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様子見は、終わり
シュウが、ずっと俺に気を遣ってる
俺の顔見て、大騒ぎしてた皆も落ち着いて
頬っぺたも、すっかり治って
警察の人との話も、そういう専門の小児科の先生の受診も終わって
どうしようかなと思ってたトイレも、早々に克服
しばらくは、寝てる間も、ほんの少し開けてたドアだって、今じゃ閉めてて大丈夫だし
俺の中じゃ、さっさとあんな事、気にしない生活にしたい訳だけど
まだ、ほんのちょっと残ってる、俺の反応のせいで
シュウが、びみょ~に距離を取ってる
様な気がする
お互いの家族が心配してるのもあって
俺の部屋で、2人になってる時間も減って
土日も、どっちかの…
ってか、ほぼ俺の家で、皆で一緒に居る事が多くて
いいんだけどね
それで楽しいから、いいんだけどね
なんなら、キスとか、そういう事は、まだまだ慣れない訳で
そういうの、無きゃ無いで、気が楽だったりするんだけどね
だけどさ
一応、俺達恋人同士な訳で
シュウは、色んなそういう事したいって思ってるの、知ってる訳で
こんな時は…
コンコン
「大和、ちょっといい?」
「う~~ん…なるほど…」
「シュウが、我慢してないならいいんだけどさ。どう思う?」
「シュウは、確実にユウに触れたいだろうけど、怖いんだろな」
「怖い?シュウが?」
「シュウがした事で、ユウを震えさせたってのが、ずっと残ってるんだろな」
なんで、あれが一番怖いって事になったのか
自分にも分からない
あれが怖いって思うから、後ろに立たれんのが怖いのかな
「大和、ちょっと横になって、俺を後ろからぎゅってしてみて?」
「…いいけど…怖いんじゃないのか?」
「それを検証したいんだよ」
「検証って……いいけど、無理するんじゃないよ?」
「うん」
大和に背を向けて横になると
大和が、ゆっくりと後ろで横になる
ゾワゾワする
何でだろ
「ユウ…大丈夫?」
「うん…」
ゆっくりと、大和がくっ付いてくる
ぎゅってされると、安心する…
「っ!」
「ユウ?大丈夫?」
「……あ…なんか…」
分かったかも
「離れる?」
「なんかね…」
「うん…」
「お尻の辺り…あ…当たるのが…」
「…ユウ…こっち向いてごらん」
うわ…
いつの間にか、握ってた手の中、汗かいてる
「あ…」
俺が、動かずにいると
大和が、くるりと俺の体を回した
「大丈夫?」
「うん…なんかね、シッポの辺りが…」
「シッポ?!ユウ…シッポあったの?!」
「間違えた。シッポがありそうなとこ辺りが、ゾワゾワってする」
「ありそうなって……ふっ…面白いな、ユウ」
そう言って、背中ぎゅって抱き寄せて
頭撫でてくれた
「シッポがあったら、今、思いっきり振ってる」
「ユウにシッポなんか付いたら、可愛い過ぎて外に出せないよ」
「……怖いって思ってないのに、先にゾワゾワしてくる…」
「本能が反応してるんだろな。それだけ…怖かったんだよ」
そうなのかな
自分の頭の中で処理してなくても、そうなるもんなのかな
「頑張ったら、少しずつ慣れてくかな?」
「慣れてくかもしんないけど、まだ頑張らなくてもいいよ」
「……俺は、頑張りたい。今、出来る事あるなら、やっておきたい」
「ユウは、すぐ我慢するし、頑張っちゃうから、心配だな」
それは、大和も…ってか、大和の方がそうだろうし
俺だけって事、ないんだろうけど
弱いから…
すぐに心配かけちゃうから…
「頑張ってみたって、上手く行くとは限らないけど、出来ないって選択肢しかない訳じゃないからさ…」
「……それは…やっぱ、蓮の経験とか入ってる?」
「それは大きい。でも、蓮だけが特別って訳じゃない。俺と同い年で…もう幼馴染みを亡くした奴も居るし、今もきっと…」
この世界にだって、蓮みたいな子も居るし
もっと、小さいのに死んでった子達だって…
今は、それが見えない環境に居るだけ
「……そっか…でも…ユウは、蓮の記憶取り戻す前から、我慢強くて、頑張り屋さんだったよ」
