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第15話『強盗』
「今すぐ、立て!こっちの言う通りにしろ!さもなくば、本当に撃つ!」
もはや何度目か分からない脅し文句を吐き、男は引き金に指を掛ける。
でも、撃つ気がないのは丸分かりだった。
だって、指に全くと言っていいほど力が入ってなかったから。
それに、撃つ気があるならとっくに撃っているだろう。
こちらは再三に渡る警告を無視しているので。
未だに人間へ危害を加えていないことを思い返し、俺は一つ息を吐く。
やっぱ、この強盗────素人だな。色々と杜撰すぎる。
ただ、拳銃は本物なんだよな。
先程破壊された真白のグラスや天井に空いた穴を見やり、俺は『どこで入手したんだか』と考える。
────と、ここで真白が席を立った。
その瞬間、男はホッとしたような素振りを見せる。
本気で人間を撃つような事態にならなくて、安堵しているのかもしれない。
「やっと言うことを聞く気になったか!それじゃあ、両手を上げて床に……」
「────さっきから、凄くうるさいんだけど〜。若くんとのデート、邪魔しないでもらえる〜?」
そう言うが早いか、真白は相手の拳銃を……というか、手を掴んだ。
と同時に、力いっぱい握り締める。
すると、骨の折れるような音が鳴り響き、
「あ”ああああぁぁぁぁああ!!!」
男は絶叫に近い悲鳴を上げた。
痛みのあまり蹲る彼は、汗なのか涙なのかよく分からない液体を垂れ流す。
「ねぇ、堪え性なさすぎな〜い?そんなんで、よく僕達に立ち向かおうと思えたね〜」
スルリと相手の手から拳銃を引き抜き、真白はやれやれと肩を竦める。
『こんな奴らにデートを邪魔されたなんて』と溜め息を零し、男の眉間に銃口を突きつけた。
「恨むなら、無知で愚かな自分を恨んでね。それじゃ」
一瞬の躊躇いもなく引き金を引き、真白は後ろに倒れた男を一瞥する。
その瞬間、周囲に居た者達は『うわぁ……!』とか『キャー!』とか声を上げた。
強盗の仲間達も恐怖と不安を露わにしており、後退る。
まさか、返り討ちにされるとは思ってもみなかったのだろう。
『しかも、真っ先に倒されたのがリーダー格の男だからな』と思案する中、彼らは互いに顔を見合わせる。
が、誰も妙案など持っておらず……判断を下すことさえしなかった。
その“遅れ”が生死を分けるというのに。
「君達もすぐあの世へ送ってあげるね〜。こいつみたいに、デートを邪魔してくるかもしれないし〜」
『懸念材料は排除するに限る』と主張し、真白は続けざまに二発撃った。
これにより、仲間五名のうち二人死亡。
残るは、あと三人となった。
「あっ、弾切れだ〜」
真白はカチカチと何度も引き金を引き、何も出ない拳銃を見つめる。
『そういえば、威嚇射撃で結構銃弾を消費していたね〜』と呟く彼を前に、俺は懐へ手を入れた。
「俺のやつ、使うか?」
護身用として持ち歩いている拳銃を取り出し、俺はどうしたいか尋ねる。
すると、真白は空になった拳銃を放り投げて
「ううん、大丈夫〜」
代わりに、串を持った。それも、複数。
恐らく、武器のつもりだろう。
一応、傍には愛用の日本刀だってあるのに。
「こいつらには、これで充分だよ〜」
既に戦意喪失しかけている面々を見やり、真白はゆっくりと歩き出す。
その途端、残党の三人は腰を抜かして蹲った。
「ま、待って……!私達は降参するから……!」
「強盗したことは謝るし、罪もしっかり償う!だから……!」
「お願い、助けて!殺さないで……!」
泣きながら命乞いをする三人に、真白はニコニコと笑ってこう言う。
「や〜だ」
こいつらのせいでデートのムードを台無しにされたせいか、真白は引かなかった。
『君達の謝罪とか、贖罪とかどうでもいいし〜』と吐き捨て、指の間に串を挟む。
そして、手前側に居る残党二名へ視線を向けると、勢いよく串を投げた。
銃弾ほどではないものの、かなりのスピードで飛んでいくソレは見事彼らの眼球に命中。
「いぁぁああああああ!!!」
「な、ななななな……!!?」
狙われた残党二名は痛みにのたうち回り、そこら辺の椅子やテーブルをなぎ倒す。
おかげで、店内は滅茶苦茶に。
『これは片付けるの大変そうだな』とぼんやり考えていると、真白が彼らの前で足を止めた。
「も〜、このくらいで大袈裟だね〜」
呆れたように小さく|頭《かぶり》を振り、真白はちょっと身を屈める。
と同時に、串を引き抜いた。
その瞬間、血と卵の白身のような液体が飛び出し、床を汚す。
「ほら、もう楽にしてあげるから大人しくしてて?」
まるで駄々っ子を相手するような態度でそう言い、真白は彼らの首筋に串を突き刺した。
すると、大量に出血する。
どうやら、頸動脈を傷つけてしまったらしい。
『これは多分、即死だな』と思案する中、残党二名は血溜まりの上に倒れた。
と同時に、周囲の者達が何人か気を失う。
一般人にこの光景はショック過ぎたようだ。
「さてと、あと一人だね」
真白は返り血塗れのまま身を起こし、ゆるりと口角を上げる。
「早く終わらせて若くんとデートの続き、しようっと」
奥に居る最後の一人を見やり、真白はゆっくりと歩き出した。
赤い足跡を残しながら。
恐らく、血溜まりをもろに踏んでしまったせいだろう。
『後でまた新しい靴、買ってやらないと』と考える俺を他所に、真白はどんどん距離を詰めて行く。
────と、ここで最後の一人となる強盗がハッと正気を取り戻した。
「く、来るな……!」
裏返った声で警告を促し、彼は拳銃を構える。
が、真白に立ち止まる様子は一切なし。
速度を緩めることすらせず、一直線に向かっていった。
「俺に近づかないでくれ!」
懇願にも似た声色で叫び、最後の強盗は拳銃を発砲する。
多分、自棄を起こしたんだろうが……手も足もガクガクと震えた状態で撃った弾など当たる筈もなく、真白の横を通り過ぎた。
「ひっ……!」
真白に避けられたと勘違いしたのか、それとも人に銃を撃ったという事実が恐ろしかったのか……最後の強盗は顔を青くする。
今にも卒倒しそうになりながら後退り、視線をさまよわせた。
かと思えば、出入り口の存在に気が付き、ようやく『逃亡』という選択肢を思いつく。
─────が、もう遅かった。
「あれ〜?これって、パトカーのサイレンじゃな〜い?」
真白はふと窓の外を見て、『だんだん、こっちに近づいてきているね〜』と分析する。
これでは、もう逃亡も不可能だ。
「誰か、通報したのかな〜?」
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