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憧れ

「行って来ま~す!」 「行ってらっしゃい。シュウから離れるんじゃないよ?」 「うん」 あれから、時間が経って シュウと、沢山話して 時には、泣いてしまったり 忘れた頃に、悪夢を見たり それでも、少しずつ前に進んで 「シュウ!」 「ユウ…行こ」 「うん!」 今では、また こうして2人で出掛けられる様になった 「ユウ…背伸びた?」 「やっぱり?!俺もさ、そうなんじゃないかなって、思ってたんだよ。後で、測ってみよ~っと」 「声変わりも、そろそろしそうだね」 「え?そうなの?なんで、シュウ分かるの?」 「なんとなく、掠れた感じになってる時、あるから」 言われてみれば、そうかも なんとなく、喉の調子悪い?って、思ってるうちに、治ってて… 風邪の引き始めを、繰り返してんのかと思ってた 「どんな声になるのかなぁ…あ…あ~…」 「……ユウの今の声、もう少しで聞けなくなっちゃうんだ」 「まぁ…そうだな。そうじゃないと、困るし」 「録音しといていい?」 「え…いいけど、色んな動画あるし、声も結構残ってるんじゃない?」 「……そうだけど…」 なんだ? そんなに、今の声の俺がいいのか? 確かに、1回変わっちゃったら戻らないからな なんか、名残惜しくなったんかな 「はぁ~…美味しかった~」 「ユウ…もう、満腹?」 「うん…ここ、美味しいけど、量が半端ないな」 「じゃあ、これ貰っていい?」 「シュウ…食べれんの?!」 「うん」 前から、俺よりは食べてたけど 益々食べる様になって 体も、どんどんデカくなってる 「……シュウさ…今でも、毎日筋トレしてんの?」 「ん?…してるよ?」 ただ、背が伸びてるだけじゃない 逞しく、デカくなってる! 「俺も、今鍛えてんだ。最近、全然風邪も引かないし、超健康!よ~く見ると、うっすらと腹筋見えてきたんだ。腕も、ほら…ちょっとは、筋肉付いたと思わない?」 グググっと、二の腕に力を入れる ちょっと盛り上がってるのは、ただの皮と筋じゃないはずだ 「ユウ…筋肉付けたいの?」 「そりゃ…誰だって、強い男に憧れるだろ」 「ユウは、強いよ。体くらい…俺に勝たせといて」 「ぶっ!…シュウに勝とうなんて、そんな無謀な事、思わないよ。少しでも、近付きたいだけだ」 男として生まれたからには 殴り合いとか 颯爽と現れて、悪い奴をやっつけるとか なんか、そういうのに憧れるけど 「……あの時のシュウ…格好良かったなぁ…」 「え?」 「ほら、俺がトイレで襲われた時さ、シュウ…ドア壊して、モップ構えてたじゃん?」 「っ……」 シュウは、まだ… あの時の話をすると、少し痛いらしい… 「……シュウ…まだ、怖い夢見る事ある?」 「…たまに…ユウは?」 「俺はね、昨日不思議な夢見た」 「不思議な?」 「うん。猫になった夢」 「猫…ユウが…猫……」 え… なんか、めちゃくちゃ俺の顔見てくるけど 夢の話ですけど? 「小さな箱ん中入っててね…そこから出たいんだけど、自分じゃ出れないんだ」 「……うん」 「だから、誰かに出してって言いたいんだけど、考える事は出来てんのに、言葉がにゃんこの鳴き声でしか出てこないんだよ」 「ユウ…猫になって、鳴いてたの?どうやって?」 なんか… すっごい、興味津々 「出して…誰か気付いてって、言ってるんだけど、口から出てくるのは、にゃ~…うにゃ…にゃ~んなんだ」 「…っ…可愛い」 「は?」 「あ…いや……それで?」 うわ… シュウが、ちょっと照れてる ほんとに、可愛いって思ったんだ シュウ…そんなに猫好きだったっけ? 