110 / 127
真相(17)
豪奢なシャンデリアが天井で煌めき、それより更に眩いフラッシュの光が壇上の真っ白な布で覆われたテーブルを取り囲む。
これほどのカメラに取り囲まれても、臆することなく笑顔を向ける二人は、やはり本物の芸能人だなぁとファンの一人のような遠い気持ちで思った。
壇上からは離れた、部屋の隅に立てられたパーテーションに身を潜めて成り行きをうかがっているのだから、やっていることはファンとたいして変わらない気がする。
そこにいるのは、僕と片桐社長と佑美さんのマネージャーの3人。若い殿と姫を見守る側仕えと乳母に、下僕が加わった構図だ。
「僕が至らないばかりに……、柿谷君まで危険な目に遭わせてしまって……、申し訳ないことをした」
二人が壇上の席につくのを待つ間、控室での佑美さんと似たような顔をし、片桐社長が謝罪の言葉を口にした。
彼女のときも思ったけど。なぜ、二人が僕に謝るのだろう。
答えに窮しているうちに、マイクのスイッチが入った音がし、声が聞こえてくる。
「本日はお忙しい中お集まりいただき、ありがとうございます」
先にマイクを取って喋りはじめたのは、佑美さんだった。一斉にフラッシュがたかれ、離れた場所にいる僕も、眩さに耐えきれず顔を背ける。
普通、こういうときは、男性が先に話を始めるのではないだろうか。佑美さんが年上だから主導権を握っているのか?
僕の戸惑いは記者たちも同じだったようで、フラッシュの嵐が止むと、記者たちは三間と佑美さんを見比べ、どこか落ち着かない様子で彼女の言葉を待っていた。
「まずは、私のほうからお話させていただきます。本日、記者の皆さまにお集まりいただいた理由の一つとして、私、中島佑美 が先月3月31日に、かねてよりお付き合いしていた一般の方と入籍したことをご報告させていただきます」
――その瞬間、会場全体が揺れるようにどよめいた。
最初、理由がわからず、僕はそのどよめきに驚いたのだが。許可も得ずに矢継ぎ早に飛び出した記者たちの質問で、理由を察した。
「一般人ですか?」
「だったら、何故、三間さんと合同で記者会見を開かれたのですか?」
「三間さんとは破局したということですか?」
そうだ。一般人ということは、相手は三間ではないということだ。
それとも、三間が芸能界を引退するということか?
頭が真っ白になって、考えがまとまらない。
三間が芸能界を引退するかもしれない――。それが本当なら、もしかしたら、僕にとって、彼の結婚よりも衝撃的なニュースだった。
「一応、FAXでは濁したつもりだったけど、やっぱり誰も気づいていなかったようですね」
片桐社長が佑美さんのマネージャーと、お互い苦笑いで顔を見合わせる。
「どういうことですか?」
FAXが回されていたことさえ知らなかった僕は、当然、そこに書かれていた内容も知らない。
「芸能人同士が結婚発表の記者会見をする場合、事前のFAXでは、『○○と××は結婚する運びとなりました』と記載するのが普通だろ? 今回は、『中島佑美と三間晴仁より、皆様にお伝えしたいことがございますので、記者会見を開かせていただきます』といった文面にしてある。最初から一般人との結婚を知らせたら、マスコミが事前に嗅ぎまわって、あの記事のことが明るみになるかもしれないからね。だから、FAXでは濁したんだ。できれば記事が出るより先に、自分たちの口からファンに真実を語りたいというのが、あの二人の希望だったから……」
「あの……だったら、三間さんが芸能会を引退するわけじゃないんですね?」
「え? 晴? やめないよ?」
何でそんな突拍子もないことを訊くんだい? とでも言いたげな、キョトンとした顔を返されたとき。記者の質問を一蹴し、佑美さんが説明を続ける声が耳に入った。
「これまで、度重なる熱愛報道を私達が否定しなかったことから、ファンの方々に私と三間が付き合っているという誤解を与え、カップルとして応援してくださった方もたくさんおられたことは、大変申し訳なく思っております。私と三間は、これまで苦楽を共にしてきた俳優仲間ではありましたが、男女の付き合いをしたことは一度もございません。私が長年お付き合いしてきて、そしてこのたび入籍したお相手の方は、私が以前所属していた事務所、アプローズの社長である、片桐忠之 です」
「え――。えええ!?」
僕は思わず、記者たちと一緒になって、大声を上げてしまった。
ともだちにシェアしよう!