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第35話『八神組の本拠地《惇 side》』

◇◆◇◆  ────時は流れ、八神組との全面戦争当日。 俺は静や|桐生律子《次男嫁》と共に、あっちの本拠地へ赴いた。 |桐生組《ウチ》と違って洋風な建物を前に、俺はカチャリとサングラスを押し上げる。 手に持ったスマホで、時間を確認しながら。 「────そろそろだな」  作戦開始時刻の二時を示す画面を一瞥し、俺は懐へ手を突っ込んだ。 そして、自前の拳銃に手を掛けると、後ろに居る部下や静へ合図を送る。 と同時に、目の前の門を蹴破った。 「行くぞ!」  八神組の本拠地へ足を踏み入れ、俺は拳銃を取り出す。 その瞬間、建物からゾロゾロと人が現れた。 「何者だ!」 「ここをどこだと思っている!」 「殺されたいのか!」  八神組の人間と思しき彼らは、敵意を露わにした。 『容赦しないぞ!』と脅しながら発砲し、こちらを威圧する。 が、俺達は全く意に介さず撃ち返した。  サプレッサー付きだからか、なんか変な感じだな。 撃った実感が、湧いてこねぇ。  『静かに、迅速に終わらせろ』という彰の厳命で取り付けた装置を見やり、俺は少しゲンナリする。 でも、夢にまで見た八神組との直接対決……それも、本拠地の突撃なので我慢した。 『普通に撃ちたい』なんて言えば、別の襲撃場所を割り振られるだろうから。 それは困る。 今回は同時多発的に、八神組の本拠地・支部・別荘などを攻めることになっているため。  長期戦なら、あちこちの戦場を行き来して色んなバトルを楽しめるんだけどな。  などと思いつつ、俺は目の前の敵を全員射殺する。 『ひぃ……!』と悲鳴を上げて逃げていく奴らにも銃弾をお見舞いし、確実に仕留めた。 彰より、『絶対に取り逃がすな。生け捕りは二の次だ』と言われているから。 「ったく、これじゃあ何発あっても足りないぜ」  拳銃に新たな弾を装填しながら、俺は建物の中へ入る。 ────と、ここで八神組の幹部の一人が姿を現した。 「やってくれたな、桐生組!ここまで派手に暴れて、ただで済むと思うなよ!」  怒りを孕んだ声色で怒鳴り散らし、彼はこちらに拳銃を向ける。 と同時に、俺の後ろから静がひょっこり顔を出した。 「いやいや、先に手を出したのはそっちでしょ?『ただで済むと思うな』は、こっちのセリフ」  茶色がかった瞳に確かな怒りを滲ませ、静はスッと無表情になる。 「────よくも、律子に爆弾なんて仕掛けてくれたね。絶対に許さない」  拳銃を握る手に力を込め、静は俺の横に並んだ。 かと思えば、迷わず拳銃を構える。 とんでもない殺気を放つ彼の前で、八神組の幹部は表情を強ばらせた。 どうやら、静の威圧感に圧倒されてしまったらしい。 「あ、あれは組長の指示で……」 「そう。でも、止めなかったんでしょ?幹部の君なら、何とか出来た筈なのに」  『それくらいの発言力は持っていただろう』と指摘する静に、八神組の幹部は押し黙る。 恐らく、図星だったんだと思う。 「だ、だけど!元はと言えば、その女が……っ!」  静に横腹を撃ち抜かれ、八神組の幹部は蹲った。 が、直ぐさま体勢を立て直し、こちらに発砲しようとする。 でも、それより早く────次男嫁が引き金を引いた。 おかげで、あちらは利き手も負傷し、拳銃を手放す羽目に。 万事休すとは、まさにこのこと。 「ま、待ってくれ……!俺が悪かった!何でもするから、命だけは……!」 「無理。律子の件に関わっているやつは全員殺すって、決めているから」  『彰からもOKもらっているし』と述べ、静は相手の脳天に狙いを定める。 取り付く島もない様子の彼を前に、八神組の幹部は顔を歪めた。 かと思えば、 「い、いいのか!俺を殺して!かなり重要な情報を持っているのに!」  と、自分の価値をアピールする。 『生け捕りにするべきだろう!』と力説する彼を前に、静はスッと目を細めた。 「重要な情報って、例えば?」 「詳細は教えられないが、桐生組の縄張りに常駐させているウチの部下とか、こっちに寝返った連中の名前とかだな!」  『どうだ、欲しくて堪らないだろう!』と言わんばかりに、八神組の幹部は口角を上げる。 交渉成立を確信している彼に対し、静は 「ふ〜ん」  と、興味なさげに相槌を打った。 指先で自身の髪をいじりながら。 「それなら、もう知っているから別にいいよ」 「えっ?」 