39 / 41
第39話『両思い』
「……何でこんなに遅かったの?」
こちらには一瞥もくれないまま、真白はどこか咎めるような口調で問うた。
かと思えば、グッと強く手を握り締める。
「もしかして、君|も《・》────僕のこと、拒絶するの?最初は受け入れたくせに……?あれだけ、好きだって……愛しているって、言ったのに?」
今にも泣きそうな声でそう言い、真白はギシッと奥歯を噛み締めた。
と同時に、顔を上げる。
「嘘つき……嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき!!!」
怒りや悲しみといった感情を前面に出し、真白はこちらへ向かってきた。
明らかにヤバいと分かる状態の彼を前に、俺は逃げも隠れもせず成すがままとなる。
真白から与えられるものは、たとえ痛みでも嬉しいため。
まあ、誤解は解いておきたいが。
「真白、俺はお前を拒絶なんてしていない」
床へ押し倒されながらも弁解を口にし、俺は馬乗りとなった真白を見上げた。
すると、彼は険しい顔つきで首を横に振る。
「嘘だ!じゃあ、どうして今日一緒に居てくれなかったの!?」
『僕から離れる準備でもしていたんじゃないか!』と勘繰り、真白は俺の首に手を掛けた。
震える指先に力を込める彼の前で、俺は
「それは────お前の|誕生日《・・・》プレゼントを買いに行っていたからだ」
と、答える。
そして、手に持った箱を差し出すと、真白は固まった。
ただ呆然とプレゼントを眺め、指先から力を抜いていく。
「たん、じょ……び……」
壁に貼られたカレンダーを見やり、真白はようやく事態を呑み込んだ。
どこか暗い表情を浮かべながら。
「……そういえば、今日だったね」
俺の手にあるプレゼントをじっと見つめ、真白はおもむろに手を伸ばす。
綺麗にラッピングされた箱を受け取り、リボンに手を掛けた。
かと思えば、早速中身を確認する。
「……何これ?花のついた棒?」
箱から取り出したプレゼントをまじまじと見つめ、真白はコテリと首を傾げた。
年齢の割にあまり物を知らない彼に、俺は内心苦笑を漏らす。
「簪だ。お前の長い髪を束ねるのに使えるんじゃないか、と思ってな」
腰まである白髪を一房掬い上げ、俺はそこにキスを落とした。
『せっかく綺麗なんだから、飾らないと損だろ』と思いつつ、視線を上げる。
「ちなみにその花はスイレンだ」
「スイレン……」
「ああ。気になるなら、今度実物も見せてやる」
あくまで作り物に過ぎないソレを一瞥し、俺は床に肘をついて起き上がる。
その際、もう一方の手で真白の腰を抱き寄せた。
体を支えないと、後ろに倒れてしまうため。
馬乗りという体勢ゆえに。
『まあ、真白なら自力で何とか出来そうだが』と思案する中、俺は胡座をかく。
すると、真白がずり落ちてきて俺の膝へ座った。
「その簪、ちょっと貸せ」
真白の長い髪に触れつつそう言えば、彼は案外素直に応じる。
スッと差し出された簪を前に、俺は真白の頭を抱き込んだ。
と同時に、髪を結い上げる。
もちろん、固定のために使ったのはプレゼントした簪だ。
「思った通り、よく似合っているな」
真白の両頬を包み込む形で持ち上げ、俺はじっと彼の顔を見つめる。
『これを選んで正解だった』と心の底から思い、僅かに頬を緩めた。
「改めて誕生日おめでとう、真白」
何の気なしに……ごく当たり前のように祝福の言葉を投げ掛けると、彼は大きく目を見開く。
その際────瞼の下に隠された赤い瞳が、一瞬だけ見えた。
「……僕の誕生を祝ってくれる人なんて、まだ居たんだ」
心底驚いた様子でそう呟き、真白は簪へそっと触れる。
と同時に、ポロポロと大粒の涙を流した。
「あ、りがとう……本当に。ありがとう」
僅かに声を震わせながらも礼を言い、真白はこちらへ抱きついてくる。
離れないで、とでも言うように。
「あと、首を絞めてごめんなさい」
「いや、謝らなくていい。不安にさせた俺が、悪いんだ」
『サプライズなんて、慣れないことするもんじゃないな』と肩を竦め、俺は真白の頭を撫でた。
気に病むな、と宥めるように。
「それに俺は────お前になら、何をされたって構わない。拷問でも、殺人でも喜んで受け入れる」
『それくらい好きなんだ』ということを示し、俺は真白の頬に手を添える。
うんと目を細めながら。
「愛している、真白」
決して目を逸らさず、俺は真っ直ぐに想いをぶつけた。
すると、真白は即座に
「────僕も」
と、答える。
これには、俺はもちろん張本人の真白まで驚いていた。
多分、考えるよりも先に口走っていたのんだと思う。
「……そっか。だから、僕……あんなに取り乱して……」
納得したようにブツブツと独り言を呟き、真白は顔を上げる。
どこか晴れ晴れとした様子で。
「ねぇ、僕も君のことが好きだよ」
再度自分の気持ちを口にし、真白は花が綻ぶような笑みを浮かべた。
かと思えば、俺の首へ手を回してゆっくり後ろへ倒れる。
なので、こちらも必然的に前屈みの状態へ。
『なんだか、俺が真白を押し倒しているみたいだな』と感じる中、彼はゆるりと口角を上げた。
「だから、もう我慢しなくていいよ。というか、僕の方が限界────早く君で満たして」
『“待て”なんて、出来ない』と主張し、真白は俺の懐へ手を入れる。
そして、胸元・鎖骨・首筋と順番に触れていき、確実にこちらの理性を削ってきた。
『想いが通じ合っているんだから、別にいいでしょ』と態度で示す彼を前に、俺は一つ息を吐く。
出来れば、優しくしてやりたかったんだが……正直、難しいな。
これまで我慢していた反動か、それとも真白の挑発のせいか……未だ嘗てないほどの欲に駆られる。
と同時に、俺は真白の腕を掴んだ。
「途中でへばるなよ。『やめて』って言われても、もう止まれねぇーからな」
手の甲を軽く噛んで警告し、俺は覚悟を決めるよう促す。
すると、真白はうっそりと笑って
「わん♡」
と、吠えた。
ともだちにシェアしよう!