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おやすみ、檸檬

昔っから全然いうことを聞かない ただ、眠る前だけはとても素直で 力の抜けた黄色い瞳をチラリとこちらに向けて 静かに頭を寄せてくる 湿気を含んだ身体は もうすぐ満月を迎えようとしている 明るい月に照らされて 青白く光っていた さっきまで熱を存分に浸していた内側は 少しずつ、少しずつ、体温に馴染んで、 ぬくもりになって、心地良い 一つ、小さな溜息が聞こえた 顔を向けるとボサボサの白い髪が 顔を覆っている 引き締まった大ぶりの肩はまだ、 濡れて光っていた 「寝たの」 檸檬は何も言わない 寝たのかもしれない 寝てないのかもしれない 枕に頭を沈めて 天を仰いだ 両手を伸ばして掲げると 掲げると 熱が舞い戻ってくる そのまま両手で顔を覆った 手のひらの中で、息を吸った 手のひらの中で、息を吐いた 両手を退かすと 退かすと 檸檬が覆いかぶさって、 こちらを見下ろしていた うっすらと笑っている 檸檬は静かに身体を傾け 胸の上に頭を置いた 鼓動で髪が小刻みに揺れている ふふふと、小さく笑っている 「もう寝るって決めたんだから」 「眠れるの」 「眠れるよ」 檸檬を押し退けて、静かに目を閉じた 昔っから全然いうことを聞かない ただ、眠る前だけはとても素直だ もそもそとシーツの波をくぐり抜けて 静かに頭を寄せてくる おやすみ、檸檬 終わり

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