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第3話
出勤時、オフィスの入り口で白狼を見かけた瞬間、胸がドキドキする。
彼は女性社員と親しげに話していて、その笑顔が眩しい。
嫉妬の炎が胸の奥で燃え上がり、朝から感情の起伏が激しくて疲れた。
デスクに着くと、突っ伏してため息をついた。
人を好きになるってこんなに疲れるのか……。
最後に付き合ったのは大学生だったから――
え……十年?
十年前かあ……年取ったな、俺。
ショックを受ける。
白狼とのちょうどいい距離感がわかるまで、彼と距離をおこうと決めたのに。
「兎洞、仕事進んでる?」
「お、おう」
不意打ち白狼、勘弁してくれよ。
それなのに、白狼がわざわざ俺のところまで仕事の進捗状況の確認と理由をつけてやってくる。
そうだよなー……この案件が完成するまで、距離を置くなんて無理だよな。
「くま……寝不足か? 納期タイトだからって無理してない。難しかったら言ってくれよ。先方に掛け合ってみるから」
(兎洞、責任感強いから頑張りすぎるんだよな。心配だ。無理させてるのは、俺か)
「大丈夫」
寝不足なのは、またあの夢みるんじゃないかってドキドキバクバクで眠れないだけなんだ。
案件はすこぶる順調です。
なんか、ごめん。
「無理するなよ」
あの日以来、夢はみていない。
朝起きたときの虚無感。
毎日でも夢見たいなんて、俺は絶倫なのかと戸惑う。
ばあちゃんの「あんたは、絶倫だ。ピーンときた。間違いない。アタシに似たる」言葉を思い出す。
言われた子供時代の衝撃と共に。
いやいやいや。夢だから。
夢の中の話だから。夢と現実は違うから。
今までだって絶倫のぜの字もないから。
ラーメンでいったら、あっさりだから。
ばあちゃんのこってりとは違うから。
それ以降も、白狼はちょこちょこ俺のデスクに顔を出す。
毎回差し入れを持ってきてくれる。
白狼に会えるのは嬉しい。
優しい。
白狼、納期がタイトなこと気にしてるんだな。
そんなにみんなに気配りしてたら疲れないかな。
その度に、白狼が好きだと実感する。
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