「今頃、|桐生組《ウチ》の縄張りの警備として残った父上が排除しているんじゃないかな?」 「はっ……!?」  八神組の幹部は面食らったように仰け反り、目を白黒させた。 動揺のあまり固まる彼を前に、静は引き金へ指を掛ける。 「だから、君を生かす価値はない────さようなら」  そう言うが早いか、静は相手の脳天を撃ち抜いた。 鈍い音を立てて倒れる八神組の幹部を一瞥し、こちらに向き直る。 「先を急ごう」  という言葉を合図に、俺達は移動を再開。 一先ず、八神組の組長の書斎へと急いだ。 「そこの角を右です」  案内役を請け負う次男嫁は、後ろから指示を出す。 『あともう少しですよ』と述べる彼女に、俺と静はコクリと頷いた。 と同時に、目の前の角を右へ曲がる。 「あの角部屋が、父の書斎です」  次男嫁は奥にある観音開きの扉を指さし、目的地がもう目前であることを示した。  ついに八神組の組長とご対面か。どんな|表情《かお》をするのか、楽しみだぜ。  カチャリとサングラスを押し上げ、俺は歩調を早める。 どうにも、気が急いでしまって。 何とも言えない高揚感と期待感に包まれつつ、俺は目的地の前で足を止めた。 「さあ、行くぞ」  念のため次男夫婦に声を掛けてから、俺は観音開きの扉を蹴破る。 音を立てて床に転がる二枚の板を一瞥し、中へ押し入った。 「八神哲彦、お前の命運もここまでだ!」  『観念しろ!』と警告し、俺は薄暗い室内を見回す。 が、肝心の人物はおろか人っ子一人見当たらなかった。  ここには、居ないのか?それとも、隠れているだけ?  デスクや本棚など障害物の多い空間を前に、俺は視線をさまよわせる。 ────と、ここで次男嫁が部屋の明かりを付けた。 「お父様、大人しく出てきてください。もう逃げ場はありません」  『無駄な悪足掻きは、おやめください』と言い、次男嫁は慎重に歩を進めた。 静もそれに続き、神経を研ぎ澄ます。 どこかピリピリとした空気が流れる中、俺達は手分けして部屋の中を探した。 でも、目当ての人物の顔を拝めることはなかった。 「なあ、ここって隠し通路とかないんだよな?」 「ええ、その筈です」  『少なくとも、私は知りません』と語り、次男嫁はそっと眉尻を下げる。 八神哲彦を探す上で、|書斎《ここ》に当たりをつけたのは自分のため責任を感じているのだろう。 『まさか、他の部屋に?』と狼狽える彼女を前に、静はデスクの上にあるパソコンをいじった。 かと思えば、溜め息を零す。 「恐らく、組長は────ここに居ない」 「「はっ?(えっ?)」」  反射的に声を上げる俺と‪次男嫁は、パチパチと瞬きを繰り返す。 何故そう言い切れるのか分からず困惑する俺達を前に、静はトントンッとパソコンの画面を指で叩いた。 「ここ三日間ほど、パソコンを動かした形跡がないんだ」  未読のメールが溜まっていることを指摘し、静は苦笑を漏らす。 「多分、僕達が襲撃を仕掛ける前に雲隠れしちゃったんじゃないかな?」 「こっちの動きを知って、逃げたのか……チッ!」  眉間に皺を寄せて憤り、俺は『迎え撃つくらいの心構えを持てよ!』と怒鳴る。 と同時に、少しばかり焦りを覚えた。 「そうなると、短期決戦は相当難しくなるぞ!まず、八神哲彦を見つけるところから始めねぇーといけないからな……!」  『この状況、かなり不味いな……!』と危機感を抱き、俺は目の前のソファを蹴り飛ばす。 苛立たしげに頭を搔く俺の前で、静はゆっくりと顔を上げた。 かと思えば、ニッコリと微笑む。 「いや、大丈夫だよ────きっと、今頃彰達が八神哲彦を処分している筈だから」  何食わぬ顔でそう答える静に、俺と次男嫁はハッと息を呑んだ。 敢えて、別行動を取っている末弟と早瀬を脳裏に思い浮かべながら。 「……なるほどな。あいつらは八神哲彦の逃亡を知った上で、こんな采配を……」 「何故、本拠地の制圧を担当しなかったのか甚だ疑問でしたが……ようやく理解出来ました」  苦笑いして|頭《かぶり》を振る俺と次男嫁に対し、静は小さく肩を竦める。 「まあ、もしここに組長が居るなら僕達は確実に別の持ち場を割り振られていただろうからね」  『組長に会うのは、端から無理な話だったんだ』と主張し、静はパソコンの電源を落とした。 と同時に、廊下の方へ足を向ける。 「それじゃあ、残りの敵を片付けようか」

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