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大和の思い

俺の教育方針のお陰で 中2になっても、ユウは俺の事が大好きだ 四葉の手前、思いっきり甘えては来ないけど 一緒にお風呂も、一緒に寝るのも 喜んでくれる 一緒にお風呂に向かってたユウが、トイレに寄った トイレ… 警戒すべきだった トイレのドアが閉まって、間も無く トイレのドアが開いた  「?…ユウ?どうした?」 ドアが開いたのに、出て来る訳でもなく なんの返答も無い 「ユウ?大丈夫?」 トイレまで戻ってみると 「大丈夫」 そう言ったユウは 表情が固まってて 顔色も良くない 「なんか…顔色悪いよ?どうかした?」 「よく分かんない。多分…大丈夫」 よく分かんない… トイレ… ようやく、そこで気付く ゆっくりと、再び閉められたドアが また、すぐに開く 「大和…」 不安そうな顔 記憶…失くしてるはずなのに 「ユウ…どうした?」 「なんか…なんか、分かんないけど…」 「っ!」 ユウの手が 震えている 「…ユウ…震えてる…」 「え?」 俺の言葉に、自分の手を見て ユウ自身が驚いている 「ユウ…ちょっとおいで」 「うん…変なの…大丈夫だよ?」 分からないんだ だって、記憶が無いんだから なのに… 「大丈夫でもいいから…おいで」 「うん」 不思議そうな顔をしながら、トイレから出て来たユウを 優しく抱き締める 怖くない様に 優しく ユウは、今日ユウに何があったのか知らない だけど、ユウの体は反応してる ユウ…… 「…沢山甘えさせてあげようね」 「うん…」 こんなに… 震える程の恐怖を 俺の可愛いユウに植え付けやがって 絶対に許さない 「トイレ、誰も来ない様に見てるから、ドア少し開けたまま、入ってごらん」 「開けたまま?」 「うん。俺なら、別にいいだろ?」 「それは、いいけど…」 不思議そうな 納得いってなさそうな顔をしながらも 素直なユウが、ドアを開けたまま、トイレに入って行く 「…大和?」 「うん。ここに居るよ」 「うん」 ドア…開いてるのに 俺が居るの確認してきた どれだけ怖かったんだろう ジャー 「大丈夫?」 「うん……」 トイレから出て来たユウは やっぱり、腑に落ちない様な顔をしてて 腑に落ちなくても いっそ、このまま忘れてしまえばいい 思い出さなくていい 四葉の言う通り ユウは、弱くなんてない 誰より優しいユウは 誰より強い そのユウが 記憶を封じ込めてしまう程のショック… シュウは どんなユウを見たのか… お風呂でも、素直で可愛いユウは 喜んで俺に、洗わせてくれた 首筋…変な痣は無い 背中や腕にも、傷は無い 手首… 「手首…痛くない?」 「痛くないよ」 「……そっか」 ユウの物でも、シュウの物でもないシャツ… 縛られてたのか…クソッ… 2人って言ってた 縛らなくたって ユウが敵わない事くらい、見て分かるだろ 『シュウが泣きながら頼んできた』 『ユウの胸洗ってやって欲しい』 シュウ… 『下は濡れてなかったそうだ』 自分で…確かめたんだ 確かめようと思う 状況だったんだ 「んっ…胸は、くすぐったい」 この、人の何倍も感じるユウの… 胸…濡らしたのか 「胸とか…んっ…腰とか脇とか…っ…大和が洗ってくれる時…逃げてた」 何も知らないユウ… 無邪気に、昔の話なんてしてる 「んっ…」 この可愛い声…聞かれた? この可愛い反応…見られた? ユウ… どの時点で意識失くしたんだ? シュウ… そいつら、殺してやりたいよな ほんとは、シュウが 自分で綺麗にしたかっただろうな 大丈夫だ、シュウ ちゃんと…綺麗にしてやるから 「大和?もう…いいんじゃない?」 「……ユウ…」 「何?」 もしも、ユウが思い出したら 優しいユウは 自分の恐怖だけじゃなく シュウの気持ちにも、苦しむ事になる 「………大丈夫…ユウは…綺麗だから…」 「?…綺麗?」 「ちゃんと…綺麗にしたから…大丈夫だよ」 「……ありがとう」 後で思い出した時 沢山洗っておけば良かったって、思わなくて済む様に 大丈夫 ちゃんと、綺麗なユウだよ 足も…あそこも 恥かし気もなく、洗わせてくれる 濡れてなくても…触られた? 後ろも、しっかりと洗っておくよ 『頼む』 朔の気持ちが… シュウの気持ちが…伝わってくる シュウ… 大丈夫だよ ちゃんと全部 綺麗にしたから 「ユウ、先にお風呂入ってな」 「うん」 チャプン… 失われた記憶があるせいか 腑に落ちない出来事のせいか なんだか、いつもより、ぼ~~っとしている ユウの左頬は、見てるだけで痛そうで 普通に話してるのが、不思議なくらいだ チャプン… ユウと向かい合わせに、湯船に浸かると 「ふっ…こっち向き?」 