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茶番
気分が悪い
あの一件から瞬く間に一日が経ち、次の日の登校時間になった
凄まじく重い腰を持ち上げ、気怠げに制服の袖に腕を通す
破かれたワイシャツと学ランを徹夜で縫い付け、その後自分で汚した残滓を手洗いし、ドライヤーで乾かして今に至る
昨日の帰宅後から今後のことについて、頭に血が昇るほど熟考を重ねたが、特に良い解決策は思いつかなかった
とにかく……学校には行かないと……
相澤は、決して裕福な家庭ではなかった。
現に制服も他人から譲り受けたこの一着しか持っていないので、東が散々散らかした教室を無気力なまま一人で片付けるのと、同時に弾かれたボタンも探し集め、慣れない刺繍で指を怪我させながら修復した
幸い飲んだくれの父親も昨夜は帰宅することなく朝を迎えたので、そんな家にいるよりかはマシだと考え玄関を後にした。
空は憎たらしいほど天気が良い
寝不足の体には照りつける陽の光がしつこいくらいに強く、相澤の足取りを更に重くさせる
本当は家にも学校にもいたくはない
でも折角の皆勤をこんなことで水に流すのは尚更嫌だった
成績だけが取り柄の相澤は、学校に行くしか選択肢はなかった
それに東は朝の時間から学校に来たことは無いので、昼を過ぎたら体調不良と言って少し保健室に逃げてやり過ごせばいい
そう段取りを決めて、やっとの思いで教室に着いた
俺の席は教室に入ってすぐ横の一番前にある。
そして東はあろうことか俺の後ろの席なのだ
まあ名前順で決められた席順だから仕方がないのだけど
やはり東の姿は見受けられない
このまま一日中来ないでくれと頭で念じつつ予鈴がなるのを待った
相澤が一限の教材の準備をしていると前の扉がバンッと勢いよく開く
俯いている頭の血の気が引いた
いや、まさか。そんな
頭上から今最も聞きたくない声が降りかかる
「おっはよー相澤クン」
相澤が緊張で強張り頭を上げるよりも先に周囲の声がざわめいた
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