そうとしてくれたんだと思うんだが…過呼吸になって倒れてしまったんだ」
「っ…」
あのシュウが…
そんなになる程…
「そんな訳で、警察の人が、今分かってる事だけ話してくれてね…母さん達は少し動揺してるから…父さんが電話してる訳だが…大和…大丈夫か?」
「俺は大丈夫。こっちの事は、心配しなくていいよ」
「助かる。また、何か分かったら連絡する」
「分かった」
高校生…
未成年…
守られるつもりか?
絶対許さない
法で裁けなくても
何としてでも見付け出して
法で裁かれた方がマシだったって、思わせてやる
四葉には、知らない奴に殴られて、怪我をしたらしいと伝えておいた
相当憤慨して…
それから
「大和…ユウ…シュウ君が悲しむ様な事…されてないよね?」
流石だな…
「とりあえず、病院の先生は、大丈夫って言ってたそうだよ」
「ほっ…良かった」
医者が分かる範囲ではね
血塗れなのは、口の中に突っ込んでたから
脱ぎ捨てられたシャツ…赤い手首…
縛られてたんだろう
トイレの個室に、わざわざ引きずり込んで
一発殴っただけ?
発見が早かっただけか?
シュウ…お前…
何を見たんだ?
朔と連絡を取り合いながら
四葉とご飯を食べ終わる頃
目覚めたユウとシュウを連れて
帰って来るとの連絡が入った
泣きながら…帰って来るだろうか
目覚めたユウは…シュウは…
どんな状況?
「ただいま」
「ユウ~~!大丈夫?痛い?」
「四葉、大丈夫だよ。心配かけて、ごめんね」
「ユウのほっぺ、凄く腫れてるよ…冷やさなきゃ…」
「後で、ちゃんと冷やす」
ユウが…普通だ…
心配かけない様に…演じてるのか?
「大和も、心配かけてごめん」
「…いや…シュウは?」
「心配で、来たがってたけど…シュウも倒れてるし、今日は帰ってもらったよ」
「…そっか」
ユウにとって…そこまでの事じゃなかったのか?
心配し過ぎ?
俺の思い過ごし?
ユウが、一度部屋へと上がってくと
「大和、四葉…」
父さんが、俺達に告げた
「結叶…怪我した時の事…覚えてないらしいんだ」
「覚えてないって?忘れちゃったって事?」
「そうだ。だから、話が噛み合わない事、あるかもしれないが、あまり気にしないでやってくれ」
「うん!分かった!」
覚えてない…
納得
だから、あんな…
いつも通りなんだ
忘れる程の…
衝撃…
ヴヴッ
朔から…
『シュウが泣きながら頼んできた』
『ユウの胸洗ってやって欲しい』
ユウの胸…
洗って…
『つまり、そういう事か?』
『他は?』
だよな…
そっちのが…あり得る
全ての状況が
そういう事だって納得させてくる
ヴヴッ
『下は濡れてなかったそうだ』
『頼む』
シュウ…
帰ってすぐに、朔に伝えたんだ
シュウしか、その状況見てないって言ってた
どんな気持ちで、シュウ……
『大丈夫だ』
『ちゃんと綺麗にすると伝えてくれ』
ユウ…
意識を失くしたのは、どの時点?
いっそ、何も知らなければいい
いっそ、このまま思い出さなければいい
けど、まずは…
「心配だから、今日は俺、ユウとお風呂入るね」
「そうだな。そうしてくれ」
綺麗なユウを…
綺麗なユウに戻さなきゃ
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