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「ね、ねぇ、優斗……あなた今どこに暮らしているの?もうあの人は居なくなって家も開け払ったみたいじゃない……こんな事言う資格はないかもしれないけど……また私と……」 「やーっと見つけた」 そこまで必死に言いかけた母親の言葉を遮ったのは、相澤では無くいつのまにか二人の正面に立つ東だった 「東……!?」 驚いてる相澤を他所に、東の顔は憤りを見せている 「た、拓海くん……」 母親が何故か東を下の名で呼び、更に混乱する相澤を差し置いて、東は声を荒げる 「その腹ん中の子、親父の子だろ。妊娠が分かった瞬間姿をくらませやがって……」 東のその突拍子もない発言に理解が追いつかない 母親と名乗るこの女は、東の父親と関係をもっていたのか?東と俺は、過去に面識があった……? 「もう跡取りの話なんてどうでも良いから、戻ってやってくれよ。親父はアンタが居ないと本当にどうしようもないんだよ」 まだ何も理解が追いついていなかったが、必死に説得する東を見て、これだけは確信した 東が俺に酷く執着する理由。不当な暴力に不可解な最近の行動 全部この女の人に近づくため……? …………なんか、バカらしい そうやって自身の中で完結した時、心の中がどこか苦しくなった。なんだ、この感じ この母親と語る女は、東の父親と関係があり、東はそれを知っていた……? それを知った上で、急に姿を眩ましたらしい母親を探す手段として、俺に近づいてきたのか 「本当にごめんなさい……でも、私もう秀一さんの所には……」 「もうごちゃごちゃうるせーって!良いから黙って戻ってやってくれよ!」 「おい!母さんにそんな口聞くなよ!」 母親だなんて今まで一度も思った事はないが、仮にも母親と名乗るこの人が罵倒されるのは見るに耐えなかった 俺が怒鳴ると、東はぶっきらぼうにそっぽを向く 「……拓海くん、優斗のこと嫌いじゃなくなったの……?」 「ッ!!その話は今良いから!!優斗、記憶ないんだろ?あんまり話ややこしくさせんなよ!」 もう訳が分からない 記憶をなくして、不自由に思う事はこれまでもあったが、ここまで自分に干渉してくる人は今までいなかった。 この二人が何の言い合いをしているのかがいまいち飲み込めずにいる すると、公園の外に見るからに高そうな高級外車が停まるのが目に映る

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