「そのうち、雨が降ってきて…箱は濡れるし、寒いし…益々俺の声、聞こえなくなっちゃうし…鳴くのも疲れてきて…箱ん中で丸くなってたんだ」 「丸く…かわ…っ…それで?」 「いつの間にか…眠ってたんだ」 「そのまま眠ったら…寒くて震えてしまう」 シュウが、そっと頬に触れてくる 今の俺じゃないよ 「それがさ…気付いたら、なんかあったかくて…色んな人の声が聞こえてきて……上を見上げたら、箱の蓋が開いてさ……シュウと、大和と、四葉と、朔兄が覗き込んでたんだ」 「そっか…良かった」 「なんで、俺だけ猫になってんのか、不思議だったけど、とにかく…皆に沢山撫でられて、あったかくて…気持ち良くて……すっごくいい気分で目覚めたって話」 結叶じゃないのに ずぶ濡れの黒猫なのに いつもとおんなじ、あったかくて… 「いい気分なら、良かったけど……ユウは、喋れない夢…見る事多いね…」 「そうかな…でも、喋れなくても、いい夢だったよ」 「……うん…ユウ…帰ろ?」 シュウは、今でも、ちょっと情緒不安定になる事がある 過呼吸にはならないけど ほんの少し気になったり、不安になったりって事があると 一気にテンションが、下がる 「ユウ…」 「ん…不安になった?」 「ん…」 シュウの部屋に入るなり シュウが、抱き付いて、甘えてきた こんな風に、素直に甘えてくれると、安心する 「怖くないよ。シュウが、いつも一緒だから」 「うん…」 「夢ん中にも、出て来てくれるんだから」 「うん…」 「そもそも、シュウだったら、喋れなくても通じるし」 「ん……ユウ…」 泣きそうな顔 シュウの頭の後ろに手を回して、顔を近付ける ゆっくり、目を閉じると シュウの唇が触れてくる 少しずつ、俺の体に触れてくる様になって 少しずつ、俺も後ろに居る事に、ビクつかなくなってって そういう事する様になったけど 時々、シュウが いつもとは違う感じで、胸を舐めてくる そんな時は、ほんとに辛そうな顔してて… 思い出してんだろなって思う 後ろに誰かが居ても 後ろから抱き付かれても、平気になったけど そういう事する時 後ろからは、触れてこないし あの時以来… シュウのアソコを擦り付けてくる事もない 「ユウ…ユウに…触れたい」 「いいよ」 ベッドに横になって、自分で服を脱ぐ 別に、張り切って触ってもらおうってんじゃないけど… シュウが… 俺の服、脱がせる時 なんだか、凄く闘ってる感じがするから ポイっと、服をベッドの下に放り投げると 「……ユウ…いい?」 俺が、いいって言って 服脱いだってのに まだ、確認してくる 「いいってば。怖がるなよ」 「…怖くなったら…すぐに言って」 「分かってる」 俺が、あの時怖くなってしまったから シュウのせいじゃないのに こういう事、我慢しないで、またする様にはなったけど 何処かで怯えてる 「っ…んっ…」 「ユウ…大丈夫?」 「大丈夫…んっ…」 「こっちも、触れていい?」 「いい…あっ!」 「大丈夫?怖くなってない?」 「大丈夫」 どれだけ言っても、不安らしい 慣れてくしかない 今回も大丈夫だった だから、大丈夫になってきてるって シュウ自身が思うしかない 「ユウ…少し…舐めてもいい?」 「いい…少しじゃなくていい」 「嫌な気持ちになったら、すぐに言って…」 「分かってる」 あいつらにされた事、覚えてるけど 細かい事は、もうあんまり覚えてない だから、こんなんで 嫌な気持ちになんて、ならないのに 「はっ…んっ…~っ…あっ!」 「大丈夫?」 