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真相(14)

 携帯電話の位置情報を照会することで、専務が撮影所にいることはわかったが、僕も同じ場所に呼び出されるとは限らない。  逮捕令状が降りるまでは、専務に任意同行を求めても拒否される可能性があるし、撮影所内に捜査員を派遣して大々的に捜索した場合、捜査していることに気づかれて、僕の身を危険に晒す可能性もある。  そう判断して、警察も迂闊には動けなかったらしい。僕の居場所がわかるまでは、撮影所近くで待機、という指示になっていた。  その日、三間の自宅には、マネージャーから、「柿谷君が会って相談したいことがあるそうだ。時間と場所は後で連絡が来る」という事前連絡が入っていたらしい。  三間の携帯電話は故障中のため、自宅の電話でしか連絡を取れない。  濡れ衣を着せるために三間を事件現場に呼び出すことが予想できたが、近くであれば、僕を殺害した後で連絡が来る可能性もあった。 「それで、専務が撮影所にいるとわかった時点で、呼び出し場所が撮影所以外だったときのことを考えて、電話番のために諒真にうちに来てもらっていたんだ。あいつなら、俺の声真似もできるからな」  たまに前室で撮影待ちの間に稲垣がやっていた、三間の物真似を思い出した。  確かに声もよく似ているから、三間の声を聞き慣れた人でも、電話なら騙されるかもしれない。 「専務がいるってことは、夏希も撮影所に呼び出されているかもしれない。そう考えて、俺は諒真の携帯を借りて、撮影所でお前を探すことにした。最初、非常階段を中心に探していたら、お前らしき人間が屋外セットのほうに歩いて行くのが見えたんだ。それで、白木さんに連絡を入れて、急いで後を追いかけた」 「三間君の家には、柿谷君の居場所がわかったと、僕から連絡したんだ。撮影所内の複雑な構造を捜査員が把握する時間はなかったからね。万が一、専務や犯人を取り逃がしたときに、詳しい人にいてもらったほうがいいから、稲垣君にも現場に来てもらった。稲垣君が三間君の家で待っている間、マネージャーからの連絡はなかったから、おそらく犯人は、柿谷君を殺した後で、三間君を呼び出すつもりだったんじゃないかな。君の携帯で三間君のマネージャーに連絡して、マネージャーから三間君の自宅に連絡させれば、電話の履歴だけ見れば、君が三間君のマネージャーを通じて三間君を呼び出したように見せられるだろう? 三間君がたまたま柿谷君を見つけていなかったら、本当に危なかったよ」  三間のマンションから撮影所までは、歩いて15分くらいだ。  殺害を終えてから呼び出しても、死後の経過時間との誤差はほとんどない。  きっと、三間に濡れ衣を着せるために、三間のマンションから程近い撮影所が殺害現場として選ばれたのだろう。白木さんが言うように、三間から見つけてもらえたのは、不幸中の幸いと言えた。  その話が本当なら、新たに怪しいと思える人物が出てくる。 「もしかして、三間さんのマネージャーさんもグルだったんですか?」  僕を殺した後で三間のマネージャーに連絡するつもりだったのなら、普通は声色で別の人間だと気づかれる。  三間が頷いた気配がする。 「テレビ局で俺が突き落とされたときも、細かいスケジュールを知っていなければ、あの日あの場所を狙うことはできなかった。島袋はお前の殺害計画までは聞かされていなかったかもしれないが、おそらくあいつらに金で雇われている。空き時間にはいつも新聞やスマホで競馬の情報を見ていたからな。ギャンブルで借金でも作っているんじゃないか。普段から俺のスケジュールを教えたり、スキャンダルネタを探るよう言われていたんだろうな。スキャンダル記事の写真を撮ったり、旅行のことを突き止めたのも、もしかしたらあの男かもしれない」  島袋というのは、三間のマネージャーの名前だ。 「だとしたら、諒真さんは……、三間さんの味方ってことでいいんですよね?」  あのスキャンダル記事の原稿を見せてもらったとき、マレーシアでのロケ中のヒート事故や僕がオメガだったことを週刊誌に洩らしたのは、稲垣しかいないと思った。でも、そうでなければいいと信じたい気持ちもあった。    言葉を選ぶような間を置き、やがて声が発せられる。 「諒真は……、以前から、俺のスキャンダルネタや、俺と佑美が本当に付き合っているかどうかを探ってほしいと、月城専務に言われていたそうだ。情報と引き換えに、月城プロダクションに移籍して、看板タレントとして売り出していくことを約束されていたらしい。おそらくそれだけが理由ではないと思うが……、マレーシアでのヒート事故のことや、お前がオメガだったことを専務に伝えたのは、諒真だ。あの日の夜に、専務にメールで伝えたそうだ」  僕は秘かに息を呑んだ。  小さく嘆息し、どこか自責の滲む声で、三間は話を続ける。 「……だが、一晩経って、スタッフのお前に対する態度を見て、専務に連絡したことを後悔したらしい。日本に帰ってすぐに社長にそのことを伝えて、俺にも謝罪してきた。週刊誌に情報を持ち込んだのは、諒真じゃない。あいつが送ったメールを元に、専務が出版社に働きかけて記事を書かせたんだろう。諒真は落ち着いたら、お前にも謝罪したいと言っていた」  その瞬間、張りっぱなしだった肩の力が、少しだけ抜けた気がする。 「僕への謝罪は必要ないですよ。……って、今度会ったときにでも伝えてください。騙していたのはこっちですから」  専務の仕打ちは、正直、もう誰とも関わり合いたくないと思うほど(こた)えたから。週刊誌に情報を漏らしたのが稲垣じゃなかったことに、救われた気持ちになった。

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