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それはアンチヒーローか

窓の外から体育中であろう楽しそうな声が耳に響く その音がいい目覚ましになり相澤の意識を引き戻した ゆっくりと見開かれた両目は、呆然と天井を見つめる 「ここは……」 あれからどのくらい時間が経ったんだろう 「あ、もしかして起きた?えーと、相澤くんだっけ?」 カーテン越しから聞こえるのは先ほどまで東とやり取りしていた美咲先生だろう まだ覚束ない頭だったが、思い出したくもない東との情事が頭をよぎり、バッと体を奮い立たせ辺りと自身の体を見回した 俺……!あんな状況で居眠りするなんて……! 全身を必死に見渡すが、はだかれた制服はキチンと整えられ、ぶちまけた白濁も綺麗に拭き取られていた そんな……!まさかこの人が!? 血の気が引いていく。そのまま勢いよくベッドを飛び出し失礼しました!と顔も見ずに保健室を後にする 背中にえっ、ちょっと!きみ!と声が投げかけられたが、お構い無しに走り出した まだ頭痛の余韻からか意識もままらない思考だったが、これ以上授業をサボるわけにはいかないと、真面目気質が否が応でも自身の足が己の教室まで運んでいった ガラッと扉を開け、まずは時計を見やる 時刻は午後14時過ぎを指していた こんな時間まで寝ていたなんて…情けない そう思っていると次に担任と目が合った 「お、相澤もう体調大丈夫なのか?もう五限終わるけど、このまま六限まで受けるか?」 はい、大丈夫ですと軽く返事をし、自分の席の方を見る。その後ろに座るやつがニヤニヤとこちらを伺っているのは見ないフリをした 席替えをして欲しい 心底そう思う。口には出さないが代わりに深くため息をついて重い腰を椅子に下ろす 残り少ない社会の授業なんかは全く耳には入らなかった すると後ろから、俺が全部綺麗にしてやったんだからね~?感謝しろよ?と囁かれた それを聞いてまたカッと顔が熱くなったが、あの養護教諭の人は何も知らないんだと安堵するのと同時に、俺の痴態はまだ東しか知られていないという事実に複雑な気持ちになった その後何事もなく授業は進み、六限まで平穏な時間を過ごした ハァ……やっと終わった。これで帰れる そう胸を撫で下ろすのも束の間 普段からあまり鳴らない自分のスマホが忙しなく響いた

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