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過呼吸

父さんと母さんから話を聞いてる途中で、シュウが、俺に話したい事あるって言って まだ話の途中なのに いっぱいいっぱいで、泣きそうになりながら、言ってきて… 俺に… 俺じゃなきゃダメなんだ 父さんと母さんも、帰って来たばかりで心配だろうけど 多分、今すぐ話したい事だから シュウを部屋に連れて行き、話を聞くと 想像以上の事が起こっていた 全部見られた… つまり、見られてたとこ…見たんだよな 下は濡れてなかった シュウ…どんな気持ちで確かめたんだ… 胸は、濡れてた… それを…伝えたかったんだ きっと、自分で気が済むまで洗いたかったよな だけど、出来ないから… どうしても、すぐに伝えたかったんだ どんな状況だったんだ? しかも、ユウは記憶が無い? どうなってんだ? 大和に伝えて、とりあえずシュウを落ち着かせる 過呼吸って… そんなの、なった事なかったのに しばらく、肩を抱き寄せて 手を握ってると 「ごめん、朔兄……訳分かんないのに…」 「訳分かんなくてもいい。今は、シュウの事だけ考えろ。落ち着いたら、下に行けるか?きっと、父さんと母さん心配してる」 「……うん」 なんだって、こんな事になってんだ? 朝…嬉しそうに出掛けて行ったのに 悪いのは、シュウじゃないのに 一緒に居て、救えなかったって思いが、消える訳ない しばらくすると、大丈夫と言って、一緒にリビングには行ったものの 全く食欲はない様子で 「ごめん…やっぱり、食欲ない」 みそ汁を一口飲んで しばらく、サラダの野菜を、摘まんだり戻したりしてたシュウが、そう言って箸を置いた きっと、ここに居たら気を遣う 「風呂まで、部屋で休んでるか?」 と、聞くと 「うん…」 と、答えて部屋へと戻って行った シュウが居なくなってから 父さんと母さんが、知ってる情報の続きを話してくれた けど… 服を脱がされてたって情報はない どうやら、シュウしか知らない間があるらしい そして、それを話そうとして… 過呼吸を起こした とにかく、過呼吸を起こしたら、ゆっくりと息をさせる以外の対処が無いらしい 心配だから、一緒に風呂入って寝ると伝えて、シュウの部屋へと向かった コンコン 「シュウ…入っていいか?」 「うん…」 横になってんのかなと思ったら 机に向かってた こんな時に、勉強?と、覗き込んでみると… なんだ? 男の…似顔絵? ユウじゃない 紙1枚ずつに、1人ずつの顔が描かれて その周りに、何やら文字が書かれてる 「シュウ…何書いてんだ?」 「……忘れない様に」 「忘れない?それ、誰なんだ?」 「……~~っ…許さない…絶対忘れない……毎日思い出して…いつか、絶対見付け出してやる」 「っ!」 これ… ユウを襲った奴らだ よく見ると、周りの文字は 身長170cmくらい 目は細め…等々 そいつらの特徴らしき情報が… 「シュウ…」 「忘れる前に…少しでも思い出さなきゃ……」 「警察が…ちゃんと捕まえたから…」 「……死刑にしてくれる?」 「え?」 「してくれないよね…だから、忘れる訳にいかないんだ」 つまり… いつか、見付け出して 自分で復讐するつもりで…… 真剣に悩んで、書き続けるシュウに そんな事やめろだなんて、言えなかった 今のシュウにとって それが、僅かな心の支えになってるから 黙って、シュウのベッドに座り ただ… シュウの気が収まるまで、書き続けるのを見守った シュウと風呂に入って シュウの部屋に布団を敷いて 「シュウ…眠れるか?」 「……分からない」 「電気点けとくか?」 「じゃあ…小さいの」 体は疲れてるはずだからな 眠ってしまえればいいんだが… 「夜中でも、何回でも、不安な時起こせよ?」 「うん…ありがとう」 ほんとは疲れてるはずだ ぐっすり眠れるといいけど そうもいかないだろな 何度か寝返りしては、起き上がってみたり 声を掛けようかと思うと、横になって… 考えたくなくたって、考えちゃうよな そんなんしてる間に 俺も、いつの間にか眠ってたみたいで ウトウトしてた頃… ガバッ!と、シュウが起き上がる音が聞こえた 「…シュウ?…大丈夫か?」 そう声を掛けてみるけど、返答がなくて 代わりに、息遣いが聞こえてくる 「シュウ?」 