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第23話 最悪な同居のはじまりに

診断メーカーで出たお題で書きました。 あなたは1時間以内に10RTされたら、従兄弟同士の設定でお互い好きあっているが、素直になれない永川さきの、漫画または小説を書きます。 診断メーカー https//shindanmaker.com/293935# *  高校卒業後、地元から離れた隣県の大学に進学することが決まった。  別に、この大学にどうしても行きたかったわけじゃない。  目指している将来のビジョンがあるわけでもなく、憧れている教授がいるわけでもない。  その大学に決めたのは、ただ、あいつと離れたかったからだ。    あいつとは、俺こと畑中郁也の従弟――飯塚遊馬――のことだ。  俺たちは同じ年で、隣に住んでいる。  必然的に家族ぐるみの付き合いがあって、生まれた時から一緒だった。  でも、俺たちが高校一年生の秋頃、遊馬は突然、俺を避け始めた。  部活が忙しいとか、野暮用があるとか、なにかと理由をつけて避けられ、一緒にいる時間がなくなっていく。  たまに顔を合わせると、眉間に皺を寄せて顔を背けられる。 「俺、何かした?」  なぁんて、聞けるわけがなかった。  だって、心当たりがあったからだ。  それは、俺が遊馬を好きだということ。  遊馬が俺を避け始めたのは、ちょうど遊馬への好意を自覚した時期だ。  俺は感情が顔に出やすい。  言葉にしなくても、多分、俺の気持ちは遊馬に筒抜けだったんだろう。  だから、この恋は叶わない。  そう諦めて、忘れようとした。  普通の従弟として、友達として、また遊馬と過ごせたら。  だけど、心とはままならないものだ。  俺はいつまで経っても遊馬を忘れることができなかった。  それなら、離れてしまえばいい。  一番早く訪れるチャンスは、大学進学のタイミングだ。  だから、俺は遊馬が選ばないような大学で、かつ、実家を出られる隣県の大学に行くと決めた。  それなのに、俺と遊馬の進学先は同じ大学だった。  なんでなんだ?  あいつ、俺とは全然違う系統のことに興味があったはずなのに!  離れようと思った遊馬と同じ大学っていうだけでも最悪なのに、母たちはさらにでかい爆弾を落としてきた。 「思春期こじらせるのもいい加減にして。一緒の大学に行くんだから、同じ部屋に住みなさいよ。家賃も安上がりで、私たちも家計が助かる」 「そうねぇ。二人でいてくれた方が、私たちも安心だわ。頼りになる人が一緒にいるって、心強いのよ」    姉妹仲が異様に良い母たちは、互いにガン無視を決め込んでいる俺たちを、同じ部屋に住まわせることを決めてしまった。  もちろん、俺は反対した。  遊馬とは年単位で口をきいていないし、俺も遊馬も嫌がっていることを力説した。  聞けば、遊馬も嫌がっていたようだ。  でも、決定権は両親にある。  家族ぐるみの旅行がお通夜になるのはもう勘弁。  そう言って、両親たちは光の速さで進学予定の大学からほど近い2LDKを一部屋契約してしまった。  ……金を出すのは両親だ。  文句は言えない。  果たして、俺は数年間、一度も目を合わせることも、言葉を交わすこともなかった従弟と同居するはめになってしまったのだ。  そして、今日は同居初日。  両親たちが荷解きやラックなどの組み立てを手伝ってくれたから、引越当日とは思えないほど部屋が片付いている。  荷解きが終わった午後三時。  おやつを食べて一息ついた両親たちは、そそくさと荷物をまとめ、「ごゆっくり~」と言って帰っていきやがった。  なにが「ごゆっくり~」だ!  完全に面白がっているだろ、あの人たち。    静かになった部屋には、俺と遊馬が取り残された。  どんよりと気まずい空気が流れている。  ほら、同居したって俺たちの仲は修復不可能なんだよ。  遊馬を好きな俺と、俺のことが気持ち悪くて避けている遊馬。  相容れない俺たちは、平行線のまま進み続け、決して交わることはない。  でも、四年間の同居は確定してしまった。  せめて、互いに干渉しないまでも、迷惑はかけないようにしないと。 「あの、さ。せめてルール決めないか」  俺の呼びかけに答えないまま、遊馬はスマホをタプタプいじっている。 「なあ」  再度呼びかけるが、それに対する反応はない。  それどころか、面倒くさそうにため息をつかれてしまった。  