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真相(18)

「これまで交際の報道を否定されなかったのは何故でしょう?」 「三間さんが中島さんのマンションをたびたび訪問していたのは、友人同士の付き合いだったということですか?」 「中島さんが事務所から独立されたのは、社長とお付き合いを始めたからですか?」 「三間さんと合同の会見にされたのは、三間さんからも何か発表があるからですか?」  質問が飛び交い、場が騒然とし始める。 「あーーー」  マイクの音量を確かめるような大きな声が響き、喧噪はがピタリと止んで急に静かになった。その声に苛立ちは感じないが、空気は引き締まった気がする。もしかしたら、アルファの(オーラ)によるものかもしれない。  ゴホンとわざとらしく咳払いし、今度は三間が発言する。 「交際の報道を否定せず、世間の皆様を誤解させてしまったことについては、僕からも謝罪します。申し訳ありませんでした。否定しなかった理由は……、中島さんはアプローズの所属タレントという立場上、社長と交際していることを公にするわけにはいきませんでした。そのせいで多方面からアプローチを受け、ときにアルファの能力を用いられることもあったため、僕と付き合っていることを匂わせることで牽制にならないかと考えました。否定しなくてもいいんじゃないかと最初に言い出したのは僕です」 「中島さんが独立された後も、社長との交際を公にされなかったのは何故ですか? 独立されたのは1年以上前なので、結婚のための独立にしては入籍が遅すぎますよね?」  記者の質問に、三間と佑美さんが一瞬顔を見合わせる。 「それは私から説明します。このことは……、公にするか、最後まで悩みましたが……、私と同じ後悔をする人が一人でも減ってほしいので、お話することにしました」  佑美さんの声に、今日初めて、緊張の色が感じられた。 「私は発情期(ヒート)の周期が人より不安定で、その所為で危ない目に遭ったことも何度かあったため、高校生の頃から発情抑制剤を多めに使用してきました。その副作用で、妊娠しにくい体になっていると診断されたのが、アプローズから独立する少し前です」  僕は思わず、隣で会見を見守っていた社長に、視線をやった。  一心に彼女を見つめるその眼差しには、深い苦悩が滲んでいる。  佑美さんのほうは、迷いのない、きっぱりとした表情をしていた。その横顔には、いつも以上に、凛とした美しさがある。  続いて、彼女は、定期的に発情期(ヒート)は来るものの、抑制剤の影響で卵巣の機能が極端に低下していることを明かした。産婦人科の医師によると、今の状態では、排卵誘発剤や体外受精といった、不妊治療による妊娠も期待できないと言われたらしい。唯一の望みは、抑制剤を完全にやめてみることだが、ただ、やめたからといって妊娠の保証ができるわけではないそうだ。 「ちょうどその頃、片桐社長にプロポーズされていたのですが……。片桐は子供好きな人でしたから……。私は本当のことを言えずに、プロポーズを断って、彼と別れました。アプローズから個人事務所に移ったのは、彼と別れたからです。ただ、それでもまだ、彼が独り身でいる間は、彼と幸せになる未来を諦めきれなくて……。先日クランクアップした映画を最後に、仕事の予定をセーブすることにしていました。仕事を密に入れている間は、抑制剤を手離せませんから……。抑制剤を完全にやめてみて、妊娠の望みが出てきて、その時にまだ彼が一人でいるようなら、今度は私のほうからプロポーズしようと決めていたんです。でも、その前に、晴……、三間さんに、『お前らいい加減にしろ』って二人して怒られちゃって……」  佑美さんがくすっ、と笑う。 「片桐に、私と別れてからもずっと一人でいる理由を訊いたら……、君以外の人と付き合う気はないと言われて、不妊のことを話しても彼の気持ちは変わらなかったので……、結婚を決めました」  最初の喧騒が嘘のように、会場はしんと静まり返り、続いて、拍手が沸き起こった。僕も自然と手を叩いていた。  記者会見で拍手ってあまりないんじゃないかと思う。 「別れ話をすんなり受け入れたのは、僕がベータで、彼女にふさわしくないと思っていた所為でもあるんだ」  隣から聞こえてきた自嘲の滲む声に、叩いていた手を止め、顔を横に向ける。 「先日、君達が海外ロケに行く少し前に、佑美がパーティー会場で急に発情期(ヒート)が来たことがあってね。月城専務も同じ場所にいたから、おそらく気づかないうちに薬を盛られていたんだろう。白木さんから、専務が同じ会場にいると連絡を受けて、晴が心配して様子を見に行ってくれたんだ。佑美が、専務から、彼女を介抱するふりでホテルの部屋に連れて行かれようとしていて、ぎりぎりのところで阻止してくれた。緊急用の抑制剤を使って、彼女を送って行く途中、僕に連絡をくれたんだよ。このまま彼女を一人にしておいていいのかって。『嫌いで別れたんなら、あんたにもらったチョーカーをいつまでもつけてるわけないだろ?』って言われて、僕はようやく、彼女の本心を察することができた。それで、彼女にもう一度プロポーズしたんだ」 「それってもしかして……、佑美さんが撮影を休んだ日のことですか?」  三間が佑美さんの発情期(ヒート)フェロモンを纏わせて撮影所に現れ、誰もが前夜に二人の間に何があったか、察した日のことだ。 「あぁ、そうだ。あの日、晴は彼女を家まで送っただけで、後は僕が引き受けた。晴が矢面に立って佑美と付き合っているふりをしていたのは、佑美や僕やうちの会社を守るためだし、あの一件以来、君と距離を置いていたのは、月城が手段を選ばなくなってきて、君が巻き込まれるのを恐れたからなんだ」 「……そう……、だったん……ですか……」  社長の穏やかな言葉のお陰で、混乱が引いていき、徐々に理解が及び始める。  そうだとしたら……。三間には今、付き合っている相手はいないのだろうか……。  彼が僕をここに連れてきたのは、僕に彼を諦めさせるためではないということだろうか……。

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