息遣いってか… なんか、泣きじゃくってるみたいな、引きつった息遣い… 電気を点けてみると… 「っ…っ……はっ…っ…っ…」 「シュウ?どうした?」 「っ…っ…っ……さっ…っ……るしっ…」 「っ!」 これ… 過呼吸?! 母さん呼ばなきゃ! けど… シュウを1人にしていいのか? こんな苦しがってるシュウ… 「シュウ…ゆっくり…ゆっくりだ」 ゆっくり息させる以外ないって言ってた シュウを、とりあえず横にする 「っ…~~っ…っ…くっ…し…」 「苦しいな?ゆっくりだ…ゆっくり…」 どうしよう やっぱ、俺じゃダメか? 走って、母さん呼んで来る? 「っ……はっ……っ…~~っ…はっ…」 「そうだ…ゆっくり出来るか?ゆっくりだ」 「っ…はっ……っ…はっ……っ…~~っ…はっ…」 「そうだ…そのまま…」 迷いながらも、こんな状態のシュウから離れられず とにかく、ゆっくりだけ言い続けてるうちに 少しずつ、落ち着いてって… 「シュウ…大丈夫か?」 「……ん…大丈夫」 「待ってろ…タオル持って来て、拭いてやる」 「…ん」 落ち着いたシュウは、涙と汗で、ビショビショで どれだけ苦しかったのか、一目で分かる 下へ下りて、タオルを取りに行くと 「朔?どうかした?」 「母さん…シュウが…多分、過呼吸起こした」 「えっ?」 「いや、今はもう落ち着いた。母さん、呼びに行こうか迷ったけど、なんか…離れらんなくて…」 「そう…びっくりしたでしょ…」 びっくりした あんなんなっちゃうんだ あんなの1回なっただけで、相当疲れるぞ 心配した母さんも付いて来たけど 「シュウ…大丈夫?」 「………大丈夫」 もう、半分眠ってた 当たり前だ あのまま…死んじゃうんじゃないかと思った 「母さん、俺ならシュウ寝てても、着替えさせてやれるから」 「じゃあ、お願い。朔も無理しないで」 「分かってる」 着替えを用意して すっかり大きくなった、シュウの体を拭いていく 拭かれてても、眠ってて 着替えさせてると、時々うっすら目を開けて 「……朔兄」 「大丈夫だ。寝てていいぞ」 「……ん」 確かめる様に、俺の姿を捉えると、目を閉じて また、着替えさせてると、うっすら目を開けて… 「シュウ…ちょっと狭いけど、一緒に寝ようか」 「……ん」 「よし。隣、横になるぞ」 「……朔兄…」 「怖い夢見たら、すぐに叩き起こせ」 「ん……朔兄…」 まるで、体は寝たいのに 頭が起きたがってるかの様に すっかり疲れ果ててるのに うっすら目を開けては、俺の名前呼んで… ようやく寝た 「はぁ…」 あれ…過呼吸… いつまで続くんだ? あんなん、しょっちゅう起こしてたら、まともに生活出来ないぞ なんか、精神的な医者に診てもらうって言ってたけど それで、起こらなくなるもんなのか? ユウは眠れてんのかな 記憶失くなってんなら、怪我が痛いくらいか 大和の方が、ダメージ受けてそうだな シュウが話さない限り、シュウしか居なかった時の状況が、分からない 警察が、取り調べで分かった事、ユウの両親には話すって言ってたみたいだけど… 記憶を取り戻した時、ユウはどうなるだろう? ショックで倒れる? いや…ああ見えて、意外とメンタル強いからな 自分がされた事のショックより、それによって、シュウが傷ついたって事の方が、ダメージ大きそう いっそ、思い出さなきゃいいけどな いつ思い出すか分からないってのは 周りの人間にとっても、爆弾抱えてる様なもんだ 最悪…シュウみたいな、過呼吸とか…色んな反応出るかもしんないし… 「大和…ブチギレてんだろなぁ…」 シュウは、ああは言ってても、どれだけ憎んでも… ほんとに殺すなんて事しない まあ、見付けたら殴るくらいは、するだろうが… 問題は、大和だ あいつは、有言実行 ユウを傷つけられて、大人しくしてる訳がない 俺だって、ユウは可愛い訳で シュウの気持ちも、大和の気持ちも分かるけど… 小学生で、学校中の生徒を、恐怖に陥れた奴だ 今なら、一体何をするのか、俺には想像もつかない とりあえず、俺に出来るのは ユウの記憶が戻った時、少しでもシュウのダメージが少なくなってる様に、シュウのケアに努める事くらいしかない 「まずは、ゆっくり休もうな」 大変な1日だったから これからも大変に違いないから せめて朝まで、ゆっくり休める様に…

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