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第5話

週末の会社帰り、俺と白狼は一緒に近所のスーパーへ寄った。 俺は生姜焼きに必要な材料を選びながら、買い物かごに入れていく。 白狼は俺の後ろをついてくる。 「キャベツ……っと生姜と――」 「兎洞、千切りできるの?」 白狼が驚いたような眼差しを向けてきた。 「千切り用のピーラーがあるから、技術はいらないんだ」 「そんなのあるんだな」 「豚肉はどうする? ロースでいい? それともバラにする?」 「えっと……兎洞はどっちが好き?」 「俺はロースかな」 「じゃあロースにしよう。肉、たくさん食べたいなあ」 「じゃあ400グラム」 俺が夕食の材料を選び終わると、俺と白狼は酒コーナーに移動した。 「兎洞、何が飲みたい?」 「いつも発泡酒だけど」 「ビールにする?」  「いいの?」  「もちろん」 「ありがとう」 俺は心から楽しいと感じた。 白狼との何気ない時間が、とても幸せに思える。 職場以外で白狼とこんな風に過ごせるなんて、まるで夢のようだ。 *** 俺の家に帰ると、白狼は部屋の半分を埋める植木を見て驚いた。  「すごいな」 「ああ、植木? 育てるの好きでさ。これ、百均で買ったヤツ。こんな小さかったのに、大きくなってビックリ」 「育てるコツとかあるの?」 「声が聞こえるんだー。なんて、ハハハ」 (本当に、植物の気持ちがわかるのかもな。あの時も、そうだったもんな) あの時? (兎洞に可愛がられて、お前たちは幸せだな) 白狼に褒められて気恥ずかしくなる。 俺は夕食の用意に取り掛かる。 白狼のリクエストである豚の生姜焼きを作る。 白狼は俺のそばを離れない。 「適当にしてて」 「うん」 見てるつもりか。 料理に興味があるのかな?  白狼に見られながら料理って……緊張する。 (エプロンするんだ。可愛い) 「こ、これ千切り用のピーラー」 恥ずかしさを紛らわすように、俺はピーラーを実演してみせた。 「考えた人、すごいな」 「な。買って良かったキッチングッズのひとつ」 キャベツの千切りを終え、豚肉の準備に取り掛かる。 (手、結構小さいんだな。可愛い) また、可愛いって、と心の中でツッコミを入れた。 俺は豚肉に薄力粉をまぶす手が止まる。 止まった手を動かし、手を洗い、タレの材料を混ぜているとまた幻聴が聞こえてくる。 (つむじ……ここにも……ここにも。三個ある。意外。可愛い) 白狼って可愛いが口癖なのか?  いや、俺が白狼に可愛いと思われたいってことか。 なんか、恥ずかしい。 やばい顔熱い。 赤くなった顔白狼に見られた? なんか、笑われた気がする。 でも、恥ずかしすぎて振り向けない。 (うなじきれいだな……いい匂いがする……噛みたい)  「!?」 俺はうなじを手で押さえ、白狼を振り返る。 顔が熱い。鼓動が早い。 「兎洞? 顔赤いよ? どうしたの」 白狼は目を細め、顔を近づけてきたから、後ずさる。 「あ、あと焼くだけだから」 俺はなんとか、キッチンから白狼を追い出した。 なんか、俺の反応見て楽しんでないか? いや、それさえも俺の願望だったりして。 俺はフライパンに油をしいて、豚肉を焼く。 白狼が笑いを堪えている気配がする。 「いい匂い」 俺は幻聴に耐えながら、完成させた料理をローテーブルに運ぶ。 白狼は豚肉を一口。 「うまい!」 「よかった。ちゃんとキャベツも食べろよ」 「全部食べるよ。せっかく兎洞が作ってくれたんだから」 「うん。でも無理するなよ」 白狼は微笑んだ。俺はきゅんとする。 ああ、幸せだな。 こんな幸せな時間が続くといいなあ。

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