その態度に、沸々と怒りが沸いてくる。  そりゃあ、初めは俺が好意を示したのが悪かったさ。  好きでもない相手に、それも同性で、従弟から好意を向けられるのは嫌だっただろう。  それは申し訳ないと思っている。    でも、不可抗力で四年間同居することになってしまった。  お互いに不本意で、不幸だ。  だからこそ、嫌な思いをしないようにルールを決めようとしているだけなのに、それさえもシカトされる。    少しの歩み寄りも感じられない態度に腹が立つ。  コントロールできない憤りの波にのまれた俺は、言わなければ平穏だったかもしれなかたのに、うっかり長年の疑問を溢してしまった。 「なあ、俺、そんなに悪いことした?」  あ、と思ったときにはもう遅い。 「俺が何したっていうんだよ。突然シカトしやがって。言いたいことがあるならはっきり言え! あと、ちょっとは歩み寄れよ。俺だってお前と四年間も同居なんて最悪なんだ!」  溢れ出た言葉を激情に任せてぶちまける。  遊馬から拒絶された悲しみと、どうしようもない環境への苛立ちと、無反応な遊馬への怒り。    感情が爆発した俺は、ぽろぽろと涙を溢す。  泣くつもりなんてなかった。  こんな情けない姿を遊馬に見られたくない。  これ以上、幻滅されたくないんだ。  どうせ、遊馬はシカトしたままで、話し合いになんてなるはずもない。  俺はさっさと自分の部屋に戻ろうと踵を返した。  それを阻んだのは、他でもない遊馬だった。 「ッな、お、おいッ……!」  俺は遊馬に腕を掴まれ、真新しく柔らかいソファに押し倒された。  数年ぶりの、遊馬からの反応。  驚きと戸惑いと嬉しさで、されるがままになっていたのが悪かった。  瞬きをした次の瞬間には、焦点が合わないくらい近くなった遊馬の顔が迫っていた。  相変わらず、眉間には皺が寄っている。  けれど、その瞳は、いつものように無感情に染まっているのではなかった。    湿り気を帯びた瞳は、熱が灯っているように揺らめいている。  まっすぐと俺を射抜く視線に、俺の心臓はびくりと跳ねた。  凝視されて、体中から火が出そうだ。  どうしよう、恥ずかしい。    我慢できなくなって視線を逸らそうとしたとき、それを阻止するように遊馬が口を開いた。 「言いたいこと? はッ……言えるわけねえだろ」  自嘲の色が揺らぐ声色。  その意味を咀嚼する前に、俺の唇に温かく柔らかいものが押し付けられた。  遊馬の、唇。  俺たち、キスしている?  え、え……ちょっと待って、なんで?  「あす……ん、う……」  遊馬の肩を押し、どういうつもりなのか問い詰めようとした。  でも、俺に覆いかぶさっている遊馬の方が、当たり前だけど力では勝っている。  どれだけもがいても遊馬の下から抜け出すことはできず、繰り返されるキスは息を奪っていく。  触れて、舐めて、吸って、噛んで。  口腔を余すことな蹂躙され、顎に唾液が伝う。  呼吸もままならないというのに、俺の体は快感を拾っていた。  だって、ずっとずっと、遊馬のことが好きだった。  諦めたくても諦められなった。  そんな遊馬とキスをしている。  嬉しくて、でも、なんでキスされているのか理解できなくて怖い。  うっすらと目を開ければ、俺をじっと見つめる遊馬と目が合った。  火傷してしまいそうな熱が伝播してきて、体が熱くなる。    不意に、熱い唇が離れていった。  与えられていた熱を失った俺は、赤く腫れぼった唇を名残り惜しく視線で追う。    もっとキスをしていたかった。  理由がわからなくても、それでもいい。  遊馬の熱が欲しかった。  俺の熱を、遊馬にもっと移したかった。  熱に浮かされた俺の気持ちなんかお構いなしに、遊馬は足早に自室に引っ込んでいってしまった。   「酷い目に遭いたくないなら、俺に近づくな」  そう、言い残して。  しんと静まり返ったリビング。  遠くからカタタン……と電車の走行音が聞こえる。  それを掻き消すほど大きく響く心臓の音。  遊馬の言葉の意味を、都合よく解釈してしまう自分がいる。  でも、都合のいい解釈が合っていたとしたら……?  胸がキュウッと悲鳴を上げている。  今にも爆発しそうな心臓を押さえて、俺はソファにうずくまった。      

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