「そうだよ。ユウ…痛くない?」 そっと、ユウの左頬に触れる なんで、笑えてるんだ? ユウは小さな頃から 痛かったり、苦しかったりで、泣き叫んだ事がない 気付くと、静かに… 堪えながら、涙を流してる事がある 「そんな痛くないよ」 「そう?ユウは…凄く我慢強いからな…」 ユウは、いつも誰かの心配 自分を心配してくれる、皆の心配 こんな優しいユウを… ユウ… ユウを抱き締める 絶対、許さない ユウが許しても 俺は許さない 「相当びっくりさせちゃったな。帰って来た時も、凄く心配して、俺の傍に居たがってたんだ。大丈夫だと思うけど…後で朔兄に、伝えておいて?」 きっと、シュウ… 泣いてるよ 「分かったよ。ユウも……今日は、一緒に寝よ?」 「え?…うん。俺は、嬉しいけど…」 でも、シュウには朔が居るから 今は、ユウの事考えてあげよう? 「俺も、凄く心配したから…今日は、一緒に寝させて…」 「うん…心配かけて、ごめん」 今日くらい ユウも… ユウの心配してあげよう? 案の定、一緒に寝たがった四葉を、なんとかなだめて ユウと一緒に寝る いつ… 何がキッカケで、記憶が蘇るか分からない 「ユウ…夜中でも、何時でも、何かあったら、起こすんだよ?」 「分かった。おやすみ、大和」 「おやすみ」 少しの間、もぞもぞ動いたり、寝返りしたり 眠れないのかな 考えたくなくたって、考えてしまうよな しばらくそうしてると そのうち、寝息が聞こえてきた 「いい子だな…」 頭が、休みたくなくたって 体は、相当疲れてるんだ 「ユウ…っ…ユウっ……」 怖かったな 痛かったな 殴られた事なんかない 父さんや母さんに、叩かれた事だってないんだ 泣いてた? 叫んでた? ごめん、ユウ… 助けてって言ったら 何処にだって、駆けつけてあげたかったのに 「っ…ゆっくり…休もうな…」 こっち向きになったユウを 優しく包み込む 「ん…」 「お兄ちゃん…失格だなっ……~~っ…ごめんな…」 守ってあげたかった どれだけ無理な事でも どうにか、してあげたかった 傍に居たシュウは もっと、そう思うだろう 俺の大切な2人を傷つけたんだ 一生後悔させてやる 「………なく…な…」 ? ユウ? ビクッ!と、ユウの体が動く 「…ユウ?」 夢見てるのか ユウは、よく夢を見る 寝言も、珍しくない 怖い夢じゃなきゃいいけど… 「…~~っ…や…」 体…力入ってる きっと、嫌な夢だ 「ユウ…大丈夫。夢だよ」 「…や…て…」 「ユウ…大丈夫。怖い事ないよ。俺が居るよ」 「っ…やめっ…」 覚えてないのに、トイレのドアが閉まるのが怖い様に 完全に、消えた訳ではないから 夢で…見てしまってるんだろうか 「ユウ…起きて。夢だから…起きて」 少し、ユウの体を揺らしてみる 「っ…めて…」 「ユウ…俺だよ。大和だよ」 「…か……助け…」 「っ!」 助けてって言ってる 「ユウ…」 ピッ… 電気を点けて 「ユウ…起きて」 もう一度、体を揺さぶると 「………やま…と…?」 「そうだよ。怖い夢見てた?」 「………そう…かも…」 そう言って、少しぼ~~っとしてると 自分の手を見つめて、握ったり開いたりしている 「ユウ?」 「……なんか…マネキンになってた」 「マネキン?」 「うん…マネキンになって…動けなくて……でも、それが当たり前で……だけど………なんだっけ?」 「…思い出さなくていいよ」 「……なんか…怖かった様な……悲しかった様な……でも、忘れちゃった」 思い出そうとしてるのか 遠くを見てる様な目をしてて… 思い出さなくていいんだよ やめて…助けてって…言ってたんだから 「ユウ…夜中だから、もっかい寝よう?」 「うん。起こしちゃって、ごめん」 「怖い夢見ない様に、くっ付いて寝よう?」 「うん」 電気を消して、ユウを抱き寄せると 素直に俺の胸に入って来た 「怖くないよ…大丈夫だよ…」 「うん…」 「俺と一緒だからね……夢の中でも、ずっと一緒だよ…」 「…うん……」 「俺と…楽しく遊んでる夢…見ようね」 「……ん…」 マネキンになって、動けなくて… 動けなくて… 閉鎖されると怖いとか 動けなくされたとか 頭の隅には…残ってるんだ 「~~っ…ユウっ…」 大丈夫 もしも、思い出したところで そんなの1ミリも覚えてない人生にしてやる すぐにじゃなくても そんな事あったっけ?って、思う人生にしてやる 穂積 結叶を傷つけた それが、どんな罪か思い知らせて そんな奴らの存在忘れさせてやるから

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