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第7話
白狼に振られた俺は、会社でミスばかりだった。
弁当を家に忘れるわ、提出書類の締め切り日を間違えるわ、嫌味な同僚に捕まるわ、営業同行の約束を忘れるわ、挙げ句の果てには機嫌が悪い上司の逆鱗に触れてしまい、散々な1週間を過ごした。
「あー……」
デスクに頭を打ちつける。
落ち込んでいた。
あの日以来、白狼には会っていない。
会うのが怖かった。
会って拒絶されるのが何よりも怖かった。
白狼は優しいから表面上は今まで通りに接してくれるかもしれない。
でも、それが辛い。
恋なんてするもんじゃない。
会社を辞めようかな……そんな考えまで浮かんでくる。
俺は年休消化のため、長期休暇を取った。
***
俺は姉の雅に泣きついた。
いつもの居酒屋でやけ酒に付き合ってもらう。
「完全に振られました。今日は飲むぞ」
「付き合えないよ。あんた酒強いから」
「冷たーい」
机に突っ伏して、心の中の重さを少しでも軽くしようとした。
「眠れないんだ」
夜になると、「ごめん」と白狼の声が頭に響いてくる。
悲しくて、辛くて、涙が止まらない。
きっと、あいつとの最後の言葉だから、頭を離れないんだ。
幻聴がつらい。
「睡眠薬使う?」
俺は首を横にふった。
でも、本当は白狼の声を聞きたいんだ。
幻聴でもいい。
白狼を感じたい。
まだ、好きなんだな。俺、白狼のこと。
「忘れなきゃな」
「忘れたいの?」
「そういうわけじゃ……でもさー」
「恋は一人でもできるのよ」
「片思いってこと?」
「せっかく恋したんだから、楽しめばいいじゃない」
「楽しめばって、俺、失恋したんだって」
「成就しないと楽しめないの? 旅行当日より、計画立ててるときのほうが楽しかったりしない?」
それはなんとなくわかる。
「好きなら好きでいいじゃない。無理に忘れようとしなくたって。そうねー、新たな恋が見つかるまで続けてもいいんじゃない?」
「そっか……うん」
白狼の声が聞きたい。
白狼に会いたい。
白狼が好き。
俺まだお前のこと好きでいてもいいか……?
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