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感謝と決意のキス
あの、最悪な日から1ヶ月が経った
警察に話したり
ユウと一緒に、心の先生みたいなとこ受診したり…
なんだか、あっという間だった
「ただいま~」
「ユウ~~!お帰り~~!ちゅっ」
皆、元通り
あんな事、無かったかの様に
皆、忘れてしまったかの様に
だけど…
「ユウ、皿ここに…っ…ごめん!…大丈夫?」
「…大丈夫…ははっ…なんだかな~」
「ユウ…」
「そんな顔すんな。ちょっと、びっくりするだけだ」
ユウは…
すぐ後ろに人が立つと、一瞬ビクッとして、固まってしまう
「ユウ…さっき…ごめん」
「わざとじゃないんだし、謝んなって」
「怖くなってない?」
「なってない…けど、シュウには、抱き付きたい」
「ん…ユウ…」
トイレは、もう平気らしい
後ろに人が居るのも、ほんとにすぐ後ろじゃないと、気にしないし
固まるのも、ほんの一瞬だけど…
「シュウ…シュウは?あれから、苦しくなってない?」
「ん…大丈夫」
「俺が気付いてなかった、あの時が最後か」
「俺だって、最初は何が起きたのか分からなかった…過呼吸見た事ないユウが、気付かなくて当然」
「後から聞いて、びっくりした~」
過呼吸って気付かなくても、ユウは、治してくれたよ
ユウのも…
早く全部、治してあげたい
「学校で…怖くなる事ない?」
「ないよ。もう、そんな気にしなくて大丈夫だ」
「……痕…残らなくて、良かった…」
ユウの頬に触れる
ユウが痛がらないもんだから、あまり冷やさなかったのもあって
2、3日、結構腫れ上がってしまって
マスクはしたけど、学校の皆に驚かれたみたいだ
一応、知らない人に突然襲われて、殴られた
それだけは、皆に説明してるみたいで
その後しばらく、ユウの周りには人が集まってて…
俺は、心配で心配で
休み時間の度に見に行った
腫れが治まった頬は
次々と色んな色に変化して
ようやく、元の綺麗な状態に戻った
この…
俺のせいで作ってしまった痕みたいに…
もう二度と、ユウにこんな事がない様に
俺が守るんだって思ってたのに…
「ふっ…そこ、もう何もないってば」
「あるよ…こんなに経ったのに…」
「…そこ…キスして?シュウにしか、分かんないから、シュウがキスしたら、消えるかも」
そんなんで消えるなら、いくらでもするよ
「ん…」
「痛くない?」
「痛い訳ないだろ。シュウにキスしてもらうと、なんか安心する」
「こっちも…していい?」
ユウの唇に、そっと触れる
「いいよ」
「ユウ…好き」
「ん…俺も好きだよ」
あれから…
怖くて、あまりユウの体に触れる事が出来ない
「ん…ん……はっ…んっ…」
ユウは…我慢強いから
ほんとは、痛くても、怖くても
意識もしないで
すぐに我慢してしまうから
「はぁ…ユウ……少し…一緒に横になっていい?」
「ん…いいよ」
一緒に横になると
ユウは、すぐに俺の手を握る
ユウが不安なんじゃなく
俺を安心させる為に
「シュウ…今日…金曜日だよ?」
「?…うん」
「……久しぶりに…泊まってかない?」
「っ………いや…」
泊まると…
触れたくなる
だけど…
あの日…
あいつらにされた、全てを
自分でして…全部塗り替えたくて…
そしたら、ユウが…震えて…
怖かった
俺に怖がってるんじゃないって、分かってても
俺がした事で、震えさせてしまったのが
ほんとは…
その前から、我慢してたんじゃ…
俺の為に、ユウ…
怖いの我慢してたんじゃないかって…
「あ…別に、どうしても泊まってって言うんじゃなくてさ」
「…うん」
「シュウの家族も、まだ心配だよな」
「最近、ようやく…朔兄が夜中、見に来なくなった」
「そっか」
朔兄は、俺にはあまり聞いてこないけど
凄く心配してたみたいで
夜中…何度か、静かに俺の部屋のドアを開けて
しばらくすると、部屋に戻ってって…
徐々に、夜中1回位になってって
ようやく、安心して眠ってくれてる様だ
「なぁ…明日さ…天気良かったら、散歩行かない?」
「っ…散歩って…何処に…」
「そんな怖い顔すんな。散歩だよ。その辺」
「皆…きっと、心配する」
「じゃあ、大和か朔兄に、付いて来てもらお?」
なんで、そこまでして…
きっと皆…俺も…
学校の行き帰りだけでも、心配なのに…
「嫌か?」
「嫌な訳じゃ…ないけど……ユウ…怖くないの?」
「あんな、あり得ない事起きたからって、今まで出来てた事、出来なくなるとか…悔しいじゃん。怖くなるかもしんないけど、やってみなきゃ分かんないし」
怖くなるかもしんないけどって…
そう思ってるなら、なんで…
「そんなに…焦んなくても…」
「焦ってる訳じゃないけど…勿体ないもん。いつまでも、ビクビクしてるの」