「大丈夫だから…」 「ん…」 「んっ…んっ…ぁっ……~~っ…んっ…」 優しくって、思ってくれてんだろうけど まるで1つ1つの細胞に触れるかの様に ゆっくり…丁寧に触れてくる それは、それで 「~~っ…ぁっ……んっ…~~っ…んんっ…」 いや 俺の場合、どう触れられても 感じやすいって事なんだろうけど あ… 気持ち良くて、勃つという事を知った俺の体は これまた、前よりもアソコも反応しやすくなってしまって 「んっ…んっ…」 「ユウ…脱ぐ?」 「うん…勃っちゃった」 刺激に堪えながら、下を脱ごうとしてると シュウが手伝ってくれた 「はぁ…苦しかった」 「ユウ…全部脱いで…怖くない?」 「シュウに見られて、怖い訳ないだろが。それよりさ…ちょっと、見てみてよ。俺の腹筋」 「ユウの…腹筋…」 「この辺にさ、うっすら見えない?」 指差しをして ちょっと腹筋に力を入れる 「うん…見える」 「だろ?!見えるよな?!」 「うん」 「やった!他人の目で見て、腹筋認定もらっ…んっ…」 シュウが、俺の腹筋の上を ス~っと指でなぞってきた 「くすぐった…」 「ユウの…新しいものだから…俺が最初」 「ふっ…うん…んっ…」 今度は 舌這わせてきた 「ユウの腹筋…可愛い」 「ゔっ…そのうち、可愛いじゃなく、格好いいになってやるんだ」 「…どうなっても、俺の中のユウは…可愛いのに、強くて格好いいだよ」 「格好いい?そんな風に思うとこある?」 そう聞くと シュウが顔を上げて、俺の目を見て 「ユウは、ずっと格好いいよ…いつだって俺の前歩いて…俺を引っ張ってってくれる……俺よりずっと、体弱いのに…体小さいのに……デカいだけで、動けずにいる俺を…引っ張ってってくれる……」 「シュウ…」 そんな風に、思ってくれてたなんて なんか… すっごく嬉しい 「ユウを守りたいって思いながら、ずっとユウに憧れてる…ユウみたいに、強い人間になりたい」 「なっ…なんだよ、突然…そんなの…面と向かって言われたら…照れるだろ…」 憧れられるなんて こんな、うっすい腹筋出来たくらいで喜んで 俺は、真逆の存在だと思ってたのに... 急に恥ずかしくなって、目を逸らせると 「ユウ…」 「ん…」 ほっぺに、ちゅってされて 思わず、シュウの方を見ると 「ユウ…」 両手を、きゅって握ってきて 「ユウ…」 眩しいみたいな目をして見てきて 「ユウ…」 「ん…ありがと」 そう言うと ほんとに、ほんとに、嬉しそうに笑って この、滅多に見られないシュウの最高の笑顔 1番見てんのは、俺かもしんない 「シュウ…きっと、もう…後ろ触っても大丈夫だと思うよ?」 「っ……」 「あれから、シュウ…全然触れてこないからさ。普通に触りたくないんなら、いいんだけど…もし、我慢してんならさ…」 普通に考えたらね 触りたいって思わないけどね シュウ…すごく触れたいって感じだったからさ 「そんなに…どうしようもなく…触れたい訳じゃないから…」 「そう…じゃあ、いいんだけどさ」 「っ…でもっ…ユウが、ほんとに…ほんとに大丈夫だって、思うようになったら…」 「なんだよ…それじゃ、我慢してるって事じゃん」 「~~っ…我慢より…ユウが怖がる方が…やだ」 俺より ずっとダメージ大きい でも、なんとなく分かる きっと、自分の事なら、ここまでじゃなかったかも 俺も…シュウが傷つく事の方が、ダメージ大きいだろなって、思うから 「シュウ…もう俺の方は、チャレンジOKだよ。シュウは?」 「チャレンジって…ユウ…また、震えるかもしんないのに…」 「震えたら、シュウが抱き締めて、あっためてくれるんだろ?」 「それは、勿論そうだけど…」 「それが分かってたら、大丈夫」 しばらく、じっと俺を見つめてたシュウが 俺を見つめたまま 手を下に下げ始めた

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