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第1話
なんで、こんなときに白狼と打ち合わせが入ってるんだ!? それも二人きり!
正面に座る白狼をみて、頭を抱える。
会議室、密室空間、二人きり。
叫びたい気分だ。
落ち着け、落ち着けと自分に言い聞かせる。
俺は白狼と目を合わせないようにパソコン画面をじっーと見た。
白狼の声が、打ち合わせの内容が、頭に入ってこない。
白狼のスマホが鳴る。
「悪い、電話いいか?」
白狼は一旦会議室を退室した。
俺はホッとした。
仕事しろ、両手で頬を叩く。
会議室のドアのガラス越しに白狼を盗み見た。
白狼は営業部のエースだ。人当たりもよく、人望もある。老若男女から慕われている。そしてモテる。俺とは正反対の人間だ。
なぜ? よりによって、アイツを好きになったんだ!
電話姿も様になる白狼を見て、
まあ、男から見てもかっこいいよな。
いいヤツだし。
うん、惚れてもしょうがない。
と思った。
戻ってくる白狼と目が合い、俺は慌ててパソコンに視線を落とす。
観察していたのが、バレたかとヒヤヒヤした。
白狼が俺の伸びた前髪を触る。
「前髪、邪魔じゃないか?」
(兎洞の可愛い顔、もっとみたいのに)
白狼の心の声が聞こえて、驚き退く。
え……!?
硬直する俺。
可愛い……って!
顔が熱い。
「兎洞、室温高いか? 顔真っ赤だぞ」
「こ、これは、白狼が……!?」
「え?」
「あ……いや、なんでもない。ちょっと暑いかも」
いやいやいや、幻聴だ。
いや、願望か? 俺の。
あんな夢見るのも、白狼の声が聞こえるのも全部、俺の願望で妄想だ。
ごめん、白狼。
打ち合わせ中も幻聴に悩まされ、集中できない。
「兎洞、どうした?」
(可愛い……キスしたい)
白狼の視線が自分の唇を見ていると思い、反射的に立ち上がってしまった。
「と、トイレ!」
トイレに駆け込む。
「無理だって……あんなエロい顔……いやいやいや俺の思い込みだ。俺は欲求不満なのか!?」
深呼吸を激しく繰り返して、打ち合わせに戻る。
「3週間か。白狼、これ納期……厳しいな」
「申し訳ない。これでも延びたほうなんだ」
5週間、いや4週間は欲しいな。
「確かにここはいつも無茶ぶってくるよな」
「そうなんだよ」
ちょっと無理すればできないことはないか。
「白狼が取ってきた仕事だから頑張るよ」
「ありがとう。頼りにしてる」
打ち合わせ室を出る。
(兎洞には頼ってばかりだな。納期がタイトだって文句言われて当たり前なのに。俺、兎洞に甘えすぎだな)
白狼……。
(俺も頑張らないと)
ちょっと嬉しいかも。
白狼の役に立ってると思い嬉しくなる。
全部、幻聴だけどな。
「兎洞」
「うん?」
「実は――」
「白狼さん!」
白狼が言いかけた時、女子社員たちが駆け寄ってきた。
白狼は女子社員に囲まれる。
みんな色めきだっている。
俺の存在は目に入らないようだ。
立ち去りながら、俺は白狼をチラリと見る。
俺が女子社員でもああなるよな。
白狼には選択肢がたくさんある。俺が選ばれることはない。気持ちを自覚した日に失恋から……ちょっと辛い。
俺は姉にメッセージアプリで連絡する。
「助けて」と。
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