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最初で最後(8)
眩しさを感じて重い瞼をゆっくりと持ち上げる。
窓から陽が射し込んでいて、朝が来たのだとぼんやりとした頭で悟った。視界いっぱいに広がる大きすぎる窓は、いつもの朝の景色とは大きく異なる。そして、その手前に、人影があった。
隣のベッドに腰かけ、こちらを見ている人影が三間 だと認識し、一気に頭が覚醒する。
旅行中だったことを思い出し、慌てて跳ね起きた。
「お、おはようございます。すみません。僕、寝坊して……」
――なななななんで三間が僕の寝顔を見てたんだ?
っていうか、ヤバい。目ヤニとかよだれの痕とかついてたらどうしよう。
状況が飲み込めず、最初に思ったのがそれだった。
三間の視線から逃れるように、それとなく顔を背ける。
「まだ7時前だ。眠いなら寝ていてもいいぞ」
言葉とは裏腹に、三間はベッドから腰を上げて身支度を整え始める。
大きな窓のせいか外が十分明るかったから、それほど早い時間だとは思わなかった。
朝食ぎりぎりまで寝ていたらいいのに、何でそんなに早起きしたんだろ。朝食は7時半からで、まだ30分以上ある。
「いえ。僕もそろそろ起きようと思っていたので。とりあえず顔を洗ってきます」
「朝食の前に、浜に降りてみないか?」
ベッドから降り洗面所へと向かっていた僕は、背後から声をかけられ、足を止めて振り返った。
「はま?」
「ホテルの下が浜辺になっていて、歩いて降りられるらしい。行くなら、着替えたほうがいい」
「あ、はい。行きます」
もしかしたら、浜辺に誘うために、僕が起きるのを待っていたのだろうか。
顔を洗いながら、遅れてそんな考えが浮かんできた。
もしそうなら、寝起きの顔を見られたことも、まぁいいかと思える。
真冬に浜辺を歩きたがるなんてかなり意外だったけど、昨日は軽い筋トレくらいしか運動していないから、単に体を動かしたかっただけかもしれない。
三間はスーツ以外に私服も持ってきていて、顔を洗って戻ってくると着替えて待っていた。黒のパンツに黒のニット。普段も、泥棒にでも入るのか? と言いたくなるほど、黒ばかりを着ている。もちろん、コートも真っ黒だ。変装グッズはサングラスではなく、伊達眼鏡だった。
僕も急いで浴衣から外出着に着替えて眼鏡をかけ、連れ立って部屋を出た。
1階のラウンジの外に、テラスがある。そこから階段が降りていて、降りていくと海に面した砂浜に出られた。夏ならば、海水浴もできるのだろう。
いくら鹿児島でも、真冬の早朝の浜辺は海風が冷たい。でも、寒くても歩いてみたくなるような、綺麗な砂浜だった。
海の向こうに見えるのは、方角的にもう一つの半島の大隅半島だろう。
旅行客らしい先客がいて、一組は男女のカップルで、もう一組は家族連れだった。小さな子供を父親が抱っこしている。隣にいる母親らしき女性が遠くの海を指さして、子供に何か語りかけていた。
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