「そうかな?大和を見てたからじゃない?」
「ユウ…産まれた後、NICUってとこに入ってたって聞いただろ?」
「うん。早く産まれちゃったから、保育器に入れられてたって」
ほんとは、シュウと同じ時期に産まれるはずだったのに
俺とシュウの誕生日は、2ヶ月近く差がある
「ほんとにね…小さくてね…生きてるのが不思議な位、小さくてね…だけど、ユウ…あんな小さかったのに、産まれてすぐに1人で頑張ってたんだよ?」
「…え?大和…記憶あるの?!だって、大和だってまだ、小さな子供だったでしょ?」
「うん…だから、ほんの一場面だけなんだけどね……産まれた時からユウは、頑張り屋さんだったんだよ」
そう言って、大和が優しく撫でてくれる
俺は、全然頑張った覚えなんてないんだけど
大和が、会いに来てくれてたって知れたのは、嬉しい
「子供の頃も、ユウ…しょっちゅう具合悪くなって…病院行くと、採血されたり、点滴されたり…俺は、そういう経験がなかったから…それに堪えてるユウが、凄いと思った」
「堪えてるって言うか…大体そんな時は、嫌がる元気も無くなってたんだと思うけど…」
「頑張るユウから、沢山…力を貰ったんだよ」
俺は、しょっちゅう大和から、母さんを奪ってたのに
まだ、小さかった大和から…
「大和…今さらだけど…しょっちゅう入院しては、母さん連れてっちゃって、ごめんね?大和もまだ、小さかったのに…」
「そんなの、全然。それよりも…俺も子供だったからさ…苦しくて、ちゃんと息出来てないユウを見るの…怖かった。死ぬって事が、よく分かってなくても…怖くて…なんで、ユウだけこんなに苦しまなきゃならないんだろうって、いつも思ってた」
そっか…
俺は、常にこっち側だから
小さな頃から、そんな思いさせてたら
普通以上に心配する兄ちゃんが、出来上がってしまうのも、当然っちゃ当然なのかも…
「大和…」
「ん?」
「…俺には、いつだって、沢山の俺を支えてくれる人達が居て…今んとこ、まだまだ長い人生続くつもりで…思いっきり、泣いても、走っても大丈夫な体を持ってて…」
「…うん……頑張りたいんだな?」
「うん」
だって、普通じゃないんだ
これは、奇跡なんだ
その中に、黒い墨を落とされてしまって
周りにも、広がってしまったけれど
俺の周りは、広いから
まだまだ、これからも広くなってくから
消えて無くなる事はなくたって
たまに、漂う事があったって
「シュウと、向き合ってくしかないな」
「シュウと…」
「シュウも、今のユウと向き合って、前に進むって気持ちになれないとな」
「そっか…」
向き合うね…
散々、様子は見てきたんだから
こうなったら、直接交渉だな
「ユウの強いとこ…凄いと思う。けど、心と体のバランスは大切だ。ユウの体が反応してるって事…無視しないでやって欲しい」
「大和……そうだな。俺が無理したら、またシュウの奴、心配しちゃうもんな」
「うん。シュウも、今回は、かなりダメージ受けてるから…」
「分かってる。けど…様子見は、終わりだ。シュウと、ちゃんと話してみるよ」
今のシュウの気持ち
シュウが望む事
俺に出来る事
頭ん中で、グルグル考えんのは、終わり
俺の体、まだビクつくかもしんないけど
ちょっとずつ、前に進むからな
大和の胸ん中
甘えた心地好さと
進む道を決めた爽快な気分で
無いはずのシッポが、フリフリ後ろで揺れてるみたいだった
そして、迎えた週末…
「シュウ…今日…金曜日だよ?」
「?…うん」
「……久しぶりに…泊まってかない?」
「っ………いや…」
シュウ…
もう、決めちゃったからさ
前に進むんだって
進もうと思っても、進めないかもしんないけど
だから、実際進めるのは
今じゃなくて、先の話かもしんないけど
とりあえず、シュウ…
今のシュウの気持ち聞かせて?
今の俺の気持ち聞いて?
そこからだろ
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