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海外ロケとスキャンダル(7)

 エレベーターの壁に背中を押し付けられる。  閉じるボタンを押す間も、欲情に濡れた眼差しが僕から逸らされることはなかった。  ドアが閉じきるのも待たずに、すくいあげるように唇を奪われる。  一度目のときと同じで、最初から激しかった。  あわいを割って差し込まれた舌は、まるで何かの生き物のように、口内を蠢く。荒々しく舌を絡め、舌先を吸われる。  今回の人生で言えば、これが初めてのキスだ。でも、熱く奔放な舌も、彼の味も、体が覚えているような感覚がすることを、溶けそうな頭で不思議に思った。  指先を髪に差し込まれ、搔き乱される。余裕のないキスと手つきが彼の興奮の証のようで、嬉しかった。  少しの隙間も埋めたくて、僕も、彼の背中に両腕を回す。  前が、硬くなるのがわかる。  触りたい。触ってほしい。  言えないかわりに、昂りを彼のものに押し付け、腰を上下させる。 「部屋まで我慢しろ」  唇がほとんど接したまま、吐息で囁かれた。  エレベーターの音が到着を告げる。腰が抜けたみたいに自力では立っていられなくなっていて、三間に支えられて廊下を歩き、カードキーをかざして部屋に入った。  照明のスイッチを押すために、三間の注意が一瞬だけ壁に向かう。それすら待てずに、彼の首に腕を絡め、自分から口付けをする。  シングルの部屋は狭く、入り口から数歩でベッドまで辿り着く。その距離を、腰から抱えられ、キスをしながら移動し、ベッドへ下ろされた。  自身の股間を見やると、カーキ色のカーゴパンツの前が不自然に盛り上がり、濡れて布の色が変わっている。カーっと体を熱くしたものが、羞恥なのか興奮なのかはわからない。  三間がTシャツを脱ぎ、一度目の人生よりも少し痩せた、それでも十分に筋肉の盛り上がった、引き締まった上半身が現れる。下はウエストのボタンを外し、ファスナーを下ろして前をくつろげた。  多少は抑制剤の影響が残っているのだろう。  欲情に突き動かされる一方で、言わなければいけないことがあることも、思い出した。 「あの……、一応、薬も…………あります……」  一度目の人生と違って、今は追加の抑制剤がすぐ傍にある。  それを言わないのは卑怯に思えて。  ベッドに乗り上げ、僕の下肢を跨いだ三間が、僕を見下ろし動きを止める。  抑制剤を使いたいのか?  抑制剤を使ってほしいのか?  交錯した視線でそんな腹の探り合いをしたのは、ほんの一瞬だった。  1階にいたときと同じで。瞳の中の情欲を前に、思考が本能に押しつぶされてしまう。  三間が僕に覆いかぶさるように体を倒す。僕も、彼の背中に腕を伸ばした。  感触を確かめるように唇を食まれ、舌先でなぞられる。じゃれるようなキスは、すぐにまた、濃く、激しいものになる。僕も夢中で応え、唾液を啜った。  角度を変え、浅く深くキスをしながら、シャツの下に手が忍び込んでくる。  触られた場所全てが気持ちいい。特に乳首は、気持ちよさが性的な快感へと直結する。  両方の乳首を、指で捏ねられ、爪先で弾かれ、キュッと抓まれて。 「……ぁ、ふ……ンっ…………」  唇の隙間からくぐもった喘ぎが洩れた。  ぞくぞくするような快感が下へと伝わり、股間のものを痛いほどに硬くする。  前から出たものか後ろから漏れたものかはわからないけど。既に下着のお尻の部分はぐっしょり濡れていて、濡れた布が肌に張り付く不快な感触がする。  僕は三間の背中に回していた手を、彼の股間へとやった。  早くこれが欲しい。そんな意思表示で、ファスナーの開かれたデニムの内側に手を差し込み、下着越しに膨らみを撫でる。  唇を離した三間が、ふっ、と吐息で笑う。 「今回は(・・・)随分と積極的だな」  その言葉に違和感を覚えたけど。何がおかしいのかはわからなかった。

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