「まだ…そんな経ってないよ?」
俺が、そう言うと
う~~ん…と、少し考えたユウが
「やっぱ、一回死んでるからなのかな」
「え?」
「あ、間違った。前世が、長くない人生だったせいかな…なんかね…前よりは長く生きられるって思っても…やっぱ今の…14歳の俺達の時間…大切だなって思うんだ」
「うん…」
「だから、そろそろシュウと、今までみたいにしてきたいなって」
そんな事言っても
ユウの体…まだ、怖がってるのに
「あのね…蓮には…幼馴染みと呼べる奴、居なかったんだ」
「…そう」
「親友も居なかった。だってさ…外で一緒に遊べないんだもん」
「…うん」
「勉強もあまり出来なかったし、運動なんて全く出来なくて…今、シュウを好きみたいな気持ちも、漫画の中でしか知らなかった」
蓮…
蓮の話…しないで欲しい
俺よりずっと、情が深いユウは
蓮を思い出すと、すぐに蓮に、引っ張られそうで…
「えっと…何が伝えたいかって言うと…今の俺、すげ~!超羨ましい!って…蓮だったら思ってる」
「……ユウは…今は、ユウだ」
俺を元気付けようとか
安心させて、前に進もうとか
なんか…そんな話なんだろうけど…
蓮の気持ちになんないでよ
ユウを、そっと抱き寄せる
「そうだよ…だけど、結叶の人生もさ、あと何年続くかなんて、誰にも分かんないじゃん?」
「何年って…まだ14だよ…」
「2回目の人生、健康だったけど、やっぱ14までだったって…」
「やめろ!」
思わず...
ユウが、びっくりした顔になる位の声を、出してしまった
だけど…
「例え話でも…そんなの口に出さないで…」
「だけど、分からないだろ?1分先の未来だって、分からないんだから」
「分かったから…ユウで例えるな…」
ただでさえ…蓮に引かれそうなのに
やめろよ…
今…蓮と同じ14なんだぞ?
「例え話じゃなくて…俺は…経験してるんだ…」
「ユウじゃない…」
「だけど、知ってる…どれだけ…この世界に皆と一緒に居られる事が…どれだけ……奇跡みたいな事でっ…」
「…ユウ?」
声…掠れて…
泣いてるの?
抱き寄せたユウの顔を、確かめると
涙が溢れそうになってた
「~~~っ…全部…無くなっちゃうんだ…」
「ユウ…ユウは、まだまだ生きてるだろ?」
「っ…俺が、この世界の何処にも…存在しなくなる…っ…」
「ユウ…落ち着いて…ユウは今、蓮じゃない」
「分かってる…だって、蓮には…シュウが居なかった…せっかくシュウに出逢えたんだ…ねぇ、シュウ…今、シュウと居るだけで…っ…奇跡なんだよ…」
蓮の事思い出して、ちょっと混乱してるのかと思った
だけど、そうじゃないらしい
全部無くなる
世界の何処にも存在しなくなる
それは一体
どんな感覚なんだろう
「ユウ…大丈夫?…怖い?」
「怖くない…シュウと、こうして居れて…幸せなんだから」
「じゃあ…泣かないで…蓮の事…思い出すな」
「~~っ…ごめん……今が…幸せなんだって事…」
今が…
勿体ないもん
俺達の14歳の時間…
ユウにとっての、今は
俺の感じる今よりも
ずっとずっと…大切で…意味のある時間なんだ
~~~っ…全部…無くなっちゃうんだ…
きっと、大変で辛かったであろう蓮の人生
それでも、やっぱり当たり前なんだろうけど
そんな風に思う訳で
俺にとっては
俺達の人生には、あり得ない出来事で
ユウが、もうこんなに普通に生活出来てるのも、信じられない位で
なんで一番傷ついてるユウが
先頭を切って進む様な
まるで俺に
早く付いて来いって言ってる様な
なんでって…
ユウは、そういう奴だから
あんな小さかったのに
頭から血を流しながら
俺の心配する様な奴だから
だから…
俺が、全然変われてないから…
「…ユウ…今日…泊まってっていい?」
「…シュウ…いいよ!」
「明日…散歩行こう」
「うん!行こ!」
俺より小さなユウが
涙を流しながら、笑ってる
ほんとに嬉しそうに笑って
俺に抱き付いてくる
いつも、遅くてごめん
結局いつも、ユウに助けられてる
蓮の記憶なんてまだ、全然無かった時から
俺より、ずっと小さなユウは
いつも、笑って振り向いて手を差し出してくれる
どれだけ鍛えたって、ユウには敵わないんだ
自分の痛みなんて、そっちのけで進んで
いつも、俺を引っ張ってくれる
ユウより、ずっと大きくて重たい俺を
簡単に、引っ張ってってしまうんだ
「ユウ…もっともっと…強くなるから…」
「え…何?急に…これ以上、俺よりデカくなる気?」
「全然…まだまだだ」
「げ~…じゃあ、俺も頑張って鍛えようっと」
「ユウは、もう充分」
「?」
こんなに可愛いのに
こんなに小さいのに
愛しいユウに
感謝と、決意を込めてキスをした
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